[O-0379] 人工股関節全置換術術後理学療法に対する能力的ゴール設定の試み
Keywords:人工股関節全置換術, 治療期間, 能力的ゴール
【はじめに】
人工股関節全置換術(以下THA)術後理学療法は,様々な施設でクリニカルパスの導入等によって進められている。しかし術前の患者状態や手術方法,治療方針等が施設間で異なるため,術後日数によるゴール設定は難しい場合がある。また関節可動域や筋力等の数値データをもとにしたゴール設定も動作能力との関連性が低い場合があり,適応が困難である。
今回我々は,THA術後理学療法のゴール設定を能力的ゴールにしたところ治療期間等に改善が見られたため,知見を加えて報告する。
【方法】
対象は平成25年4月から平成26年9月末までに当院でTHAを施行され,理学療法の外来通院が終了した患者38名である。能力的ゴールの設定にあたっては関節可動域,筋力,歩行に分類し,関節可動域は正座・靴下着脱(股関節屈曲外転外旋,自助具なし)・爪切り(股関節屈曲外転外旋,自助具なし)の獲得,筋力は股関節外転・一足一段での階段昇降・片脚立位,歩行はトレンデレンブルグ徴候の消失または術前以上の改善とした。理学療法終了は能力的ゴールをもとに担当理学療法士と主治医の判断とした。能力的ゴールは平成26年4月より設定し理学療法介入を行っている。平成26年度以降にTHAを施行され理学療法を実施した群を設定群,平成25年度までにTHAを施行された理学療法を実施した群を未設定群とし,手術時年齢・術後在院日数・外来通院回数・術後治療期間・入院時から外来理学療法終了までの全理学療法実施単位について比較した。また,設定群においては全理学療法終了時の能力的ゴールである正座・靴下着脱・爪切り・一足一段での階段昇降の達成率について調査した。統計処理は,統計解析ソフトJSTAT for Windowsを使用し,Mann-WhitneyのU検定を行った。有意水準は5%未満とした。結果は平均値±標準偏差にて表記した。全理学療法終了時の能力的ゴールの達成率については比率で表記した。
【結果】
患者数は設定群12名(男性3名,女性9名),未設定群26名(男性7名,女性19名),手術時年齢は設定群58.0±15.8歳,未設定群64.1±9.4歳にて有意差なし。術後在院日数は設定群29.0±5.4日,未設定群30.4±6.6日にて有意差なし。外来通院回数は設定群7.0±3.5回,未設定群14.9±8.7回にて有意に減少した。術後治療期間は設定群68.0±26.3日,未設定群147.9±59.6日にて有意に減少した。全理学療法実施単位数は設定群36.3±11.7単位,未設定群67.8±27.5単位にて有意に減少した。全理学療法終了時の設定群における能力的ゴールの達成率は正座92%(11/12名),靴下着脱100%(12/12名),爪切り92%(11/12名)・階段昇降75%(9/12名)であった。正座と爪切り未達成の患者は同一患者であった。
【考察】
THA術後理学療法のゴール設定を能力的ゴールにすることで,THA術後の外来通院回数・術後治療期間・全理学療法実施単位数は有意に減少し改善がみられた。また能力的ゴールの達成率も高い比率で達成できていた。THA術後の改善には,筋肉を主とする軟部組織が影響し,それらに対し適切な介入を行うことは一般的である。したがって,今回の能力的ゴールの設定は,THAによる術後炎症等により柔軟性が低下されやすい筋肉とその動作及び予測される筋力低下に伴う動作を中心に設定した。それにより,理学療法介入が効率かつ効果的に行われ大きく改善したと考える。また,今回の研究で,全理学療法実施単位数は削減されたことから,今後理学療法実施単位数を増加させることで,術後在院日数や全治療期間,及び能力的ゴールの達成率を改善させる可能性についても検討していく予定である。
【理学療法学研究としての意義】
治療効果の判定には各種評価表をはじめ,関節可動域や筋力など数字による改善データが用いられる。しかしTHAをはじめ人工関節置換術では,手術時の状況や使用する人工関節の種類の違いにより関節可動域等では効果判定を困難にする場合がある。そこで本研究は,患者本人とそれに関わる医療職にゴール設定と治療効果が伝わるように能力的ゴールを到達目標とした。それにより,理学療法士が担っている機能障害の改善は基本的動作能力を獲得させ,治療期間と理学療法実施単位の削減に影響を与えることが証明された。
