第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述50

人工股関節1

Sat. Jun 6, 2015 10:15 AM - 11:15 AM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:吉田佳弘(日本赤十字社長崎原爆病院 リハビリテーション科)

[O-0382] 人工股関節全置換術後,翌日でも静脈環流速度改善に有効なカフパンピング方法の検討

~術後急性期の深部静脈血栓症予防のために~

竹中裕1, 吉井秀仁1, 松橋彩2, 山田喜久2, 伊藤芳毅3 (1.社団医療法人かなめ会山内ホスピタルリハビリテーション部, 2.社団医療法人かなめ会山内ホスピタル整形外科, 3.岐阜大学医学部附属病院整形外科)

Keywords:人工股関節全置換術, 深部静脈血栓症, カフパンピング

【はじめに,目的】
足関節の底背屈運動(以下:カフパンピング)は,ガイドラインで深部静脈血栓症(以下:DVT)予防策の一つとして推奨されている。我々は昨年の本学会にて,人工股関節全置換術(以下:THA)術後早期において理学療法士が実施する足関節自動介助運動による大腿静脈環流速度改善効果について報告した。しかし,理学療法士が治療として関わる時間は限られる。今回,THA術翌日の患者でも可能な,つまり,少ないカフパンピング回数でも大腿静脈血流速度改善効果を得られる運動方法を考案することを目的とし,調査を行った。
【方法】
対象は,2014年2月~9月に当院で施行されたTHA患者のうち,女性の初回片側THAで,計測可能であった15症例15関節(平均年齢61.9±13.2歳)。計測は全て同一検者(医師)により,ベッドサイドで術前日,術翌日の2回実施された。術後患者の身体負担を考慮し,計測は1日1回のみとした。機器は超音波診断装置viamo(東芝メディカルシステムズ リニアプローブ12MHZ パルスドプラ法)を使用し,術側大腿静脈合流部(鼠径部)に対して,弁を避けて照射した。機器には10秒間の静脈平均最大血流速度(cm/sec)(以下:流速)の血流波形が記録可能で,得られた波形から,運動時の10秒間の平均流速として時間平均最大血流速度(以下:Vmean)を,運動時の瞬間的な流速増加の指標として収縮期最大血流速度(以下:VPS)を算出した。運動時流速の安静時との比較の指標として,流速%増加率{(運動時流速-安静時流速)/安静時流速×100%}を測定した。カフパンピングは,①60回/分(以下:自動60),②15回/分(以下:自動15),③腹式呼吸を行いながらのカフパンピング(以下:腹式+運動)(15回/分)の3種類について,メトロノームを用いて実施した。比較対象として,④腹式呼吸のみも計測した。各運動は術前,術翌日とも説明・練習を行った後,計測を実施した。なお,運動効果持続および順序の影響を排除するため,運動毎に十分な間隔をとり,運動順は計測日毎にランダム化した。統計処理は「R2.8.1」を用いて1元配置分散分析を行い,危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】
Vmeanの平均は,術前日-術翌日の順に,安静:8.3±3.3cm-6.8±1.6cm,自動60:13.1±3.3cm-8.9±3cm,自動15:12.8±4cm-8.6±1.8cm,腹式+運動:12.5±3cm-10.6±2.3cm,腹式呼吸のみ:8.4±3.2cm-7.3±2.1cmであった。流速%増加率は,術前日-術翌日の順に,自動60:74.2%-29%,自動15:64.7%-28%,腹式+運動:68%-58.9%,腹式呼吸:4.7%-9.2%であった。流速%増加率について,術前は運動間での差はなく,術翌日は腹式+運動で他項目より有意に上昇し,術前に比べて増加率が維持されていた。VPSの平均は,術前日-術翌日の順に,安静:13.8±4cm-15.3±2.9cm,自動60:36.6±8.7cm-24.2±8cm,自動15:48.9±11.7cm-28±8.5cm,腹式+運動:38.8±11cm-30.8±9.5cm,腹式呼吸のみ:19.4±7.6cm-19.1±5.5cmであった。流速%増加率は,術前日-術翌日の順に,自動60:185.4%-60.1%,自動15:274.4.5%-89.4%,腹式+運動:194.5%-107.3%,腹式呼吸:42.4%-22.6%であった。流速%増加率について,術前は自動60と自動15が他の3項目と比較して有意に上昇し,術翌日は運動項目間での差はみられなかった。
【考察】
腹式呼吸による呼吸ポンプ作用の機序は,(1)胸郭の拡大,(2)横隔膜押下げ,(3)胸郭が陰圧になる,(4)下大静脈が膨張・弛緩する,(5)その繰り返しが静脈還流量の増加をもたらすとされ,本研究中にもエコー照射部位で腹式呼吸に伴う大腿静脈の膨張・弛緩を確認することができた。今回の結果から,腹式+運動で筋ポンプ作用が補完され,術翌日で運動回数が少なくても平均流速改善効果がみられたと考える。一方,術翌日VPSの流速%増加率の減少について,術翌日は術前ほどの筋力発揮ができず,瞬間的な流速上昇には繋がらなかったと考える。今後,運動時の足関節角度・筋力と流速との関係,検者間・検者内信頼性の検証,大腿静脈血流速度改善とDVT予防の関連性について,調査を継続する必要がある。
【理学療法研究としての意義】
腹式呼吸を行いながらのカフパンピングは,女性で初回の片側THA術翌日患者に対し,無理のない運動回数でも大腿静脈平均血流速度改善に有効であることを示すことができた。理学療法以外の時間でも患者自身が可能な運動方法を指導することで,THA術後早期のDVT予防に繋がると考える。