[O-0374] 慢性運動器疼痛患者の特性
疼痛の理学療法評価確立に向けた多施設共同研究
Keywords:慢性疼痛, 運動器, 疼痛評価
【はじめに,目的】
疼痛は理学療法士が問題とする主要3障害に含まれる(日本理学療法士協会『理学療法白書』,2010)。慢性運動器疼痛は厚生労働省国民生活基礎調査の有訴者調査において過去10年以上にわたり上位を占め続け,その順位,有訴者数ともに改善の兆しはみられていない。このような慢性運動器疼痛の増加・難治化傾向は諸外国の報告でもみられ,世界的規模の問題といえる。このような中,疼痛の理学療法(PT)において機能的行動分析および心理社会的スクリーニングを含めた包括的評価が必要といわれている(国際疼痛学会)が,本邦ではこれらの要綱を満たすPT評価は行われていない。そこで,我が国における慢性運動器疼痛に対するPT評価法の確立に向けたパイロットスタディとして,慢性運動器疼痛患者の機能的行動および心理社会的要因について検討した。
【方法】
対象は全国16施設にて外来PT通院中の慢性運動器疼痛患者243名(男性86名,女性157名,平均年齢64.2±13.9歳,クリニック受診80.2%)であった。疼痛の部位・強度(numerical rating scale:NRS)・持続期間,機能的行動評価として疼痛生活障害評価尺度(pain disability assessment scale:PDAS),運動恐怖尺度(Tampa scale for kinesiophobia:TSK),日常的な1週間当たりの活動量を示す国際標準化身体活動質問表(International physical activity questionnaire:IPAQ),心理社会評価として不安・抑うつ尺度(hospital anxiety and depression scale:HADS),疼痛自己効力感尺度(pain self-efficacy questionnaire:PSEQ),疼痛カタストロファイジング尺度(pain catastrophizing scale:PCS),健康関連QOL尺度(EuroQOL 5 dimension:EQ-5D),教育歴,家族構成,年収,疼痛の直接・間接医療費,通院期間について調べた。各項目間の相関の解析はPearsonの相関係数を用い,有意水準を5%とした。
【結果】
疼痛の部位は腰,肩,膝が多く,強度はNRS 4.8±1.9,持続期間は54.1±81.2か月であった。PDASは19.2±12.0,TSKは40.5±6.2,IPAQは低強度活動468.2±876.4,中強度活動124.2±266.5,高強度活動15.2±59.7,合計606.2±944.6分/週であった。HADSの不安は6.2±4.1,抑うつは6.4±3.6,PSEQは36.6±12.9,PCSの反芻は12.9±4.4,無力感6.6±4.5,拡大視4.7±3.0,合計24.2±10.4であり,EQ-5Dは0.693±0.135,中学・高校卒,同居家族有,医療費は直接5,000円以下,間接1,000円以下が多かった。次に,疼痛強度はPDAS,TSK,HADS,PCS,EQ-5Dと弱い相関(r=0.397~0.199)を認め,PDAS・TSKはHADS,PCS,EQ-5Dと中等度から弱い相関(r=0.633~0.353)を認めたが,IPAQはほとんどの項目と相関を示さなかった。
【考察】
今回の対象は主にクリニックに通院できている中等度の運動器疼痛患者であり,WHOガイドラインの換算基準および厚生労働省『健康づくりのための運動基準』を上回り日常的に中等度の活動量を維持できている者が多く,心理社会的要因にも著明な問題特性はみられなかった。一方,機能障害や運動恐怖は境界値を超えており,さらに心理社会的要因と中等度,疼痛強度と弱い相関を示すことから,慢性運動器疼痛患者は恐怖-回避思考や活動制限とともに心理社会的問題を含め疼痛の悪循環を助長するリスクを有する可能性が示唆された。したがって,機能的行動および心理社会的要因を含めた包括的評価は運動器疼痛のPT診療に必須であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
我が国の疼痛PTにおいて,機能的行動分析および心理社会的スクリーニングを含めた包括的評価によって各運動器疼痛患者の特性を分析し,適切な治療介入へ結びつけることの意義と必要性を明確にできた。
