[O-0363] 2型糖尿病ラットの膝窩静脈ではα1受容体の収縮機能が減弱する
キーワード:膝窩動脈・静脈, αアドレナリン受容体, 糖尿病
【はじめに,目的】
交感神経から遊離するノルアドレナリンはα1-アドレナリン受容体(α1-AR)活性化により,血管を収縮させる。ヒト血管におけるα1-ARの発現量や機能は,加齢やある種の循環器疾患で変化する。例えば,α1A-AR活性化による血管の収縮能は,ヒト重症下肢虚血疾患で亢進する。また,糖尿病では,下肢骨格筋動脈の内皮細胞の一酸化窒素(NO)や内皮由来膜過分極因子(EDHF)の機能が減少するとともに,平滑筋細胞α1-ARの収縮機能が変化する可能性が報告されている。一方,下肢骨格筋静脈の内皮機能や平滑筋細胞α1-ARの機能変化と糖尿病の関係は明らかではない。これらを明らかにすることは,糖尿病患者のQOL向上のためのリハビリテーション療法を考える上で極めて重要である。我々は,ヒトに類似した2型糖尿病のモデル動物であるOLETFラットとそのコントロール動物であるLETOラットを用いて,糖尿病と下肢骨格筋動脈と静脈(膝窩動脈と膝窩静脈)の内皮機能および平滑筋α1-ARの機能変化について検討した。
【方法】
50~65週齢(糖尿病の後期ステージ)のOLETFおよびLETOラットより膝窩動脈と静脈を採取し,輪状血管内皮温存標本を作成した。37℃に保温し,かつ,95% O2+5% CO2を通気したクレブス溶液(5 μMグアネチジンと3 μMジクロフェナク含有)中で血管標本の等尺性張力を測定した。最初に,高K+(70 mM)溶液による収縮反応を記録し,その後,a1-ARアゴニストであるフェニレフリン(PE:10 nM~30 mM)の濃度依存性反応を記録した。さらに,標本に一酸化窒素(NO)合成酵素阻害薬であるL-NG-ニトロアルギニン(L-NNA:0.1 mM)を1時間処理し,高K+-収縮とPEの濃度依存性収縮を記録した。
【結果】
体重はLETOラット>OLETFラットであり(P<0.01),血糖値とHbA1CはOLETFラット>LETOラットであった(P<0.05)。高K+とPE(10 μM)は膝窩動脈と静脈をともに収縮させた。それぞれの刺激による最大収縮の大きさは,膝窩静脈<膝窩動脈(P<0.001)であり,両反応はL-NNAでともに増大した(P<0.001)。膝窩動脈と静脈での高K+-収縮は,LETOラット=OLETFラットであった。一方,膝窩動脈でのPE-収縮はLETOラット=OLETFラットであったが,膝窩静脈のPE-収縮はL-NNA存在(P<0.01)および非存在下(P<0.001)で,LETOラット>OLETFラットであった。
【考察】
第48回と第49回学術大会において,ラット膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋でのα1-ARアゴニストによる収縮に関与しているα1-ARサブタイプは相違していることを報告した。本研究で我々は。2型糖尿病モデルOLETFラットでのPEによる収縮反応性が膝窩動脈では変化しないが,膝窩静脈では減弱することを明らかにした。さらに,このPE-収縮の反応性変化はL-NNAによって影響されなかったことより,膝窩静脈の平滑筋細胞α1受容体を介した収縮反応は選択的にダウンレギュレーションされることを明らかにした。また,高K+-収縮とPE-収縮はL-NNAによって増加し,その増加程度がLETOとOLETFラットで同程度であったことより,糖尿病後期のOLETFラット膝窩動脈・静脈では,内皮細胞からNOが自発性に遊離し,非糖尿病ラットと同程度に収縮を抑制している可能性も明らかとなった。これらの結果は,糖尿病後期ステージにあるOLETFラットの膝窩静脈の平滑筋細胞では,動脈の場合とは異なり,収縮に関与するα1-ARの機能が選択的にダウンレギュレートされる可能性が明らかとなった。しかしながら,2型糖尿病における骨格筋静脈のα1-ARの機能異常と下肢骨格筋血流異常との関連は明らかでない。今後の検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
リハビリテーションによる身体構造・機能の向上を考えていく上で,病態における下肢骨格筋の血管のトーヌス調節機序を理解することは重要であると考えられ,本研究成果はその基礎的知見を提供するものである。
