第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述47

人体構造・機能情報学1

2015年6月6日(土) 10:15 〜 11:15 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:坂本美喜(北里大学 医療衛生学部 理学療法学専攻)

[O-0362] 低温サウナによるプレコンディショニングはシスプラチン誘発性腎症を抑制する

中村智明1,2, 岩下佳弘1, 村上賢治1, 林田千夏子1, 渡孝輔1, 鮫島隼人3, 坂本美沙季3, 松相亜利砂3, 大脇秀一2, 與座嘉康1, 飯山準一1 (1.熊本保健科学大学大学院健康保健学科リハビリテーション領域, 2.朝日野会朝日野総合病院, 3.熊本保健科学大学保健科学部リハビリテーション学科)

キーワード:シスプラチン腎症, プレコンディショニング, 低温サウナ

【はじめに】
シスプラチン(CDDP)は抗悪性腫瘍薬として広く臨床に用いられている。しかし,CDDPの高用量投与を受けた患者の4割以上に血中クレアチニン値の上昇が確認されており,CDDPの高用量使用は規制されている。ラットを用いたCDDP投与実験では,クレアチニンクリアランスの低下,血中尿素窒素(BUN),尿中アルブミン値の上昇など腎機能の低下が報告されている。CDDP誘発性腎障害の予防対策として輸液療法が併用されるが,その効果は不確実だという報告もある。我々はこれまでの実験で,深部体温を約2℃上昇させる低温サウナ(LTS)が5/6腎摘除マウスモデルの腎保護に作用することを報告してきた。今回,CDDP誘発性腎障害モデルマウスへのLTS療法の効果を検証した。
【方法】
BALB/c系統の雄性マウス(20~26kg,11週齢)21匹を実験動物として使用した。無作為にCDDP投与群(n-CDDP,n=7),LTSにCDDP投与した群(s-CDDP,n=7),コントロール群(NC,n=5)の3群に分けた。LTSはCDDP投与の6時間前に施行した。s-CDDPマウスには,LTSによる水分損失の影響を抑えるためLTS直前に生理食塩水(3%体重,37℃)を腹腔内投与した。LTSには電熱式加温装置を使用し,39℃で15分間加温し,その後35℃で20分保温した。全てのマウスの体重はLTS前後で測定された。CDDP(20mg/mL)はLTSから6時間後に腹腔内投与した。コントロールにはリン酸緩衝生理食塩水を投与した。マウスを代謝ケージで48時間飼育した後,十分な麻酔下で血液と腎臓を採取した。この時点でn-CDDPの1匹に死亡が確認された。腎機能障害マーカーである血清クレアチニン(Cr)と尿素窒素(BUN)は自動分析装置で測定された。統計解析は,2群間比較に,ウェルチのt検定またはマン・ホイットニーのU検定を,多群間比較に一元配置分散分析を行った。
【結果】
LTS後の各群の体重に有意差は認められなかった(NC:25.4±0.7g,n-CDDP:25.4±1.0g,s-CDDP:25.3±1.0g)。実験終了時のCrは,n-CDDPに対してs-CDDPで有意に減少した(n-CDDP:0.4±0.6,s-CDDP:0.2±0.4,P<0.05)。BUNにおいても,n-CDDPに対してs-CDDPで有意に減少した(n-CDDP:68.9±8.3,s-CDDP:32.8±5.7,P<0.05)。
【考察】
CDDPは容量依存的に腎障害を合併するため,高容量投与は不適である。CDDPの抗癌作用力の観点からLTSを介入させるタイミングを検討した報告はある。それによるとCDDP投与とLTSは同時が最も高い抗癌作用を示したが,腎障害マーカーも最高値を示した。今回の我々の研究は,LTSをプレコンディショニングとして用いCDDP投与による腎障害を軽減させる世界初の試みであったと思われる。結果は,有意に腎障害マーカーを軽減させた。この結果はLTSがCDDP誘発性腎症を抑制できることを示唆している。CDDP誘発性腎症は酸化ストレスを上流としたネクローシスなどが原因と考えられている。LTSは熱ストレスタンパクの発現を促進させることが既知であることから,おそらく熱ストレスタンパクが抗酸化力を高めることで腎耐性につながったと推察される。現在,作用機序を検討するための実験を進めている。
【理学療法学研究としての意義】
CDDPに伴う腎障害予防には,水負荷を併用しCDDPを早期に体外へ排泄させることで対処してきた。我々は温熱によってCDDP誘発性腎症を抑えることができたという結果を示したことにより,温熱療法の適応を広げることができると信じている。