第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述46

生体評価学1

Sat. Jun 6, 2015 8:15 AM - 9:15 AM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:松原貴子(日本福祉大学 健康科学部)

[O-0347] 他動運動時の運動範囲および運動速度が体性感覚誘発磁界に及ぼす影響

菅原和広1, 大西秀明1, 山代幸哉1, 小丹晋一1, 宮口翔太1, 小島翔1, 椿淳裕1, 田巻弘之1, 白水洋史2, 亀山茂樹2 (1.新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所, 2.独立行政法人国立病院機構西新潟中央病院脳神経外科)

Keywords:脳磁図, 他動運動, 求心性入力

【はじめに】

他動運動は運動療法の中でも実施頻度が高く,これまで多くの研究が行われてきた。非侵襲的脳活動計測機器の一つである脳磁界計測装置(MEG)を用いて他動運動時の大脳皮質活動を計測すると,関節運動後に3つのピーク(PM 1,PM 2,PM 3)を示す波形が観察される(Alary F et al, 2001)。これまで我々は,関節運動後30 msから60 msに観察されるPM 1が一次運動野の活動を反映していること(Onishi H et al, 2013)や,関節運動後120 ms~180 msに観察されるPM 3は関節運動範囲によって振幅値が変動することを明らかにした(菅原ら,第49回日本理学療法学術大会)。しかし,PM 3を発生させている脳活動部位については未だ明らかになっていない。そこで本研究では他動運動後に観察されるPM 3の特徴をさらに明らかにすることを目的として,他動運動速度および運動範囲を変化させ調査を行った。
【方法】

対象は健常成人男性12名(24.4±5.0歳)であった。306 ch・MEG装置と運動範囲および運動速度を制御することが可能な他動運動装置を用い,運動課題は右示指伸展他動運動とした。他動運動条件は,運動速度を300 mm/s,示指伸展拳上範囲を50 mmとしたHigh speed・Normal range条件(HN条件),運動速度を300 mm/s,拳上範囲を25 mmとしたHigh speed・Small range条件(HS条件),運動速度を150 mm/s,拳上範囲を25 mmとしたLow speed・Small range条件(LS条件)の3課題を設定した。他動運動により得られた脳磁界反応の解析は関節運動開始を加算平均のトリガーとした。各条件で45回以上の加算平均を行い,得られた脳磁界反応のRoot Sum Squareを算出し,PM 1,PM 2,PM 3のpeak潜時と振幅値,電流発生源を解析対象とした。大脳皮質の活動部位を示す電流発生源推定には,等価電流双極子(Equivalent Current Dipole;ECD)を用い,各波形成分のpeakにてECDを算出し,goodness of fit値が80%以上のものを選択した。統計処理はpeak潜時と振幅値を各条件間でTukey HSDを用いて比較した。



【結果】

他動運動開始から終了までの時間はHS条件では83 ms,HN条件およびLS条件では166 msであった。PM1,PM2,PM3のpeak潜時をみると,PM 1(HN条件,40.9±3.6 ms;HS条件,42.2±3.6 ms;LS条件,36.7±3.4 ms),PM 2(HN条件,72.4±5.1 ms;HS条件,79.5±6.9 ms;LS条件,72.2±2.3 ms),PM 3(HN条件,159.4±8.0 ms;HS条件,153.0±3.9 ms;LS条件,153.7±8.3 ms)であり,各条件間で有意な差は認められなかった。各波形成分の振幅値はPM 1およびPM 2においては各条件間で有意な差は認められなかったが,PM 3の振幅値においては,HS条件(75.3±10.8 fT/cm)がHN条件(36.8±4.7 fT/cm),LS条件(38.2±7.7 fT/cm)と比較して有意に大きな値を示した(p<0.05)。HS条件においてはPM 1のECDは一次運動野に推定され,PM 3のECDは一次体性感覚野に推定された。HN条件とLS条件においてはPM 1のECDは一次運動野に推定されたが,PM3のECDを算出した際のgoodness of fit値は80%以下であり,ECDの位置を算出することが困難であった。



【考察】

HS条件では関節運動開始後83 msまで示指伸展運動が継続しており,HN条件およびLS条件では166 msまで示指伸展運動が継続していた。他動運動開始直後の一次運動野の活動は,拮抗筋の筋紡錘からの求心性入力によって生じ,他動運動後約200 msまで継続することが報告されている。HS条件はHN条件およびLS条件に比較し拮抗筋の伸張時間が短いため,筋紡錘からの求心性入力時間が短縮し,それに伴い一次運動野の活動時間が短縮していたと考えられる。先行研究において,皮膚触覚刺激後約133.0 msに一次体性感覚野の活動が観察されることが報告されている(Onishi, et al. 2010)。本研究では,HS条件におけるPM 3の潜時は153.0±3.9 msであり,その電流発生源は一次体性感覚野に位置した。以上のことから,PM 3は関節運動時に生じる皮膚感覚入力を反映しており,HS条件におけるPM 3の振幅値の増大は一次体性感覚野の活動が一次運動野の活動に阻害されなくなったためであると考えられる。



【理学療法学研究としての意義】

本研究は他動運動の運動範囲と運動速度を変化させることで,大脳皮質活動が異なることを明らかにすることができた。この結果は,理学療法場面で頻回に用いられる他動運動が大脳皮質活動に与える影響を解明するための一助と成り得ると考えられる。