[O-0377] 変形性股関節症における人工股関節全置換術後の足趾爪切り動作方法と股関節可動域の関係
キーワード:人工股関節全置換術, 爪切り, 可動域
【はじめに,目的】
変形性股関節症症例(以下OA例)は術前から重度の股関節可動域制限を呈し,術後の爪切り動作獲得に難渋する場合が多い。特に第5趾の爪切りは動作中の視野を確保するためにも大きな股関節の可動域が必要である。また我々の先行研究より術後2か月(以下2M)から術後5か月(以下5M)にかけて爪切り動作が可能となる場合が多いことを報告した。一方,爪切り動作の先行研究ではOA例で後方進入法THAを施行し,術後5Mまでに動作獲得するための股関節可動域は不明である。そこで本研究ではOA例におけるTHA後の足趾爪切り動作方法と股関節可動域の差異を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2013年の4月から2014年8月までに本学附属4病院にて変形性股関節症と診断され後方進入法にてTHAを施行し5Mまで追跡可能であった272例のうち2Mの98例(男性15例,女性83例,平均年齢67.0±11.2歳)と5Mの90例(男性16例,女性74例,平均年齢65.9±11.2歳)とした。除外対象を術後合併症例,中枢性疾患の既往がある症例とした。評価項目は2M,5Mでの爪切り動作の可否,日常的に実施している爪切り動作方法を問診した。また,股関節屈曲,外旋,外転可動域,踵引き寄せ距離(以下踵距離)(%)(対側下肢上を開排しながら踵を移動させた時の内外果中央から踵までの距離/対側上前腸骨棘から内外果中央までの距離×100)をカルテから後方視的に調査した。爪切り動作方法は端座位股関節屈曲法,端座位開排法(以下),端座位膝伸展位の体前屈あるいは立位体前屈による方法または長坐位による方法(体前屈法)に分類した。それらを普段行っている動作方法により屈曲群,開排群,体前屈群に分類し,爪切り動作が不可能な場合を不可能群とし,それ以外の方法の場合は除外した。統計処理は各時期の各評価項目において正規性の有無,等分散の有無によって一元配置分散分析,Welchの検定あるいはkruskal-Wallisの検定を用いて各群間にて比較検討を行い,有意差が認められた場合は多重比較検定(Tukey法あるいはBonferroni法)を行った。統計ソフトはSPSS(Ver22.0)を使用した。
【結果】
2Mでは屈曲群9例,開排群28例,体前屈群13例,不可能群41例であった。5Mでは屈曲群23例,開排群40例,体前屈群13例,不可能群9例であった。可動域は2Mの屈曲群は不可能群と比較して屈曲,外転,踵距離が有意に大きかった。開排群は不可能群と比較して外旋,外転,踵距離が有意に大きく,体前屈群と比較して外旋,踵距離が有意に大きかった。また,体前屈群は不可能群と比較して外旋が有意に大きい結果となった。一方,5Mでは屈曲群は不可能群と比較して屈曲,踵距離が有意に大きく,体前屈群との比較においては屈曲で屈曲群の可動域が有意に大きかった。また開排群と不可能群の外旋,外転,踵距離に有意差が認められ,各項目とも開排群の可動域が有意に大きい結果となった。
【考察】
爪切り動作方法と股関節可動域に関しては,屈曲群は体前屈群や不可能群と比較し屈曲と踵距離が大きく,開排群とは各項目で差がなかった。先行研究で踵距離は股関節可動域による寄与率の算出から屈曲,外旋,外転の可動域を4:3:1の割合で表せることを報告した。また,屈曲の制限因子と開排の制限因子は股関節内転筋群や殿筋群の伸張性であり,共通している場合が多いため,屈曲群と開排群では可動域の差がなかったと考える。しかし,臨床的に大腿筋膜張筋から殿筋筋膜や胸腰筋膜の伸張性が関与している場合もあり,今後は股関節内転可動域等の影響も検討したい。また,開排群に関しては体前屈群や不可能群よりも外旋,外転,踵距離において差が認められた。体前屈位はハムストリングスの影響を受けやすく,胸部から腰部の屈曲により代償している場合が多い。したがって開排位か体前屈位の姿勢の選択は股関節の外旋,外転角度あるいはハムストリングスの伸張性の程度により動作姿勢が左右される可能性があり,今後は膝伸展位での股関節屈曲角度の影響も明らかにしていきたい。
また各群の時期による経過から屈曲群または開排群と不可能群との比較より,屈曲群は股関節屈曲に,開排群は外旋,外転,踵距離に有意差が認められ,術後の経過がたつにつれて各動作の特異性が強く反映していると考えられた。
本研究は大腿骨頭壊死症など変形性股関節症以外のTHA例の場合,再置換術の場合には本研究結果に従わない可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