交感神経から遊離するノルアドレナリンはα1-アドレナリン受容体(α1-AR)活性化により,血管を収縮させる。ヒト血管におけるα1-ARの発現量や機能は,加齢やある種の循環器疾患で変化する。例えば,α1A-AR活性化による血管の収縮能は,ヒト重症下肢虚血疾患で亢進する。また,糖尿病では,下肢骨格筋動脈の内皮細胞の一酸化窒素(NO)や内皮由来膜過分極因子(EDHF)の機能が減少するとともに,平滑筋細胞α1-ARの収縮機能が変化する可能性が報告されている。一方,下肢骨格筋静脈の内皮機能や平滑筋細胞α1-ARの機能変化と糖尿病の関係は明らかではない。これらを明らかにすることは,糖尿病患者のQOL向上のためのリハビリテーション療法を考える上で極めて重要である。我々は,ヒトに類似した2型糖尿病のモデル動物であるOLETFラットとそのコントロール動物であるLETOラットを用いて,糖尿病と下肢骨格筋動脈と静脈(膝窩動脈と膝窩静脈)の内皮機能および平滑筋α1-ARの機能変化について検討した。
【方法】
50~65週齢(糖尿病の後期ステージ)のOLETFおよびLETOラットより膝窩動脈と静脈を採取し,輪状血管内皮温存標本を作成した。37℃に保温し,かつ,95% O2+5% CO2を通気したクレブス溶液(5 μMグアネチジンと3 μMジクロフェナク含有)中で血管標本の等尺性張力を測定した。最初に,高K+(70 mM)溶液による収縮反応を記録し,その後,a1-ARアゴニストであるフェニレフリン(PE:10 nM~30 mM)の濃度依存性反応を記録した。さらに,標本に一酸化窒素(NO)合成酵素阻害薬であるL-NG-ニトロアルギニン(L-NNA:0.1 mM)を1時間処理し,高K+-収縮とPEの濃度依存性収縮を記録した。
【結果】
体重はLETOラット>OLETFラットであり(P<0.01),血糖値とHbA1CはOLETFラット>LETOラットであった(P<0.05)。高K+とPE(10 μM)は膝窩動脈と静脈をともに収縮させた。それぞれの刺激による最大収縮の大きさは,膝窩静脈<膝窩動脈(P<0.001)であり,両反応はL-NNAでともに増大した(P<0.001)。膝窩動脈と静脈での高K+-収縮は,LETOラット=OLETFラットであった。一方,膝窩動脈でのPE-収縮はLETOラット=OLETFラットであったが,膝窩静脈のPE-収縮はL-NNA存在(P<0.01)および非存在下(P<0.001)で,LETOラット>OLETFラットであった。
【考察】
第48回と第49回学術大会において,ラット膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋でのα1-ARアゴニストによる収縮に関与しているα1-ARサブタイプは相違していることを報告した。本研究で我々は。2型糖尿病モデルOLETFラットでのPEによる収縮反応性が膝窩動脈では変化しないが,膝窩静脈では減弱することを明らかにした。さらに,このPE-収縮の反応性変化はL-NNAによって影響されなかったことより,膝窩静脈の平滑筋細胞α1受容体を介した収縮反応は選択的にダウンレギュレーションされることを明らかにした。また,高K+-収縮とPE-収縮はL-NNAによって増加し,その増加程度がLETOとOLETFラットで同程度であったことより,糖尿病後期のOLETFラット膝窩動脈・静脈では,内皮細胞からNOが自発性に遊離し,非糖尿病ラットと同程度に収縮を抑制している可能性も明らかとなった。これらの結果は,糖尿病後期ステージにあるOLETFラットの膝窩静脈の平滑筋細胞では,動脈の場合とは異なり,収縮に関与するα1-ARの機能が選択的にダウンレギュレートされる可能性が明らかとなった。しかしながら,2型糖尿病における骨格筋静脈のα1-ARの機能異常と下肢骨格筋血流異常との関連は明らかでない。今後の検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
リハビリテーションによる身体構造・機能の向上を考えていく上で,病態における下肢骨格筋の血管のトーヌス調節機序を理解することは重要であると考えられ,本研究成果はその基礎的知見を提供するものである。