[O-0369] 片側上肢運動負荷試験において負荷強度の違いが運動時間と最高酸素摂取量に及ぼす影響
Keywords:呼気ガス分析, エルゴメータ, 全身持久力
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者における全身持久力の評価として,運動麻痺の影響を受けない片側上肢でのエルゴメータ駆動による運動負荷試験(Cardiopulmonary Exercise test:CPX)が提案されている(原,1996)。この片側上肢CPXでは,最高酸素摂取量(peak VO2)を計測するために,1分毎に一定の負荷強度を増加させるramp負荷法が用いられるが,peak VO2を測定するための適切な負荷強度については検討されておらず,負荷強度の違いが運動時間およびpeak VO2に及ぼす影響については,十分に検討されていない。そこで本研究では,片側上肢CPXでの全身持久力評価について,負荷強度の違いが運動時間およびpeak VO2に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常成人10名(男女各5名),年齢は23±3歳,体格指数は20.5±1.3 kg/m2を対象とした(平均値±標準偏差)。採用基準は,20~30歳で研究参加の同意が得られる者とした。除外基準は,呼吸循環器疾患により運動が制限されている者,運動課題の遂行に影響する整形外科的疾患や疼痛を有する者とした。運動課題は,エルゴメータ(Strength Ergo 240,三菱電機エンジニアリング)を用いた利き腕での片側上肢によるエルゴメータ駆動とした。運動課題では,エルゴメータの回転速度は,50 rpmを維持するよう指示した。運動課題中の負荷様式は,1分ごとに一定の負荷強度を増加させるramp負荷法を採用した。負荷強度を決定するため,事前に50 rpmでの等速性運動中のピーク仕事率を測定した。Ramp負荷の開始から12分後の仕事率が,事前に測定されたピーク仕事率に一致する負荷強度を1倍のプロトコールとした。さらに,1倍の強度に対して0.5倍および2倍となるプロトコールを設定し,合計3種類を実施した。各プロトコールの実施順は,順序効果を考慮した上で対象者ごとにランダム化し,それぞれ別日に実施した。運動課題の終了基準は,心拍数が予測最大心拍数の85%に到達,回転速度の維持困難,血圧異常,心電図異常,自覚症状の出現,運動時間が12分に到達とした。VO2の測定は,呼気ガス分析計(エアロソニックAT-1100,アニマ)を用い,breath-by-breath法で測定した。測定されたVO2は,30秒の移動平均で平滑化し,片側上肢CPX中の最大値をpeak VO2として解析に用いた。
統計解析では,負荷強度の違いが運動時間とpeak VO2に及ぼす影響を検討するために,反復測定分散分析および多重比較検定(Tukey法)を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
事前に設定した負荷強度は,1倍において9.4±4.9 W(平均値±標準偏差)であった。CPXの運動時間は2倍が2.9±1.4分,1倍が5.6±1.8分,0.5倍が9.0±2.5分であった。運動時間は,全ての負荷強度間で有意差を認め,負荷強度が高いほど運動時間が短縮した(p<0.01)。なお,ピーク仕事率から設定した運動時間である12分に到達した対象者の人数は,2倍が0名,1倍が1名,0.5倍が7名であった。Peak VO2は,2倍が16.2±5.1 ml/kg/min,1倍が17.8±3.7 ml/kg/min,0.5倍が15.8±2.8 ml/kg/minであり,負荷強度の違いによる有意差を認めなかった(p=0.06)。
【考察】
片側上肢CPXにおいて,負荷強度が高いほど運動時間は短縮するが,peak VO2には有意な差を認めないことが示された。これまで,片側上肢CPXでpeak VO2を測定するための適切な負荷強度は明らかにされていなかった。本研究の結果より片側上肢CPXでは,3分程度の短い運動時間で運動終了基準に到達する負荷強度でも,全身持久力を客観的に評価できる可能性が示された。今後の研究では,脳卒中片麻痺患者の全身持久力評価として片側上肢CPXの有用性を検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者に対して最適な運動療法を提供するために,客観的な全身持久力の評価が必要である。本研究の結果は,客観的な全身持久力評価として,片側上肢CPXの最適な運動負荷設定を明らかにするための基礎的研究として意義がある。
