[O-0360] 8週間の関節不動後の自由飼育が関節軟骨に与える影響
~嚢胞様軟骨変性像の形成過程に関する報告~
Keywords:関節軟骨, 軟骨変性, 不動
【はじめに,目的】
関節の不動は,関節構成体にさまざまな影響を及ぼすことが知られている。なかでも関節軟骨は自己修復能に乏しいため変性を予防することが重要であり,予防的戦略を構築するためにも関節の不動化が軟骨に及ぼす病態について理解することは極めて重要である。軟骨の基質成分は主に,軟骨の骨格的役割を果たす2型コラーゲンと,衝撃吸収の役割を果たす基質内の保水に関わるプロテオグリカンがあり,それらの割合は不動に伴い変化することが知られている(Caterson 1987)。我々は2014年同学術大会において,8週間膝関節を不動化させたラットに対し8週間不動解除を行うと,軟骨同士の接触部の周辺領域において,不動解除2,4週では見られなかった嚢胞様の変性像が確認されたことを報告した。しかし,不動解除5週以降の期間における検討はなされていない。よって,本研究では前回の結果を踏まえ,不動解除5~8週期間について解析することで,どの時点から,またどのような過程で顕著な変性像に至るかを明らかにすることを目的とし,病理組織学的手法を用いて実験を行った。
【方法】
対象は12週齢のWistar系雄ラットを用いた。実験群の左膝関節をK-wireとレジンを用いた創外固定により膝関節屈曲140±5度で8週間固定を行った後,固定具を除去し不動解除期間ごとに,5,6,7,8週間の4グループ(n=5/group)に分けた。対照群(n=5/group)は固定せず左下肢にK-wireのみを挿入し実験群と同一期間の介入を行った。実験期間終了後に摘出した膝関節に対しHE染色・サフラニンO(以下,SO)染色を行い光学顕微鏡下で観察した。観察部位は左膝関節脛骨内側中央部矢状面とし,評価部位は,本実験群において著明な変性像が確認された領域を計測し特定した接触部前方周辺部(以下,周辺部)とした。軟骨変性評価はModified Mankin’s scoreを用いた。同スコアのサブカテゴリーを用いて,基質の染色性低下度合いを示すSO染色性と免疫組織化学的分析による抗2型コラーゲンの染色性について,タイドマークを境とした非石灰化層(以下,上層)と石灰化層(以下,下層)についてそれぞれ検討した。軟骨変性評価とSO染色性はノンパラメトリック手法を,抗2型コラーゲンの染色性についてはパラメトリック手法を用い,統計解析の有意水準は5%とした。
【結果】
全時系列の中で不動解除8週群でのみ,5例中4例で嚢胞様の軟骨変性像が確認された。嚢胞様変性像はタイドマークより上層に限局し,同層では8週に至るまで経時的に軟骨細胞の脱核所見や核染色性の低下した細胞が多く見られるようになったが,タイドマークより下層では正常な有核細胞が観察された。対照群では変性所見は観察されなかった。軟骨変性評価では,全時点において実験群は,対照群と比較して悪化したが(p<0.01),不動解除期間延長に伴う軟骨変性評価スコアの増加は見られなかった。SO染色性評価では,全時点において実験群は対照群と比較して上下層ともに悪化した(p<0.05)。経時変化では,有意差は見られなかったものの実験群において6週以降から上下層ともに染色性低下がみられた。抗II型コラーゲンの染色性では,実験期間中通じて対照群と実験群の間で有意な差は見られず,両群において不動解除期間延長に伴う変化は見られなかった。
【考察】
嚢胞様変性像は不動期間と同期間の不動解除を行った8週群でのみ見られ,それ以前の不動解除期間では観察されなかった。軟骨基質では非石灰化層において,変性した核を有する細胞の出現を経時的に多数認めただけでなく,SO染色性が6週以降全層的に低下傾向であったことから,実験群における軟骨基質の質は6~8週にかけて悪化していたと考えられた。また同部には不動解除に伴う剪断力などのメカニカルストレスがかかっていることが予測される。つまり,細胞変性や基質低下にともなって質が低下し脆弱となった軟骨基質に対し継続的なメカニカルストレスが加わり,何らかの閾値をこえることで不動解除後8週においてみられた急激な変性所見の出現につながったと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,不動後の自由運動によって生じる局所的な嚢胞様変性所見は,脆弱な軟骨に対するメカニカルストレスが関与している可能性を示唆した。本研究は,関節不動後の関節軟骨に対する自由運動介入が軟骨変性を引き起こす際のメカニズムの理解に加え,変性予防や介入負荷量調整の根拠につながると考えられる。
