[O-0381] 人工股関節置換術後患者の起立動作時荷重非対称性はTimed Up and Go testに影響する
キーワード:人工股関節置換術, 起立動作, 荷重比
【はじめに,目的】人工股関節置換術(THA)後患者は立位や歩行,起立動作などの日常動作において,下肢荷重の非対称性を呈し,患側への荷重が不十分であるとされている。中でも起立動作は他の動作と比較して非対称性が顕著であると報告されている(Talis VL, 2008)。動作時の患側荷重不足は,患側下肢筋の筋力発揮を阻害し,運動能力の回復に負の影響を与えると考えられる。しかし,現在までTHA患者の運動能力と荷重非対称性との関連を調べた研究はほとんどなく,両者の関係性は明らかではない。本研究では,歩行や動的バランスなどの要素を含んだ総合的な運動能力を表すTimed Up and Go test(TUG)と起立動作時の荷重非対称性との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】2001年3月から2010年2月の間に変形性股関節症により片側THAを施行した女性のうち,健側に疼痛や明らかな股関節可動域(ROM)制限を認めなかった34名を対象とした(術後期間6ヶ月~123ヶ月;中央値36ヶ月,年齢:61.9±7.7歳,身長:154.0±4.9cm,体重:52.8±8.9kg)。対象者の体幹および両下肢の25箇所に反射マーカーを貼付し,通常速度での椅子からの起立動作を三次元動作解析装置(カメラ7台,サンプリング周波数200Hz)と2台の床反力計(サンプリング周波数1000Hz)で記録した。椅子の座面高は40cm,開始肢位での下腿傾斜は鉛直に対して15°とした。胸部マーカーの前方移動の開始時から股関節最大伸展時を解析区間として,解析区間での床反力鉛直成分積分値を算出し,患側と健側の荷重比を求めた(患側/健側×100%)。TUGは2回測定し,平均値を分析に用いた。また,両側の下肢筋力と股関節ROMを測定し,それぞれ患側と健側の筋力比とROM比を算出した。下肢筋力の測定項目は股関節外転,伸展,屈曲,膝関節伸展および屈曲とし,最大等尺性筋力をHand-held dynamometerとISOFORCE GT-330を使用して各2回測定し,平均値を求めた。ROMの測定項目は屈曲,伸展,内転,外転,内旋および外旋とし,ゴニオメーターを用いて各1回測定した。統計解析では,TUGを従属変数,荷重比と患側筋力・ROMを独立変数,また,荷重比を従属変数,筋力比とROM比を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行い,TUGと荷重比それぞれに影響する要因を抽出した。
【結果】測定の結果,起立動作時の荷重比は平均89%,TUGは6.4秒であった。筋力比の平均値は,股外転90%,股伸展88%,股屈曲85%,膝伸展83%および膝屈曲94%であった。ROM比の平均値は,屈曲86%,伸展79%,外転76%,内転93%,内旋97%,外旋83%であった。TUGを従属変数,荷重比と患側筋力および患側ROMを独立変数としたステップワイズ重回帰分析の結果,荷重比(β=-0.31),股関節外転筋力(β=-0.38)および膝関節屈曲筋力(β=-0.30)が有意な変数として抽出された(自由度調整済みR2=0.45)。また,荷重比を従属変数としたステップワイズ重回帰分析の結果,股関節屈曲ROM比(β=0.48)および膝関節伸展筋力比(β=0.25)が有意な変数として抽出された(自由度調整済みR2=0.31)。
【考察】TUGを従属変数としたステップワイズ重回帰分析において荷重比が有意な変数として抽出されたことから,起立動作時の荷重非対称性は独立してTUGに影響を与える要因であることが明らかとなった。このことから,THA患者の運動能力の改善には,患側筋力だけではなく荷重非対称性にも着目する必要があることが示唆された。荷重比を従属変数としたステップワイズ重回帰分析の結果,荷重比に影響する要因として股関節屈曲ROM比と膝関節伸展筋力比が選択された。患側の股関節屈曲可動域が小さい場合,起立動作時の屈曲相において患側の重心前方移動が不十分となり,結果として健側へ重心が偏移することが考えられる。また,もう1つの要因である膝関節伸展筋力は,患側が健側と比べて15%以上低下しており,荷重非対称改善のためには,健側のレベルを目標にして筋力向上を図る必要があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,THA患者のリハビリテーションにおいて荷重非対称性に着目することの重要性をTUGとの関連から明らかにしたものであり,得られた知見は理学療法治療の一助となると考えられる。
