第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述45

管理運営3

Sat. Jun 6, 2015 8:15 AM - 9:15 AM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:薄直宏(東京女子医科大学八千代医療センター リハビリテーション室)

[O-0342] 急性期病棟における療法士病棟専従の効果

ADL維持向上等体制加算の開始前後の比較

平野明日香1, 加藤正樹1, 藤村健太1, 向野雅彦2, 加賀谷斉2, 才藤栄一2 (1.藤田保健衛生大学病院リハビリテーション部, 2.藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学I講座)

Keywords:急性期, 病棟専従, ADL維持向上等体制加算

【はじめに,目的】
当院は,高度な医療を開発・提供する特定機能病院であり,急性期のリハビリテーション(以下,リハ)に取り組んできたが,必要な患者全てにリハの提供が浸透していなかった。そこで2013年度から療法士を病棟に配置し,病棟医師,看護師と情報共有を密にすることで早期離床,早期ADL獲得など治療の効率化を図った。そして,疾患別リハ実施者においてリハ開始までの期間短縮,在院日数短縮,自宅復帰率向上など効果を得た。また,2014年度の診療報酬改定により急性期病棟におけるリハ専門職の配置に対する評価としてADL維持向上等体制加算が新設され,疾患別リハ算定者以外にも病棟療法士による病棟マネジメント業務を実践し,その効果が期待されるようになった。そこで今回,病棟に療法士を配置し,その前後で療法士病棟専従の効果を明確にするため比較検討したので報告する。
【方法】
当院呼吸器内科病棟(60床)において疾患別リハ実施者を対象とし,ADL維持向上等体制加算算定後の2014年4月1日より9月30日の間に当該病棟へ入棟した患者83例を専従群とした。また,療法士を病棟配置する前の2012年4月1日から9月30日の間に当該病棟へ入棟した患者44例を対照群とした。疾患分類は肺がん,COPD,肺炎,気胸等が多かった。療法士の病棟配置は理学療法士1名(臨床経験10年以上,認定理学療法士)を専従配置し,疾患別リハ実施者においてリハ部の患者データベースより後方視的に調査した。調査項目は在院日数,入院からリハ開始までの日数,リハ実施日数,FIM,転帰先とした。対照群と専従群で比較検討した。統計学的検討は有意水準5%とし,χ2検定,Mann-Whitney U検定,unpaired-t検定を用いた。また,疾患別リハ実施者に限らず,療法士病棟専従の効果を検証するために病棟医師,看護師にアンケート調査も行なった。取り組み内容として,入院患者に対する定期的なADL評価(入棟・退棟時を含む),ADL維持向上等を目的とした指導,転倒・転落の防止対策,患者・家族との情報共有,定期的なカンファレンスの参加などを通じて多職種恊働による治療の効率化に努めた。定期的なカンファレンスとして病棟看護師と朝・昼のカンファレンス,病棟医師・リハ科医師との週1回のカンファレンスなどを通じて治療方針の統一,早期退院支援,廃用予防,ADL向上を多職種で行なった。カンファレンス以外にも適宜必要な情報共有を行なった。
【結果】
病棟全体の患者のうちリハ実施している患者の割合は対照群20.3%,専従群50.4%と有意に増加した。疾患別リハ実施者において,在院日数は対照群44.8±34.8日,専従群28.6±18.7日,入院からリハ開始までの日数は対照群14.3±15.5日,専従群5.0±4.3日と有意に短縮した。自宅復帰率は対照群77.3%,専従群80.7%であった。リハ実施日数は対照群30.5±24.2日,専従群23.6±16.2日であった。リハ開始時FIM総合計は対照群83.5±27.8点,専従群80.3±30.4点,リハ終了時FIM総合計は対照群96.7±26.4点,専従群96.0±29.4点,FIM効率は対照群0.49±0.66,専従群0.63±0.83であった。また,病棟全体の患者において,ADL維持向上等体制加算算定後はADL低下率が2.1%,褥創発生率0%であった。そして,病棟医師,看護師対象のアンケート調査から,療法士の病棟専従によって情報共有がし易くなった,在宅へ向けた指導がし易くなった,廃用による体力低下の防止ができた,ADL能力の回復が早くなった,リハ内容が把握し易くなったなどの意見が多数みられた。
【考察】
取り組みによって新規入院患者の把握による早期リハの開始,ADL維持向上の実施,状態変化者の把握による患者の安全管理の実施,状態にあわせて早期離床,早期退院,自宅復帰推進等ができたと考えられた。以上から療法士の病棟専従により,病棟医師,看護師との効率的連携が生まれ,疾患別リハ実施割合の向上,在院日数短縮,自宅復帰率の向上などに繋がったと考えられた。

【理学療法学研究としての意義】
2014年度の診療報酬改定によりADL維持向上等体制加算が新設され,今までの疾患別リハのみならず,病棟マネジメント業務まで幅広く行なうようになった。今回の取り組みを通じて,リハに対する認知度が向上し,入院早期からリハ開始,在院日数短縮などの効果がみられた。さらに,現時点ではADL維持向上等体制加算を実施するための取り組みに対する細かな規定はないため,今回の研究で一つの指標を示すことができたと考えられる。引き続き急性期リハの効果,実際の取り組み内容の指標が明確になるように検討していく。