[O-0376] 過剰に痛みの変化に気づくことでADL・QOLは低下する
―日本語版Pain Vigilance and Awareness Questionnaire(PVAQ)を用いた検討―
Keywords:日本語版Pain Vigilance and Awareness Questionnaire, 過剰な警戒心, 痛みの変化への気づき
【はじめに,目的】
慢性疼痛患者では,痛みの症状に影響を及ぼす要因の一つとして痛みに対する注意・過剰な警戒心の関与が示唆されており,過剰な警戒心が日常生活活動(Activities of Daily Living;以下ADL)および生活の質(Quality of Life;以下QOL)の低下に関連していると考えられている。過剰な警戒心は身体に対する脅威刺激から回避する機能の起源であり,不安や恐怖,破局的思考などのネガティブな情動や個人の懸念等が総合的に影響して起こるとされている(Corombez, 2005)。過剰な警戒心と痛みとの関連について,先行研究では,過剰な警戒心は痛み強度の増加(McCracken, 1997)や自己効力感の低下(Leeuw, 2007)に影響を及ぼすと報告されている。臨床では,痛みのことばかり気にしすぎて活動に対して過剰に警戒している症例や,活動への不安感は少ないが疾患や手術等の誤った情報や指示等で用心して活動を過剰に制限している症例等,様々な要因で過剰に警戒して活動を制限している症例が散見され,過剰な警戒心の評価は必要性があると考えられる。欧米では,痛みへの注意・過剰な警戒心を測定する自己記入式尺度としてPain Vigilance and Awareness Questionnaire(以下PVAQ)が広く用いられており,日本語版PVAQも作成されている(今井,2009)。日本語版PVAQは「痛みへの注意(以下PVAQ注意)」,「痛みの変化への気づき(以下PVAQ変化)」の2因子で構成されている。PVAQ注意は破局的思考と同様の因子であり,PVAQ変化は心理的因子と異なる因子であることを示唆されている(Roelofs,2003)が,PVAQ注意・PVAQ変化のADL・QOLへの関与は不明である。そこで本研究では,日本語版PVAQを用いて,PVAQとADL・QOLおよび心理的因子との関連について検討し,評価におけるPVAQの特性を検討した。
【方法】
対象は当院通所リハビリ利用者50例(男性7例,女性43例,80.3±7.8歳)とした。問診票の理解が困難である利用者は除外した。評価項目は痛みの強度(Numerical Rating Scale;以下NRS),心理的因子(Hospital Anxiety and Depression Scale;以下HADS,Tampa Scale for Kinesiofobia;以下TSK,Pain Catastrophizing Scale;以下PCS),痛みへの注意(PVAQ),ADL(Pain Disability Assessment Scale;以下PDAS),QOL(EuroQOL;以下EQ-5D)を測定した。統計はPDAS,EQ-5Dを従属変数とした重回帰分析で評価項目の因果関係を検討した。また,PVAQ注意,PVAQ変化と心理的因子との関連をPearsonの相関分析を用いて相関関係を検討した。有意水準は全て5%未満とした。
【結果】
重回帰分析の結果,ADLに影響を与える因子として,PVAQ変化(β=0.46),NRS(β=0.29)(R2=0.36,R2*0.33)が抽出された。QOLに影響を与える因子として,PCS拡大視(β=-0.31),NRS(β=-0.30),PVAQ変化(β=-0.29)(R2=0.43,R2*=0.39)が抽出された。相関分析の結果,PVAQ注意とPCS反芻・拡大視・無力感に中等度の相関関係を認め,NRS,HADS不安,TSKに弱い相関関係を認めた。PVAQ変化と心理的因子は相関関係を認めなかった。
【考察】
本研究結果より,ADL・QOL双方に関与する因子としてはPVAQ変化が抽出された。PVAQ注意と心理的因子は相関関係を認め,特にPCSは他の心理的因子と比べ高い相関関係であった。一方で,PVAQ変化と心理的因子は相関関係を認めなかった。以上のことからも,PVAQ注意は心理的因子が関与した過剰な警戒心を,PVAQ変化は心理以外の因子が関与した過剰な警戒心を抽出していることが示唆された。PVAQ変化に影響する心理以外の因子については,今回の研究では検討していないため今後の検討を要する。Roelofsら(2003)は,PVAQ変化は痛み体験に基づいた対処方略を反映していると述べており,Goubertら(2004)は,PVAQは神経質など個人の性格とも関連があると報告している。先行知見も踏まえると,PVAQ変化に関与する心理以外の因子は,個人の性格や環境,痛み体験等に基づいて過剰に警戒した対処方略を反映している可能性が考えられる。以上のように,PVAQは下位因子も検討することで,心理的因子や心理以外の因子も含め,包括的に過剰な警戒心を抽出できる点に特性があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で,PVAQがADL・QOLに関連することが示され,下位因子であるPVAQ変化に関与する因子を今後検討し,心理的因子および心理以外の因子への対応をすることでADL・QOLの向上につながり得る点に意義がある。
