第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述46

生体評価学1

2015年6月6日(土) 08:15 〜 09:15 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:松原貴子(日本福祉大学 健康科学部)

[O-0350] 組織硬度計を用いた痙縮筋検査における被験者間比較の検討

―大腿部筋硬度の左右差・左右比における検討―

諸角一記1, 市川富啓2, 杉本淳2, 小形洋悦1, 森下勝行1, 橋本雅郎1, 烏野大1, 花岡正明1 (1.郡山健康科学専門学校, 2.八王子保健生活協同組合城山病院)

キーワード:組織硬度計, 痙縮筋評価, 被験者間比較

【目的】
我々は,これまでに組織硬度計を用いた痙縮筋評価に関して,高齢者群と痙性麻痺患者群(患者群)における大腿部筋硬度(筋硬度)の比較や,患者群におけるModified Ashworth Scale(MAS),Brunnstrom Stage(Br Stage),Pendulum Test(P-T)などとの関係性について報告した。その結果,筋硬度は高齢者群に対して患者群が有意(p<0.01)に高く,痙縮筋硬度とMASやP-T間で有意(p<0.01)な相関関係が認められた。それらの結果から,組織硬度計による痙縮筋量的評価の可能性について述べることが出来た。今回は,組織硬度計による痙縮筋評価における被験者間比較の方法とその課題について検討した。
【方法】
患者群11名(女性2名,男性9名)は,脳梗塞10名,くも膜下出血1名で(右片麻痺7名,左片麻痺4名),平均年齢74歳(69-82歳),平均身長(標準偏差)161.5cm(±5.3),平均体重62.3kg(±10.1)。障害程度は,Br Stage3-8名,Stage4-3名,MASでは,0:3名,1:5名,1+:3名を対象とした。健常成人群(健常群)は,男性13名,平均年齢27歳(23-34歳),平均身長172.1cm(±6.5),平均体重66.4kg(±10.0)を対象とした。筋硬度の測定は組織硬度計(伊藤超短波社製)を用い,測定肢位は体幹10度屈曲位のセミファーラー位で,下腿以下を膝関節90度屈曲下垂位で,左右両側大腿直筋と体幹中心臍上5cm部の硬度を3回測定し加算平均した。測定結果の比較は,患者群および健常群における左右差を比較した。さらに,左右硬度比(患者群:麻痺側/非麻痺側以下AER,健常群:軸足/利き足以後RLR),左右それぞれ大腿部と臍上5cm部硬度の比(大腿部/臍部 以下FBR),大腿部硬度体脂肪率調整値(大腿部硬度×体脂肪率/100以下FFM)を算出し比較した。統計処理にはSPSS for Windowsを用いた。筋硬度およびFBR,FFMの被験者内左右比較には対応のあるt-test,患者群と健常群間の比較には対応のないt-testを用いた。いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
1.患者群11名における麻痺側硬度(平均±SD,43.5±9.5%)と非麻痺側硬度(39.8±5.7%)の比較では有意差(p=0.07)は認められなかった。
2.患者群11名のうち,体脂肪率37.6%の者と,毎日1時間および2km以上歩行する運動習慣があり非麻痺側大腿部周径が麻痺側より2.5cm大きい者の計2名を除外し再検討を行った。その結果,麻痺側と非麻痺側の筋硬度やFBRおよびFFMは麻痺側が有意(p<0.01)に高かった。
3.健常群の左右比較では,右筋硬度(37.8±3.3%)と左筋硬度(38.5±4.2%)と,FBRおよびFFMにおいて有意差は認められなかった。
4.左右硬度比(患者群:AER,健常群:RLR)の患者群と健常群の比較では,患者群が有意(p<0.05)に高かった。
【考察】
1.体脂肪率が高い者と毎日の運動習慣があり非麻痺側大腿周径の大きい者を除いた9名の患者における麻痺側と非麻痺側筋硬度の比較では,麻痺側筋硬度が有意に高く痙縮筋の筋緊張の影響と考える。これら9名の患者においては,FBRとFFM両項目ともに麻痺側が有意に高く,筋緊張の違いが表現できていたものと考える。しかしながら,患者群11名における比較では有意な差が認められず,痙縮筋の筋緊張評価を行う際は,筋硬度に影響する体脂肪や筋力,筋肥大の程度などを考慮する必要性が示唆された。
2.患者群における個体差による筋硬度の変動を軽減するための調整として,FBR,FFM,AERを用いた。今回の結果から,これらの使用の有用性が示唆された。しかし,片麻痺患者などは麻痺の影響で左右の運動量に差が生じ,その影響で四肢の体脂肪量や筋量にも差があり,身体全体の体脂肪率などから単純に変動を調整することは難しく,今後の検討課題である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究から,組織硬度計で痙縮筋の筋硬度を測定し筋緊張変化量を評価する時の考慮すべき課題が明らかになった。ハンドヘルド筋力計による筋力測定値の個体間比較では,体重やレバーアーム長で調整する。組織硬度計による筋硬度や筋緊張量の被験者間比較でも類似した個体差による変動を調整する必要があり,今後さらに詳細な検討を進める必要性が考えられた。