脳卒中片麻痺患者における全身持久力の評価として,運動麻痺の影響を受けない片側上肢でのエルゴメータ駆動による運動負荷試験(Cardiopulmonary Exercise test:CPX)が提案されている(原,1996)。この片側上肢CPXでは,最高酸素摂取量(peak VO2)を計測するために,1分毎に一定の負荷強度を増加させるramp負荷法が用いられるが,peak VO2を測定するための適切な負荷強度については検討されておらず,負荷強度の違いが運動時間およびpeak VO2に及ぼす影響については,十分に検討されていない。そこで本研究では,片側上肢CPXでの全身持久力評価について,負荷強度の違いが運動時間およびpeak VO2に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常成人10名(男女各5名),年齢は23±3歳,体格指数は20.5±1.3 kg/m2を対象とした(平均値±標準偏差)。採用基準は,20~30歳で研究参加の同意が得られる者とした。除外基準は,呼吸循環器疾患により運動が制限されている者,運動課題の遂行に影響する整形外科的疾患や疼痛を有する者とした。運動課題は,エルゴメータ(Strength Ergo 240,三菱電機エンジニアリング)を用いた利き腕での片側上肢によるエルゴメータ駆動とした。運動課題では,エルゴメータの回転速度は,50 rpmを維持するよう指示した。運動課題中の負荷様式は,1分ごとに一定の負荷強度を増加させるramp負荷法を採用した。負荷強度を決定するため,事前に50 rpmでの等速性運動中のピーク仕事率を測定した。Ramp負荷の開始から12分後の仕事率が,事前に測定されたピーク仕事率に一致する負荷強度を1倍のプロトコールとした。さらに,1倍の強度に対して0.5倍および2倍となるプロトコールを設定し,合計3種類を実施した。各プロトコールの実施順は,順序効果を考慮した上で対象者ごとにランダム化し,それぞれ別日に実施した。運動課題の終了基準は,心拍数が予測最大心拍数の85%に到達,回転速度の維持困難,血圧異常,心電図異常,自覚症状の出現,運動時間が12分に到達とした。VO2の測定は,呼気ガス分析計(エアロソニックAT-1100,アニマ)を用い,breath-by-breath法で測定した。測定されたVO2は,30秒の移動平均で平滑化し,片側上肢CPX中の最大値をpeak VO2として解析に用いた。
統計解析では,負荷強度の違いが運動時間とpeak VO2に及ぼす影響を検討するために,反復測定分散分析および多重比較検定(Tukey法)を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
事前に設定した負荷強度は,1倍において9.4±4.9 W(平均値±標準偏差)であった。CPXの運動時間は2倍が2.9±1.4分,1倍が5.6±1.8分,0.5倍が9.0±2.5分であった。運動時間は,全ての負荷強度間で有意差を認め,負荷強度が高いほど運動時間が短縮した(p<0.01)。なお,ピーク仕事率から設定した運動時間である12分に到達した対象者の人数は,2倍が0名,1倍が1名,0.5倍が7名であった。Peak VO2は,2倍が16.2±5.1 ml/kg/min,1倍が17.8±3.7 ml/kg/min,0.5倍が15.8±2.8 ml/kg/minであり,負荷強度の違いによる有意差を認めなかった(p=0.06)。
【考察】
片側上肢CPXにおいて,負荷強度が高いほど運動時間は短縮するが,peak VO2には有意な差を認めないことが示された。これまで,片側上肢CPXでpeak VO2を測定するための適切な負荷強度は明らかにされていなかった。本研究の結果より片側上肢CPXでは,3分程度の短い運動時間で運動終了基準に到達する負荷強度でも,全身持久力を客観的に評価できる可能性が示された。今後の研究では,脳卒中片麻痺患者の全身持久力評価として片側上肢CPXの有用性を検討したい。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者に対して最適な運動療法を提供するために,客観的な全身持久力の評価が必要である。本研究の結果は,客観的な全身持久力評価として,片側上肢CPXの最適な運動負荷設定を明らかにするための基礎的研究として意義がある。