人工股関節全置換術(以下THA)術後理学療法は,様々な施設でクリニカルパスの導入等によって進められている。しかし術前の患者状態や手術方法,治療方針等が施設間で異なるため,術後日数によるゴール設定は難しい場合がある。また関節可動域や筋力等の数値データをもとにしたゴール設定も動作能力との関連性が低い場合があり,適応が困難である。
今回我々は,THA術後理学療法のゴール設定を能力的ゴールにしたところ治療期間等に改善が見られたため,知見を加えて報告する。
【方法】
対象は平成25年4月から平成26年9月末までに当院でTHAを施行され,理学療法の外来通院が終了した患者38名である。能力的ゴールの設定にあたっては関節可動域,筋力,歩行に分類し,関節可動域は正座・靴下着脱(股関節屈曲外転外旋,自助具なし)・爪切り(股関節屈曲外転外旋,自助具なし)の獲得,筋力は股関節外転・一足一段での階段昇降・片脚立位,歩行はトレンデレンブルグ徴候の消失または術前以上の改善とした。理学療法終了は能力的ゴールをもとに担当理学療法士と主治医の判断とした。能力的ゴールは平成26年4月より設定し理学療法介入を行っている。平成26年度以降にTHAを施行され理学療法を実施した群を設定群,平成25年度までにTHAを施行された理学療法を実施した群を未設定群とし,手術時年齢・術後在院日数・外来通院回数・術後治療期間・入院時から外来理学療法終了までの全理学療法実施単位について比較した。また,設定群においては全理学療法終了時の能力的ゴールである正座・靴下着脱・爪切り・一足一段での階段昇降の達成率について調査した。統計処理は,統計解析ソフトJSTAT for Windowsを使用し,Mann-WhitneyのU検定を行った。有意水準は5%未満とした。結果は平均値±標準偏差にて表記した。全理学療法終了時の能力的ゴールの達成率については比率で表記した。
【結果】
患者数は設定群12名(男性3名,女性9名),未設定群26名(男性7名,女性19名),手術時年齢は設定群58.0±15.8歳,未設定群64.1±9.4歳にて有意差なし。術後在院日数は設定群29.0±5.4日,未設定群30.4±6.6日にて有意差なし。外来通院回数は設定群7.0±3.5回,未設定群14.9±8.7回にて有意に減少した。術後治療期間は設定群68.0±26.3日,未設定群147.9±59.6日にて有意に減少した。全理学療法実施単位数は設定群36.3±11.7単位,未設定群67.8±27.5単位にて有意に減少した。全理学療法終了時の設定群における能力的ゴールの達成率は正座92%(11/12名),靴下着脱100%(12/12名),爪切り92%(11/12名)・階段昇降75%(9/12名)であった。正座と爪切り未達成の患者は同一患者であった。
【考察】
THA術後理学療法のゴール設定を能力的ゴールにすることで,THA術後の外来通院回数・術後治療期間・全理学療法実施単位数は有意に減少し改善がみられた。また能力的ゴールの達成率も高い比率で達成できていた。THA術後の改善には,筋肉を主とする軟部組織が影響し,それらに対し適切な介入を行うことは一般的である。したがって,今回の能力的ゴールの設定は,THAによる術後炎症等により柔軟性が低下されやすい筋肉とその動作及び予測される筋力低下に伴う動作を中心に設定した。それにより,理学療法介入が効率かつ効果的に行われ大きく改善したと考える。また,今回の研究で,全理学療法実施単位数は削減されたことから,今後理学療法実施単位数を増加させることで,術後在院日数や全治療期間,及び能力的ゴールの達成率を改善させる可能性についても検討していく予定である。
【理学療法学研究としての意義】
治療効果の判定には各種評価表をはじめ,関節可動域や筋力など数字による改善データが用いられる。しかしTHAをはじめ人工関節置換術では,手術時の状況や使用する人工関節の種類の違いにより関節可動域等では効果判定を困難にする場合がある。そこで本研究は,患者本人とそれに関わる医療職にゴール設定と治療効果が伝わるように能力的ゴールを到達目標とした。それにより,理学療法士が担っている機能障害の改善は基本的動作能力を獲得させ,治療期間と理学療法実施単位の削減に影響を与えることが証明された。