第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述51

身体運動学3

2015年6月6日(土) 10:15 〜 11:15 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:相馬俊雄(新潟医療福祉大学 理学療法学科)

[O-0383] 踵骨-下腿の運動連鎖と足部アライメントの関係

踵骨回内外と下腿回旋の連動比率と距骨下関節軸の向きに着目して

江戸優裕1, 山本澄子2, 米澤俊和3 (1.文京学院大学, 2.国際医療福祉大学大学院, 3.イムス葛飾ハートセンター)

キーワード:運動連鎖, 足部アライメント, 距骨下関節

【はじめに,目的】
荷重位における踵骨回内と下腿内旋,および踵骨回外と下腿外旋の連動は,足部と下腿間での運動面の変換機能を有する運動連鎖である(以下,踵骨-下腿の運動連鎖)。この運動連鎖は,下肢の関節疾患の理学療法において特に重要視されているが,その動態は多くの報告でも連動の方向を述べるに留まっている。そこで我々は踵骨-下腿の運動連鎖の動態を解析し,踵骨と下腿の連動の比に個人差や性差があることを明らかにした(第49回日本理学療法学術大会)。今回は,こうした運動連鎖の動態に差が生じる解剖学的な根拠を得ることを目的に,運動連鎖と足部アライメントの関係を検討した。
【方法】
対象は下肢に整形外科疾患の既往のない健常成人15名(30肢)とした。対象者の内訳は男性9名・女性6名で,年齢は25.9±3.3歳,身長は167.7±9.1cm,体重は58.1±9.3kgであった。
運動連鎖の動態計測は,赤外線カメラMX-T8台で構成される三次元動作解析システムVICON-NEXUS(VICON社)を使用した。反射マーカーの貼付位置は,両側の腓骨頭・脛骨内側顆・内果・外果・踵後面・踵内側面・踵外側面・第1中足骨頭・第5中足骨頭の合計18点とした。計測課題は立位において両足部の能動的な回内外を反復する動作とした。得られたマーカー座標から下腿に対する踵骨の角度,足部に対する下腿の角度を算出した。この課題において踵骨回内外と下腿回旋は一定の比率で角度変化する(江戸ら2012)ため,両者の関係を一次回帰式で近似し,その係数[以下,連鎖比(下腿回旋角度/踵骨回内外角度)]を運動連鎖の動態の指標として捉えた。
足部アライメントの計測は,診断用X線高電圧装置UD150L-40E(島津製作所)を用いて診療放射線技師が撮像した単純X線画像を使用した。撮像対象は立位での両足部の側面像と底背像とした。得られた画像から,画像解析ソフトImageJ1.45l(米国国立衛生研究所)を用いて,35項目の骨アライメントを計測した。
連鎖比と足部アライメントの関係はPearsonの積率相関係数,またはSpearmanの順位相関係数を求め(Shapiro-Wilk検定により適切な方を選択),さらに交絡について偏相関係数を求めて検討した。なお,有意水準は危険率5%(p<0.05)で判定した。
【結果】
連鎖比は平均1.0±0.2であった(最大1.6~最小0.6)。
連鎖比と有意な相関を認めた足部アライメントは15項目(r・rs=|0.4|~|0.6|)あった。これらの特徴をまとめると,距骨と踵骨上前縁の後傾,中足部の回外,前足部の内転が大きいほど,連鎖比が大きいという関係にあった。
また,連鎖比を決定する解剖学的要因に言及するために,運動連鎖を構成する下腿・距骨・踵骨に独占的に関与する項目を抽出し,偏相関分析を行った。その結果,脛骨に対する距骨および踵骨上前縁の前後傾角度を制御変数とした場合に,他の項目の偏相関係数は最も減少した(r=|0.2|以下)。
【考察】
本研究により連鎖比の増大に関与する足部アライメントは,距骨と踵骨上前縁の後傾,中足部の回外,前足部の内転であることが分かった。これらのアライメントは,総じて内側縦アーチの挙上によって生じる変化と一致するため,臨床的にはアーチの評価が連鎖比の指標になる可能性があると推察される。
また,今回計測した足部アライメントのうち,最も本質的に連鎖比に関与するのは,距骨と踵骨上前縁の前後傾角度であることが分かった。距骨と踵骨上前縁の計測線は,矢状面上で距骨下関節(以下,ST関節)の関節面を挟むように位置している。したがって,これらの後傾はST関節の関節面の後傾を意味し,関節軸の後傾を招く。その結果,ST関節軸が下腿長軸と平行に近付くことにより,踵骨回内外に対する下腿回旋の変換効率が増大し,連鎖比が増大したと考える。すなわち,連鎖比は矢状面におけるST関節軸の向きにより規定されると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,足部内側縦アーチ挙上はST関節軸を下腿長軸に近付けることで下腿回旋を優位に生じさせ(連鎖比増大),逆にアーチ下降はST関節軸を足部長軸に近付けることで踵骨回内外を優位に生じさせる(連鎖比減少)ことが分かった。本研究の知見は,足部への介入により運動連鎖の動態をコントロールできる可能性や,運動連鎖の観点で動作分析を行う際の足部評価の必要性を示唆するものである。