関節の不動は,関節構成体にさまざまな影響を及ぼすことが知られている。なかでも関節軟骨は自己修復能に乏しいため変性を予防することが重要であり,予防的戦略を構築するためにも関節の不動化が軟骨に及ぼす病態について理解することは極めて重要である。軟骨の基質成分は主に,軟骨の骨格的役割を果たす2型コラーゲンと,衝撃吸収の役割を果たす基質内の保水に関わるプロテオグリカンがあり,それらの割合は不動に伴い変化することが知られている(Caterson 1987)。我々は2014年同学術大会において,8週間膝関節を不動化させたラットに対し8週間不動解除を行うと,軟骨同士の接触部の周辺領域において,不動解除2,4週では見られなかった嚢胞様の変性像が確認されたことを報告した。しかし,不動解除5週以降の期間における検討はなされていない。よって,本研究では前回の結果を踏まえ,不動解除5~8週期間について解析することで,どの時点から,またどのような過程で顕著な変性像に至るかを明らかにすることを目的とし,病理組織学的手法を用いて実験を行った。
【方法】
対象は12週齢のWistar系雄ラットを用いた。実験群の左膝関節をK-wireとレジンを用いた創外固定により膝関節屈曲140±5度で8週間固定を行った後,固定具を除去し不動解除期間ごとに,5,6,7,8週間の4グループ(n=5/group)に分けた。対照群(n=5/group)は固定せず左下肢にK-wireのみを挿入し実験群と同一期間の介入を行った。実験期間終了後に摘出した膝関節に対しHE染色・サフラニンO(以下,SO)染色を行い光学顕微鏡下で観察した。観察部位は左膝関節脛骨内側中央部矢状面とし,評価部位は,本実験群において著明な変性像が確認された領域を計測し特定した接触部前方周辺部(以下,周辺部)とした。軟骨変性評価はModified Mankin’s scoreを用いた。同スコアのサブカテゴリーを用いて,基質の染色性低下度合いを示すSO染色性と免疫組織化学的分析による抗2型コラーゲンの染色性について,タイドマークを境とした非石灰化層(以下,上層)と石灰化層(以下,下層)についてそれぞれ検討した。軟骨変性評価とSO染色性はノンパラメトリック手法を,抗2型コラーゲンの染色性についてはパラメトリック手法を用い,統計解析の有意水準は5%とした。
【結果】
全時系列の中で不動解除8週群でのみ,5例中4例で嚢胞様の軟骨変性像が確認された。嚢胞様変性像はタイドマークより上層に限局し,同層では8週に至るまで経時的に軟骨細胞の脱核所見や核染色性の低下した細胞が多く見られるようになったが,タイドマークより下層では正常な有核細胞が観察された。対照群では変性所見は観察されなかった。軟骨変性評価では,全時点において実験群は,対照群と比較して悪化したが(p<0.01),不動解除期間延長に伴う軟骨変性評価スコアの増加は見られなかった。SO染色性評価では,全時点において実験群は対照群と比較して上下層ともに悪化した(p<0.05)。経時変化では,有意差は見られなかったものの実験群において6週以降から上下層ともに染色性低下がみられた。抗II型コラーゲンの染色性では,実験期間中通じて対照群と実験群の間で有意な差は見られず,両群において不動解除期間延長に伴う変化は見られなかった。
【考察】
嚢胞様変性像は不動期間と同期間の不動解除を行った8週群でのみ見られ,それ以前の不動解除期間では観察されなかった。軟骨基質では非石灰化層において,変性した核を有する細胞の出現を経時的に多数認めただけでなく,SO染色性が6週以降全層的に低下傾向であったことから,実験群における軟骨基質の質は6~8週にかけて悪化していたと考えられた。また同部には不動解除に伴う剪断力などのメカニカルストレスがかかっていることが予測される。つまり,細胞変性や基質低下にともなって質が低下し脆弱となった軟骨基質に対し継続的なメカニカルストレスが加わり,何らかの閾値をこえることで不動解除後8週においてみられた急激な変性所見の出現につながったと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,不動後の自由運動によって生じる局所的な嚢胞様変性所見は,脆弱な軟骨に対するメカニカルストレスが関与している可能性を示唆した。本研究は,関節不動後の関節軟骨に対する自由運動介入が軟骨変性を引き起こす際のメカニズムの理解に加え,変性予防や介入負荷量調整の根拠につながると考えられる。