第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述48

生体評価学2

2015年6月6日(土) 10:15 〜 11:15 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:武田要(関西福祉科学大学 保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

[O-0367] 入院及び施設利用高齢者の排便習慣と腸蠕動運動の関係について

Actigraphマイクロミニ音型センサーによる評価と分析

三浦雅文1, 多田真和2 (1.群馬医療福祉大学, 2.御代田中央記念病院)

キーワード:便秘, Actigraph, 理学療法

【はじめに,目的】
理学療法において担当する患者様が便秘症を有することはよく経験することであり,理学療法の支障となることも少なくない。それにも関わらず理学療法士の便秘症への関心は高いとは言えない。多くの理学療法士は運動療法中に腸管の活動が促進されたような印象を受けることがある。しかし,便秘症に対する客観的評価や効果的な介入法といった検討は十分になされていないのが現状である。研究によって理学療法介入の効果が客観的に解明されれば,薬物療法への依存が軽減し,医療費抑制も期待される。そこで本研究は便秘症への効果的な理学療法について検討することを主たる目的とし,これまでにActigraphマイクロミニ音型センサーを用いた腸蠕動運動の客観的評価方法について検討し良好な結果を得た。今回の調査では排便に問題を抱えることが多い入院中及び施設入所中の高齢者を対象に,センサーを用いた腸蠕動音測定を行い,健常者と比較したところ一定の知見を得たので報告する。なお,本研究は科研費助成事業の助成を受けて行った(課題番号:25750218)。
【方法】
対象は調査群を老人保健施設及び療養型病床群を利用中の高齢者23名(男性4名/女性19名,年齢87.6±8.1才,体重44.5±.8.8kg)とし,対照群を健常成人11名(男性5名/女性6名,年齢41.0±12.2才,身長168.4±8.3cm,体重61.3±12.8kg)とした。腸蠕動音の測定にはActigraphマイクロミニ音型センサー(AMI社製,米国)を使用した。安静背臥位で臍下左側3cmにセンサーを両面テープで貼り付け,発語と体動を禁じ30分間腸蠕動を測定した。解析は開始と終了の5分を除外し,20分間の測定結果から平均値を算出し,調査群と対照群で独立2群のt検定を有意水準5%で行った。また,調査群に対して介護度,Barthel Index,認知症,便秘に対して処方されている薬剤,過去2週間の排便回数を調査した。
【結果】
腸蠕動音の平均値は患者群が76.1±5.1dB,対照群が67.8±8.2dBであった。統計学的解析では患者群の腸蠕動音が対照群に比べて有意に大きかった。介護度は要介護1:0名,要介護2:3名,要介護3:2名,要介護4:2名,要介護5:16名であった。認知症はほぼ全例が難聴,意識レベルの低下,認知機能低下によって十分な意思疎通が困難であり,HDSRの聴取もできなかった。処方されている薬剤はラキソベロン7例,フォルセニッド10例,ヨーピス液12例,その中で2種類以上を重複しているのは8例であった。浣腸を行うケースが2例あった。過去2週間の排便回数は最も多いのが15回,最も少ないのが4回,平均回数は8回であった。ほとんどのケースが薬剤により強制的に排便を誘導する方法をとっていた。腸蠕動音量とすべての調査項目の間をさまざまに検討したが,有意な関係は見いだせなかった。
【考察】
先行研究では腸蠕動の客観的評価方法が十分に確立されておらず,そのうえ排便習慣との関係についても結論は得られていない。本実験の結果で健常者より調査群の方が腸蠕動音量が大きいのは,薬物投与により腸蠕動運動が過剰に活動している可能性を示唆している。これまで腸蠕動運動は聴診によって評価されており,一般的に排排便困難な場合は音が小さい,または聞こえないと考えられている。しかし,聴診では心理的消去によってどこまで腹腔内音を認識しているか不明瞭である。今回の実験では投薬を受けている場合,腸蠕動運動は十分に向上していることが示唆された。このように腸蠕動運動が得られているにも関わらず,排便は強制的な方法をとらざる得ないのは,薬物療法による排便習慣のコントロールには限界あることを示唆している。日常から一定の排便習慣を得て,それを維持していくためには薬剤以外の方法が必要であり,理学療法がその一端を担う可能性を秘めていると考えられる。一方本実験の結果からは,腸蠕動運動に影響を及ぼす因子についての判断はできない。今後は健常者を対象に調査を進め,薬剤以外で腸蠕動を適正に改善したり,排便習慣を改善させる因子があるのか明らかにしていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から便秘症に対する薬物治療だけでなく理学療法併用の必要性が示唆され,今後効果的な介入方法の開発が期待される。