慢性疼痛患者では,痛みの症状に影響を及ぼす要因の一つとして痛みに対する注意・過剰な警戒心の関与が示唆されており,過剰な警戒心が日常生活活動(Activities of Daily Living;以下ADL)および生活の質(Quality of Life;以下QOL)の低下に関連していると考えられている。過剰な警戒心は身体に対する脅威刺激から回避する機能の起源であり,不安や恐怖,破局的思考などのネガティブな情動や個人の懸念等が総合的に影響して起こるとされている(Corombez, 2005)。過剰な警戒心と痛みとの関連について,先行研究では,過剰な警戒心は痛み強度の増加(McCracken, 1997)や自己効力感の低下(Leeuw, 2007)に影響を及ぼすと報告されている。臨床では,痛みのことばかり気にしすぎて活動に対して過剰に警戒している症例や,活動への不安感は少ないが疾患や手術等の誤った情報や指示等で用心して活動を過剰に制限している症例等,様々な要因で過剰に警戒して活動を制限している症例が散見され,過剰な警戒心の評価は必要性があると考えられる。欧米では,痛みへの注意・過剰な警戒心を測定する自己記入式尺度としてPain Vigilance and Awareness Questionnaire(以下PVAQ)が広く用いられており,日本語版PVAQも作成されている(今井,2009)。日本語版PVAQは「痛みへの注意(以下PVAQ注意)」,「痛みの変化への気づき(以下PVAQ変化)」の2因子で構成されている。PVAQ注意は破局的思考と同様の因子であり,PVAQ変化は心理的因子と異なる因子であることを示唆されている(Roelofs,2003)が,PVAQ注意・PVAQ変化のADL・QOLへの関与は不明である。そこで本研究では,日本語版PVAQを用いて,PVAQとADL・QOLおよび心理的因子との関連について検討し,評価におけるPVAQの特性を検討した。
【方法】
対象は当院通所リハビリ利用者50例(男性7例,女性43例,80.3±7.8歳)とした。問診票の理解が困難である利用者は除外した。評価項目は痛みの強度(Numerical Rating Scale;以下NRS),心理的因子(Hospital Anxiety and Depression Scale;以下HADS,Tampa Scale for Kinesiofobia;以下TSK,Pain Catastrophizing Scale;以下PCS),痛みへの注意(PVAQ),ADL(Pain Disability Assessment Scale;以下PDAS),QOL(EuroQOL;以下EQ-5D)を測定した。統計はPDAS,EQ-5Dを従属変数とした重回帰分析で評価項目の因果関係を検討した。また,PVAQ注意,PVAQ変化と心理的因子との関連をPearsonの相関分析を用いて相関関係を検討した。有意水準は全て5%未満とした。
【結果】
重回帰分析の結果,ADLに影響を与える因子として,PVAQ変化(β=0.46),NRS(β=0.29)(R2=0.36,R2*0.33)が抽出された。QOLに影響を与える因子として,PCS拡大視(β=-0.31),NRS(β=-0.30),PVAQ変化(β=-0.29)(R2=0.43,R2*=0.39)が抽出された。相関分析の結果,PVAQ注意とPCS反芻・拡大視・無力感に中等度の相関関係を認め,NRS,HADS不安,TSKに弱い相関関係を認めた。PVAQ変化と心理的因子は相関関係を認めなかった。
【考察】
本研究結果より,ADL・QOL双方に関与する因子としてはPVAQ変化が抽出された。PVAQ注意と心理的因子は相関関係を認め,特にPCSは他の心理的因子と比べ高い相関関係であった。一方で,PVAQ変化と心理的因子は相関関係を認めなかった。以上のことからも,PVAQ注意は心理的因子が関与した過剰な警戒心を,PVAQ変化は心理以外の因子が関与した過剰な警戒心を抽出していることが示唆された。PVAQ変化に影響する心理以外の因子については,今回の研究では検討していないため今後の検討を要する。Roelofsら(2003)は,PVAQ変化は痛み体験に基づいた対処方略を反映していると述べており,Goubertら(2004)は,PVAQは神経質など個人の性格とも関連があると報告している。先行知見も踏まえると,PVAQ変化に関与する心理以外の因子は,個人の性格や環境,痛み体験等に基づいて過剰に警戒した対処方略を反映している可能性が考えられる。以上のように,PVAQは下位因子も検討することで,心理的因子や心理以外の因子も含め,包括的に過剰な警戒心を抽出できる点に特性があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で,PVAQがADL・QOLに関連することが示され,下位因子であるPVAQ変化に関与する因子を今後検討し,心理的因子および心理以外の因子への対応をすることでADL・QOLの向上につながり得る点に意義がある。