第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述49

疼痛

2015年6月6日(土) 10:15 〜 11:15 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:室井宏育(総合南東北病院 リハビリテーション科)

[O-0371] 線維筋痛症の認知的側面について

薦田昭宏, 窪内郁恵, 橋本聡子 (だいいちリハビリテーション病院)

キーワード:線維筋痛症, 認知的側面, NLS

【はじめに,目的】
線維筋痛症(FM)は,原因不明の全身疼痛を主症状とし,不眠,うつ病などの精神神経症状,過敏性大腸症候群,逆流性食道炎,過活動性膀胱炎などの自律神経系の症状を随伴症状とする疾患である。また痛みは,感覚的側面・情動的側面・認知的側面が関わる。今回,痛みに伴い自肢がどうなっているのかわからない,自肢を動かすのに過剰な努力を要する状態,患肢を無視するような症状(Neglect-like symptoms:NLS)といった認知的側面と痛みならびに他の因子との関係を検討したので報告する。
【方法】
対象は,当院外来通院可能なFM例20例(男性3例・女性17例,平均年齢49.1歳)とした。全例,整形外科的問題がなく歩行自立レベルである。なお線維筋痛症活動性評価票Fibromyalgia activity scale 31(FAS31)平均15.5点である。方法は,認知的因子としてNLSを評価した。その症状の程度から設問に対してvisual analog scale(VAS)形式にて評価した。500点満点であり高値ほど障害が高い。下位項目として,患肢を運動する為には視覚的に患肢を観察しつつ過剰に注意を向けなければ運動できない運動無視(motor neglect:MN)と,患肢を自分の体の一部と感じない認知無視(cognitive neglect:CN)に分類される。痛み評価としてVAS,広範囲疼痛指数(wide-spread pain:WPI),神経障害性疼痛重症度評価ツール((Neuropathic Pain Symtpom Inventory:NPSI)を用いた。NPSIの下位項目は,自発痛(皮膚表面・深部組織),発作痛,誘発痛,異常感覚・知覚障害である。精神的要因として痛みの破局的思考(Pain catastrophizing scale:PCS),不安・抑うつ(Hospital Anxiety and Depression scale:HADS)を評価した。QOL評価としてJapanese version of the Fibromyalgia Impact Questionnaire(JFIQ)を評価した。統計処理はSpearmanの順位相関係数を用い有意水準5%未満とした。
【結果】
NLS(総得点)とVAS,WPIの関係では,相関を認めなかった。またNLS(総得点)とNPSI総得点は相関を認めないももの,下位項目である深部組織の自発痛とは中等度の相関を認めた。PCSとの関係では,総得点ならびに下位項目の反芻・無力感に中等度の相関を認めた。またNLS下位項目のMNでは反芻とCNでは無力感との中等度の相関を認めた。HADSとの関係では,不安項目と中等度の相関を認めた。またNLS下位項目のMNと不安に中等度の相関を認め,NLSとJFIQの関係では,相関は認めなかった。
【考察】
痛みは一感覚だけでなく,情動や認知としての側面を有しており,痛みという情報を脳内のさまざまな部位で処理され構築される。今回の結果,痛みの多面性の観点から捉えると,認知的側面であるNLSはPCSの反芻との関与,情動的側面の不安・無力感との関与,感覚的側面の深部組織との関与を認めた。深部組織の自発痛に伴い運動予測と実際の運動の不一致によりNLSを認め,それにより身体イメージの変容に至ったと考える。諸家によれば,身体イメージと二点識別覚閾値の間に有意な相関を認める。また患肢の不使用が長引くと感覚入力や運動入力が減少し,それに伴い脳内の体部位再現領域の狭小化に至ると報告されている。身体部位の感覚や運動とイメージを一致させることが重要であると再認識した。NLSは,疼痛による運動抑制ならびに学習性不使用(leaning non-use)により惹起させるといわれている。今後,身体認知能力の向上を図るリハビリテーションの提供が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】