第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述48

生体評価学2

2015年6月6日(土) 10:15 〜 11:15 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:武田要(関西福祉科学大学 保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

[O-0366] 1ヶ月間介入を行った肩関節拘縮及び周囲炎患者のShoulder36 Ver.1.3の変化は,どの機能評価の変化と相関関係を認めるのか

伊藤悠紀1, 牛山直子1, 多賀将仁1, 百瀬公人2 (1.富士見高原病院, 2.信州大学医学部保健学科)

キーワード:Shoulder36, 肩関節周囲炎, 相関分析

【はじめに,目的】
医療のアウトカム研究において,患者立脚型の主観的評価は医療の質を評価する上で重要と考えられるようになってきた。肩関節においては患者立脚肩関節評価法Shoulder36 Ver.1.3(Sh36)が近年作成された。
我々は,肩関節拘縮及び周囲炎患者を対象に,客観的機能評価とSh36各領域の相関について調査し,客観的可動域評価はSh36の複数の領域と相関を認め,中でも自動可動域については最も多くの領域と関係があることを報告した。このことから,自動可動域の改善が主観的アウトカム改善につながる可能性が考えられる。しかし,この報告は横断的研究であり,因果関係はまだ明らかでない。そこで本研究の目的は,介入開始から1ヶ月時点における客観的機能評価の変化のうち,どれがSh36の変化と関係があるかについて相関分析を用いて明らかにすることとした。

【方法】
研究期間は平成25年11月18日から平成26年9月17日である。適応基準は研究期間内に肩関節拘縮及び周囲炎に対する理学療法が処方された患者のうち,研究期間内に介入初回から28日以上経過しているものとした。除外基準は,腱板損傷,骨折,外傷,神経疾患を合併している者とした。また途中で来院しなくなった者,本人がSh36を実施し忘れた者も除外として扱った。腱板損傷の評価は,主治医が必要と判断した場合にMRI検査を行っている。
基本情報として年齢,性別,身長,体重を聴取した。主観的評価としてSh36を実施し,各領域の平均値を算出した。客観的評価は疼痛,他動可動域(PROM),自動可動域(AROM),筋力,腱板機能検査(Cuff),指椎間距離(CTD)の6つを行った。疼痛はVisual Analog Scale(VAS)にて安静時痛,運動時痛,夜間痛を評価した。運動時痛は最も強い痛みを感じる動作を評価した。PROMは,屈曲,伸展,外転,下垂位外旋(以下外旋)の4つをゴニオメーターで測定した。肢位は伸展を端座位,その他を背臥位とした。AROMはPROMと同様の方法で,肢位は全て端座位で評価した。筋力は屈曲,伸展,外転の3つを徒手筋力検査法(MMT)で評価した。Cuffは外旋筋力,Empty Can Test,Full Can Test,Lift Off Testの4つを実施して陽性数を算出した。外旋筋力はMMT4以上を陰性,3以下を陽性とした。CTDはメジャーで測定し,身長で除した値を利用した。評価は初回介入時と,介入から28日経過後の最初の外来介入時に実施した。VAS,PROM,AROM,Cuff,CTDは1ヶ月評価の値から初回評価の値を引いた値を変化量とした。MMTは改善と非改善の2値に変換した。統計はSpearmanの順位相関分析を実施し,Sh36の変化量と客観的機能評価の変化量の相関を調べた。有意水準は5%とした。

【結果】
44例51肩が適応基準を満たしたが,除外基準により最終的に16例20肩となった。20肩の属性は,男性7名女性13名,年齢67.9±11.3歳,身長157.3±8.9cm,体重54.8±9.5kgであった。
安静時VASとSh36日常生活機能(r=-0.53,p=0.02)に相関を認めた。運動時VASとSh36スポーツ(r=-0.55,p=0.01)に相関を認めた。夜間VASとSh36可動域(r=-0.53,p=0.02),筋力(r=-0.49,p=0.03),日常生活機能(r=-0.71,p=0.00)に相関を認めた。PROMと相関を認めるものは無かった。屈曲AROMとSh36可動域(r=0.53,p=0.02),筋力(r=0.46,p=0.04)に相関を認めた。外転AROMとSh36スポーツ(r=0.57,p=0.01)に相関を認めた。外旋AROMとSh36疼痛(r=0.56,p=0.01),可動域(r=0.51,p=0.02),筋力(r=0.49,p=0.03)に相関を認めた。外転MMTとSh36疼痛(r=0.52,p=0.02),可動域(r=0.55,p=0.01),筋力(r=0.53,p=0.02),健康感(r=0.72,p=0.00),日常生活機能(r=0.74,p=0.00)に相関を認めた。

【考察】
客観的機能評価の疼痛,自動可動域,筋力は,Sh36と相関を認めた。一方,他動可動域はSh36と相関が無かった。Sh36によって評価される主観的アウトカムを改善するためには,他動運動よりも自動可動域や筋力といった自動運動と関連している項目が重要であると考えられる。疼痛は患者が受診する際の主要な主訴であり,疼痛改善が主観的アウトカムを改善させることは理解しやすい。今回の結果は以前我々が報告した横断的研究においても自動可動域がSh36の多くの領域と相関が見られたこと同様の傾向であると考えられる。今後は介入研究もしくは被検者数を増やして重回帰分析を行う等の方法で,より明確な因果関係を明らかにする必要がある。

【理学療法学研究としての意義】
肩関節拘縮及び周囲炎の患者が主観的に改善を認めるために,我々が改善させるべき機能項目を考えるための情報として役立ち,治療方針決定の一助と成り得る。