疼痛は理学療法士が問題とする主要3障害に含まれる(日本理学療法士協会『理学療法白書』,2010)。慢性運動器疼痛は厚生労働省国民生活基礎調査の有訴者調査において過去10年以上にわたり上位を占め続け,その順位,有訴者数ともに改善の兆しはみられていない。このような慢性運動器疼痛の増加・難治化傾向は諸外国の報告でもみられ,世界的規模の問題といえる。このような中,疼痛の理学療法(PT)において機能的行動分析および心理社会的スクリーニングを含めた包括的評価が必要といわれている(国際疼痛学会)が,本邦ではこれらの要綱を満たすPT評価は行われていない。そこで,我が国における慢性運動器疼痛に対するPT評価法の確立に向けたパイロットスタディとして,慢性運動器疼痛患者の機能的行動および心理社会的要因について検討した。
【方法】
対象は全国16施設にて外来PT通院中の慢性運動器疼痛患者243名(男性86名,女性157名,平均年齢64.2±13.9歳,クリニック受診80.2%)であった。疼痛の部位・強度(numerical rating scale:NRS)・持続期間,機能的行動評価として疼痛生活障害評価尺度(pain disability assessment scale:PDAS),運動恐怖尺度(Tampa scale for kinesiophobia:TSK),日常的な1週間当たりの活動量を示す国際標準化身体活動質問表(International physical activity questionnaire:IPAQ),心理社会評価として不安・抑うつ尺度(hospital anxiety and depression scale:HADS),疼痛自己効力感尺度(pain self-efficacy questionnaire:PSEQ),疼痛カタストロファイジング尺度(pain catastrophizing scale:PCS),健康関連QOL尺度(EuroQOL 5 dimension:EQ-5D),教育歴,家族構成,年収,疼痛の直接・間接医療費,通院期間について調べた。各項目間の相関の解析はPearsonの相関係数を用い,有意水準を5%とした。
【結果】
疼痛の部位は腰,肩,膝が多く,強度はNRS 4.8±1.9,持続期間は54.1±81.2か月であった。PDASは19.2±12.0,TSKは40.5±6.2,IPAQは低強度活動468.2±876.4,中強度活動124.2±266.5,高強度活動15.2±59.7,合計606.2±944.6分/週であった。HADSの不安は6.2±4.1,抑うつは6.4±3.6,PSEQは36.6±12.9,PCSの反芻は12.9±4.4,無力感6.6±4.5,拡大視4.7±3.0,合計24.2±10.4であり,EQ-5Dは0.693±0.135,中学・高校卒,同居家族有,医療費は直接5,000円以下,間接1,000円以下が多かった。次に,疼痛強度はPDAS,TSK,HADS,PCS,EQ-5Dと弱い相関(r=0.397~0.199)を認め,PDAS・TSKはHADS,PCS,EQ-5Dと中等度から弱い相関(r=0.633~0.353)を認めたが,IPAQはほとんどの項目と相関を示さなかった。
【考察】
今回の対象は主にクリニックに通院できている中等度の運動器疼痛患者であり,WHOガイドラインの換算基準および厚生労働省『健康づくりのための運動基準』を上回り日常的に中等度の活動量を維持できている者が多く,心理社会的要因にも著明な問題特性はみられなかった。一方,機能障害や運動恐怖は境界値を超えており,さらに心理社会的要因と中等度,疼痛強度と弱い相関を示すことから,慢性運動器疼痛患者は恐怖-回避思考や活動制限とともに心理社会的問題を含め疼痛の悪循環を助長するリスクを有する可能性が示唆された。したがって,機能的行動および心理社会的要因を含めた包括的評価は運動器疼痛のPT診療に必須であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
我が国の疼痛PTにおいて,機能的行動分析および心理社会的スクリーニングを含めた包括的評価によって各運動器疼痛患者の特性を分析し,適切な治療介入へ結びつけることの意義と必要性を明確にできた。