第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述49

疼痛

2015年6月6日(土) 10:15 〜 11:15 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:室井宏育(総合南東北病院 リハビリテーション科)

[O-0373] 内的動機づけを強化する運動は疼痛を緩和する

城由起子1, 松原貴子2 (1.名古屋学院大学リハビリテーション学部, 2.日本福祉大学健康科学部)

キーワード:疼痛緩和, 内的動機づけ, 運動

【はじめに,目的】
運動による鎮痛効果は運動強度と時間に依存することが知られている(Hoffman 2004)。一方,我々は注意要求の高い運動であれば低強度・短時間であっても鎮痛効果を認めたものの,運動が学習により自動化されるとその効果は減弱することを報告した(前野2014)。運動の自動化は注意要求を低下させ,また挑戦的要素が減少することで内的動機づけの低下を生じさせる(Papadonatos 2012)。内的動機づけは課題への注意(Engelmann 2009)や疼痛の緩和に関与する報酬系と関連がある(Linke 2010)ことから,内的動機づけの程度が鎮痛効果に影響した可能性が示唆される。また,内的動機づけは身体活動促進の媒介要因とされており,明確な目標設定や結果のフィードバックにより内的動機づけを強化することで身体活動はより促進されるといわれている(原田2013)。一方,臨床において慢性痛患者は非動機づけ状態にあることが多く,疼痛マネジメントとして運動を導入する際,内的動機づけの強化は身体活動の促進に加え疼痛をより緩和させるための重要な因子である可能性が考えられる。そこで本研究は,運動に対する目標設定と結果のフィードバックにより内的動機づけを強化することでの鎮痛効果への影響を調べた。
【方法】
対象は本研究への参加に同意を得た健常成人10名(男女各5名,年齢21.6±0.7歳)とし,すべての対象に動機付け課題と対照課題をランダムに10日間以上の間隔を空けて行わせた。動機付け課題は,印のない壁への投球(set 1),3×3配置の9枚のパネルに向かって投球しパネルの打ち抜き(set 2),set 2の結果をフィードバックし,それ以上の成果を目標としてset 2と同課題(set 3)とし,一方,対照課題はset 1,2,3すべてで印のない壁への投球として,各set10球,set間隔は5分間で行わせた。なお,課題前後および各set間は閉眼座位で安静とした。測定項目は,圧痛閾値,脳波,打ち抜いたパネル数,また主観的指標として動機づけ程度,課題の楽しさ,結果の満足度とした。圧痛閾値は課題前(pre),各セット後(set 1,2,3)および全set終了5分後に非運動側前腕で測定した。脳波は国際10-20法のFp1,Fp2,Cz,Pzで圧痛閾値の測定前1分間の周波数解析からδ(0.5-3.5 Hz),θ(3.5-7.5 Hz),α1(7.5-10.0 Hz),α2(10.0-12.5 Hz),β1(12.5-18.0 Hz),β2(18.0-35.0 Hz)の各パワー値およびFp1とFp2の非対称性を算出した。主観的指標はすべてvisual analogue scale(VAS)で測定した。統計学的解析は,経時変化の比較にWilcoxonの符号付順位検定またはFriedman検定およびTukey-typeの多重比較検定,相関関係にSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
対照課題は全項目で変化を示さなかった。一方,動機づけ課題では,圧痛閾値はpreとset 1に比べset 3で高値を示し,脳波はCzのα2がpreに比べset 3で増大,α1がFp1優位からFp2優位に変化した。動機づけ程度はset 1に比べset 3,課題の楽しさはset 2とset 3で高値を示した。打ち抜いたパネル数と結果に対する満足度はset2,3間で差がなかった。また,圧痛閾値の変化率はα1のFp1・Fp2非対称性,動機づけ程度,課題の楽しさと中等度の正の相関を示した。
【考察】
結果のフィードバックと目標設定により運動に対する内的動機づけが強化されたことで,低負荷・短時間な運動であったにも関わらず非運動部の圧痛閾値の上昇と正の情動変化を反映する脳波(Fumoto 2010,Davidson 1998)の変化や主観的な楽しさの向上を示した。さらに内的動機づけが強化され正の情動変化を生じた者ほど,圧痛閾値が上昇したことから,運動の鎮痛効果は内的動機付けに基づき,楽しんで運動を行うほど増大する可能性が示唆された。楽しさや挑戦的要因は内的動機づけを強化し報酬系を活性化させる。動機づけや報酬系は鎮痛に関与する側坐核のドパミンと関連があり(Becker 2013),報酬系の活性化は疼痛の認知や情動を変化させると報告されている(Benetti 2013)。また,運動による多幸感や気分の高揚といった正の情動変化が疼痛を緩和させる(Dietrich 2004)ともいわれていること等から,内的動機づけを強化する運動は内因性疼痛抑制系をより賦活させる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
目標設定や結果のフィードバックによる内的動機付け強化の重要性や自らが望んで楽しく運動することが鎮痛効果の増大につながる可能性を示したことは,疼痛マネジメントとしての運動プログラム立案や運動指導において有意義な情報であると考える。