第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述46

生体評価学1

2015年6月6日(土) 08:15 〜 09:15 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:松原貴子(日本福祉大学 健康科学部)

[O-0349] 健常若年者における主観的視覚垂直と閉眼及び開眼位の主観的身体垂直の測定の信頼性と垂直パラメータの差異についての検討

深田和浩1,2, 網本和2, 藤野雄次1,2, 井上真秀1, 蓮田有莉1, 高石真二郎1, 牧田茂1, 高橋秀寿1 (1.埼玉医科大学国際医療センター, 2.首都大学東京大学院)

キーワード:健常若年者, 垂直性, 信頼性

【はじめに】
ヒトは重力環境下において視覚系,体性感覚系,前庭系の情報を統合し身体を垂直に定位しているが,脳損傷例ではこのシステムの障害により垂直性が変容することが報告されている。垂直性の評価として主観的視覚垂直(Subjective Visual Vertical:SVV)や主観的身体垂直(Subjective Postural Vertical:SPV)がある。SVVは,暗室で回転する視覚指標を定位する課題であり,半側無視例では麻痺側に偏倚し,バランス指標やADLの低下との関連性も指摘されている。一方SPVは,閉眼位で自己の身体を垂直に定位する課題であり,特にPusher現象の生起メカニズムとの関連性が示唆されている。しかし,Pusher現象例においてSPVは,非麻痺側または麻痺側に偏倚していたとする双方の報告があり,一定の見解は得られてない。またKarnathらは開眼条件(Eyes Open)のSPV(SPV-EO)をSVVと同質のものとして用いているが,通常のSVVの測定とは異なるため,これらの垂直判断のメカニズムが同一のものであるかは不明である。さらに,これまでの測定は大がかりな測定機器や環境設定が必要であり,重症度の高い急性期の現場では臨床的な汎用性は低いことが問題視されてきた。そこで我々は,簡易にSVVが測定可能なプログラムとSPV-EO及びSPVが測定可能な垂直認知測定機器(Vertical Board:VB)を開発し,健常若年者における測定の信頼性と垂直パラメータの差異について検討することを目的とした。
【方法】
対象は,測定に影響を及ぼすような神経疾患及び骨関節疾患の既往や視力障害がない(矯正は可)健常若年者12例(全例右利き,男性6例/女性6例,年齢24.0±1.4歳)とした。SVVの測定では,対象者は足底接地の座位となり,パソコン画面に設置された円柱状の筒を通して視覚指標を注視した。検者は水平位に傾けた位置(開始位置)から垂直方向へ視覚指標を回転させ,対象者が主観的に垂直だと判断した時点で垂直位からの偏倚量を記録した。回転の速度は3°/秒(SVV3°)と5°/秒(SVV5°)の2条件で実施し,手順はABBABAAB法を用いそれぞれ8回測定した。SPVの測定では,対象者は台の底に半円状のレールを取り付けられた座面上に足底非接地の座位となり,両上肢を胸の前で組んだ状態で実施した。2名の検者が座面を左右に15°と20°傾けた位置から1.5°/秒の速さで垂直方向へ回転させ,対象者が主観的に垂直だと判断した時点で座面の傾きをデジタル角度計から記録した。手順は,開始位置と角度がpseudo-randomとなるようABBABAAB法を用いそれぞれ8回測定した。SPV-EOは開眼条件,SPVは閉眼条件とした。角度は鉛直位を0°,時計回りをプラス,反時計回りをマイナスと定義し,解析には8回の平均値を用いた。測定の信頼性を検討するために1週間後に再測定した。信頼性は級内相関係数ICC(1,1)を用い,測定誤差は最小可検変化量(MDC)の95%信頼区間(MDC95)から算出した。また垂直パラメータの差異について,8回の平均値を傾斜方向性,標準偏差を動揺性と定義し,それぞれSVVとSPV-EOとSPVの比較を反復測定の一元配置分散分析と多重比較検定(Bonferroni法)を用いて検討した。統計ソフトはPASWver18を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
ICC(1,1)は,SVV3°が0.874(95%IC:0.616-0.694),SVV5°が0.929(95%IC:0.783-0.979),SPV-EOが0.764(95%IC:0.386-0.957),SPVが0.736(95%IC:0.352-0.910)であった。MDC95は同順に0.8°,0.7°,0.7°,0.7°であった。傾斜方向性は,SVV3°,SVV5°,SPV-EO,SPVで順に-0.1°,0°,0.7°,0.1°であり主効果はなかった。動揺性は,同順に1.2°,0.9°,2.4°,2.6°であり主効果を認めた(P<0.05)。多重比較検定の結果,SPV-EOとSPVはSVV3°,SVV5°と比較して動揺性が有意に高値を示した(P<0.05)。
【考察】
Landisらの報告に基づくとICC(1,1)は十分~非常に良好であり,測定誤差も明らかになったことから,今後垂直性の継時的変化や治療効果の判定における臨床応用が可能であることが示唆された。また動揺性については,SPV-EOとSPVにおいて動揺性が有意に高値を示した。これは,SVVは視覚系の情報が主であるのに対し,SPV-EOとSPVでは座面が傾斜するため,頸部の傾きや殿部などの体性感覚系の情報を統合して真の垂直性を判断するために,課題の難易度が増加し垂直性の認知に影響を及ぼしたことが推察される。
【理学療法学研究としての意義】
簡易的な垂直性の測定方法の確立と健常者の垂直性の特性を明らかにすることで,今後脳損傷例における垂直性を検討するうえで有用な指標となりうる。