【方法】2001年3月から2010年2月の間に変形性股関節症により片側THAを施行した女性のうち,健側に疼痛や明らかな股関節可動域(ROM)制限を認めなかった34名を対象とした(術後期間6ヶ月~123ヶ月;中央値36ヶ月,年齢:61.9±7.7歳,身長:154.0±4.9cm,体重:52.8±8.9kg)。対象者の体幹および両下肢の25箇所に反射マーカーを貼付し,通常速度での椅子からの起立動作を三次元動作解析装置(カメラ7台,サンプリング周波数200Hz)と2台の床反力計(サンプリング周波数1000Hz)で記録した。椅子の座面高は40cm,開始肢位での下腿傾斜は鉛直に対して15°とした。胸部マーカーの前方移動の開始時から股関節最大伸展時を解析区間として,解析区間での床反力鉛直成分積分値を算出し,患側と健側の荷重比を求めた(患側/健側×100%)。TUGは2回測定し,平均値を分析に用いた。また,両側の下肢筋力と股関節ROMを測定し,それぞれ患側と健側の筋力比とROM比を算出した。下肢筋力の測定項目は股関節外転,伸展,屈曲,膝関節伸展および屈曲とし,最大等尺性筋力をHand-held dynamometerとISOFORCE GT-330を使用して各2回測定し,平均値を求めた。ROMの測定項目は屈曲,伸展,内転,外転,内旋および外旋とし,ゴニオメーターを用いて各1回測定した。統計解析では,TUGを従属変数,荷重比と患側筋力・ROMを独立変数,また,荷重比を従属変数,筋力比とROM比を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行い,TUGと荷重比それぞれに影響する要因を抽出した。
【結果】測定の結果,起立動作時の荷重比は平均89%,TUGは6.4秒であった。筋力比の平均値は,股外転90%,股伸展88%,股屈曲85%,膝伸展83%および膝屈曲94%であった。ROM比の平均値は,屈曲86%,伸展79%,外転76%,内転93%,内旋97%,外旋83%であった。TUGを従属変数,荷重比と患側筋力および患側ROMを独立変数としたステップワイズ重回帰分析の結果,荷重比(β=-0.31),股関節外転筋力(β=-0.38)および膝関節屈曲筋力(β=-0.30)が有意な変数として抽出された(自由度調整済みR2=0.45)。また,荷重比を従属変数としたステップワイズ重回帰分析の結果,股関節屈曲ROM比(β=0.48)および膝関節伸展筋力比(β=0.25)が有意な変数として抽出された(自由度調整済みR2=0.31)。
【考察】TUGを従属変数としたステップワイズ重回帰分析において荷重比が有意な変数として抽出されたことから,起立動作時の荷重非対称性は独立してTUGに影響を与える要因であることが明らかとなった。このことから,THA患者の運動能力の改善には,患側筋力だけではなく荷重非対称性にも着目する必要があることが示唆された。荷重比を従属変数としたステップワイズ重回帰分析の結果,荷重比に影響する要因として股関節屈曲ROM比と膝関節伸展筋力比が選択された。患側の股関節屈曲可動域が小さい場合,起立動作時の屈曲相において患側の重心前方移動が不十分となり,結果として健側へ重心が偏移することが考えられる。また,もう1つの要因である膝関節伸展筋力は,患側が健側と比べて15%以上低下しており,荷重非対称改善のためには,健側のレベルを目標にして筋力向上を図る必要があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,THA患者のリハビリテーションにおいて荷重非対称性に着目することの重要性をTUGとの関連から明らかにしたものであり,得られた知見は理学療法治療の一助となると考えられる。