第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述52

脳損傷理学療法7

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:保苅吉秀(順天堂大学医学部附属順天堂医院 リハビリテーション室)

[O-0396] 脳卒中片麻痺患者における補装具使用時の階段昇降動作の可否に関与する要因の検討

中祖直之, 松浦晃宏 (大山リハビリテーション病院リハビリテーション部)

Keywords:片麻痺患者, 階段昇降動作, 補装具

【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者(以下,片麻痺患者)における階段昇降動作は,平地歩行と比較して難度が高く,歩行が自立している片麻痺患者においても敬遠される傾向にある動作である。片麻痺患者における階段昇降能力は,日中の活動量や活動範囲と相関を認め,回復期以降の片麻痺患者においては,身体機能を高く維持するために,可能な限り自立へと導くことがリハビリテーションには求められる。片麻痺患者の階段昇降動作においては,複数の調査が報告され,非麻痺側下肢筋力や麻痺側下肢筋力,麻痺側下肢荷重率等の要因の関与が強いとされている。しかし先行研究においては,杖や短下肢装具などの臨床的に使用頻度の高い補装具の使用を許可しての調査を報告したものは少なく,それらの影響を加味した階段昇降動作の可否に関与する要因の検討が必要である。本研究の目的は,片麻痺患者における補装具使用時の階段昇降動作の可否に関与する要因を検討することである。
【方法】
立位保持が物的介助なく可能であり,平地歩行を自力で行え,日常的に杖または短下肢装具などの補装具を使用している片麻痺患者31名(年齢66.6±10.6歳,男性21名,女性10名)を対象とした。階段昇降動作の可否の判定には,高さ19cm,踏み面28cm,段数10段の院内に設置されている階段を使用し,昇降に際しては杖や短下肢装具の使用は許可し,手すりの使用は認めなかった。その他,先行研究により階段昇降動作に関与するとされる要因を中心として,下肢Brunnstrom recovery stage(以下,下肢BRS),深部感覚障害の有無,非麻痺側膝伸展筋力体重比,非麻痺側・麻痺側下肢荷重率を調査した。非麻痺側膝伸展筋力体重比は徒手筋力計ミュータスF-1を,下肢荷重率はアニマ社製下肢荷重計G620を用いて測定した。統計学的処理として,階段昇降動作の可否を従属変数,その他を説明変数として,階段昇降動作可能群と不可能群間で,説明変数の差の検定をt検定またはχ2検定を用いて行った。次に単変量解析にて有意差の認められた説明変数を用い,階段昇降動作の可否を従属変数とするロジスティック回帰分析を行い,階段昇降動作の可否に関与する要因を検討した。その際,多重共線性の影響を避けるために説明変数ごとに年齢と身長を調整したロジスティック回帰分析を行った。さらに,ロジスティック回帰分析により関与の認められた要因に対して,Youden法を用いてカットオフ値を算出した。解析にはSPSS ver.21を使用し,有意水準は5%未満とした。
【結果】
対象者31名中,階段昇降動作可能群は17名,不可能群は14名であった。階段昇降動作可能群と不可能群間での単変量解析では,非麻痺側下肢荷重率(p<0.01)と麻痺側下肢荷重率(p<0.01)に有意差を認めたが,下肢BRSと非麻痺側膝伸展筋力体重比,深部感覚障害の有無は有意差を認めなかった。ロジスティック回帰分析では,非麻痺側下肢荷重率(オッズ比1.344,95%信頼区間1.058-1.708,p<0.05)と麻痺側下肢荷重率(オッズ比1.186,95%信頼区間1.032-1.364,p<0.05)ともに階段昇降動作の可否に関与する有意な要因であった。また階段昇降動作の可否判別について,非麻痺側下肢荷重率のカットオフ値を84.2%とする場合,感度88.2%,特異度78.6%,曲線下面積0.861であった。麻痺側下肢荷重率においては,カットオフ値を77.3%とする場合,感度76.5%,特異度71.4%,曲線下面積0.769であった。
【考察】
補装具を使用した階段昇降動作の可否においては,非麻痺側下肢荷重率と麻痺側下肢荷重率が有意な関与を示す結果となり,麻痺側下肢荷重率の関与においては,多数の先行研究を支持する結果となった。また,非麻痺側下肢荷重率の関与に関しては,麻痺側下肢の支持能力を補装具にて代償した場合には,非麻痺側下肢の支持能力が階段昇降に際し重要な役割を担うものと考えられた。カットオフ値を算出した際の曲線化面積を比較しても,非麻痺側下肢荷重率は麻痺側下肢荷重率と同等の判別精度を示し,補装具使用時には非麻痺側下肢の支持能力が階段昇降動作の可否を左右する可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
補装具使用時の階段昇降動作においては,麻痺側下肢の支持能力に加え,非麻痺側下肢の支持能力もその可否を左右する要因の1つであることが示唆された。さらに,補装具使用時の階段昇降動作の可否に対して,非麻痺側下肢荷重率,麻痺側下肢荷重率それぞれのカットオフ値を示すことができたことは,臨床場面において階段昇降動作に対してアプローチする際の基礎資料のひとつとなり得る。