THA後患者は爪切り動作が難渋する場合が多く,本研究により術後の爪切り動作を改善するための効率的な患者指導の一助となり得ると考える。
変形性股関節症症例(以下OA例)は術前から重度の股関節可動域制限を呈し,術後の爪切り動作獲得に難渋する場合が多い。特に第5趾の爪切りは動作中の視野を確保するためにも大きな股関節の可動域が必要である。また我々の先行研究より術後2か月(以下2M)から術後5か月(以下5M)にかけて爪切り動作が可能となる場合が多いことを報告した。一方,爪切り動作の先行研究ではOA例で後方進入法THAを施行し,術後5Mまでに動作獲得するための股関節可動域は不明である。そこで本研究ではOA例におけるTHA後の足趾爪切り動作方法と股関節可動域の差異を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2013年の4月から2014年8月までに本学附属4病院にて変形性股関節症と診断され後方進入法にてTHAを施行し5Mまで追跡可能であった272例のうち2Mの98例(男性15例,女性83例,平均年齢67.0±11.2歳)と5Mの90例(男性16例,女性74例,平均年齢65.9±11.2歳)とした。除外対象を術後合併症例,中枢性疾患の既往がある症例とした。評価項目は2M,5Mでの爪切り動作の可否,日常的に実施している爪切り動作方法を問診した。また,股関節屈曲,外旋,外転可動域,踵引き寄せ距離(以下踵距離)(%)(対側下肢上を開排しながら踵を移動させた時の内外果中央から踵までの距離/対側上前腸骨棘から内外果中央までの距離×100)をカルテから後方視的に調査した。爪切り動作方法は端座位股関節屈曲法,端座位開排法(以下),端座位膝伸展位の体前屈あるいは立位体前屈による方法または長坐位による方法(体前屈法)に分類した。それらを普段行っている動作方法により屈曲群,開排群,体前屈群に分類し,爪切り動作が不可能な場合を不可能群とし,それ以外の方法の場合は除外した。統計処理は各時期の各評価項目において正規性の有無,等分散の有無によって一元配置分散分析,Welchの検定あるいはkruskal-Wallisの検定を用いて各群間にて比較検討を行い,有意差が認められた場合は多重比較検定(Tukey法あるいはBonferroni法)を行った。統計ソフトはSPSS(Ver22.0)を使用した。
【結果】
2Mでは屈曲群9例,開排群28例,体前屈群13例,不可能群41例であった。5Mでは屈曲群23例,開排群40例,体前屈群13例,不可能群9例であった。可動域は2Mの屈曲群は不可能群と比較して屈曲,外転,踵距離が有意に大きかった。開排群は不可能群と比較して外旋,外転,踵距離が有意に大きく,体前屈群と比較して外旋,踵距離が有意に大きかった。また,体前屈群は不可能群と比較して外旋が有意に大きい結果となった。一方,5Mでは屈曲群は不可能群と比較して屈曲,踵距離が有意に大きく,体前屈群との比較においては屈曲で屈曲群の可動域が有意に大きかった。また開排群と不可能群の外旋,外転,踵距離に有意差が認められ,各項目とも開排群の可動域が有意に大きい結果となった。
【考察】
爪切り動作方法と股関節可動域に関しては,屈曲群は体前屈群や不可能群と比較し屈曲と踵距離が大きく,開排群とは各項目で差がなかった。先行研究で踵距離は股関節可動域による寄与率の算出から屈曲,外旋,外転の可動域を4:3:1の割合で表せることを報告した。また,屈曲の制限因子と開排の制限因子は股関節内転筋群や殿筋群の伸張性であり,共通している場合が多いため,屈曲群と開排群では可動域の差がなかったと考える。しかし,臨床的に大腿筋膜張筋から殿筋筋膜や胸腰筋膜の伸張性が関与している場合もあり,今後は股関節内転可動域等の影響も検討したい。また,開排群に関しては体前屈群や不可能群よりも外旋,外転,踵距離において差が認められた。体前屈位はハムストリングスの影響を受けやすく,胸部から腰部の屈曲により代償している場合が多い。したがって開排位か体前屈位の姿勢の選択は股関節の外旋,外転角度あるいはハムストリングスの伸張性の程度により動作姿勢が左右される可能性があり,今後は膝伸展位での股関節屈曲角度の影響も明らかにしていきたい。
また各群の時期による経過から屈曲群または開排群と不可能群との比較より,屈曲群は股関節屈曲に,開排群は外旋,外転,踵距離に有意差が認められ,術後の経過がたつにつれて各動作の特異性が強く反映していると考えられた。
本研究は大腿骨頭壊死症など変形性股関節症以外のTHA例の場合,再置換術の場合には本研究結果に従わない可能性がある。
【理学療法学研究としての意義】
THA後患者は爪切り動作が難渋する場合が多く,本研究により術後の爪切り動作を改善するための効率的な患者指導の一助となり得ると考える。