[O-0401] 糖尿病性末梢神経障害患者における身体機能と精神機能の特徴
―糖尿病患者との比較による検討―
Keywords:糖尿病性末梢神経障害, 身体機能, 精神機能
【はじめに,目的】
糖尿病(以下DM)患者が患う合併症のうち最も多く,早期に起きるものとして糖尿病性末梢神経障害(以下DPN)がある。DPN患者はDM患者と比較して重篤な合併症の罹患率や死亡率が高いことが報告されている。その原因の1つとして身体活動量が少ないことが報告されており,また,疲労の影響が大きいことが明らかになっている。しかし,DPN患者に対する運動指導は確立されておらず,DM患者と同様の運動指導が行われているのが現状である。DPN患者に対する身体活動量を増加させるアプローチを確立するためには,疲労を来す要因である身体機能ならびに精神機能の特徴を明らかにすることが重要と考えられる。そこで本研究はDPN患者における身体・精神機能の特徴を明らかにすることを目的とし,DM患者との比較により検討を行った。
【方法】
対象は当院に教育入院され内分泌内科より運動療法の処方が出されたDM患者22名(年齢56±10歳,身長165.0±8.8cm,体重66.7±13.6kg,BMI24.5±4.7kg/m2),DPN患者31名(年齢61±10歳,身長161.0±9.0cm,体重62.3±14.3kg,BMI23.9±4.8kg/m2)とした。DPNの診断は内分泌内科医によって行われ,整形外科的疾患や中枢性疾患,疼痛のある者については対象から除外した。測定項目は身体活動量の指標として国際標準化身体活動量質問表Long Versionを用い,消費エネルギー量を体重にて補正した値を用いた。身体機能は運動耐容能の指標として最大歩行速度による6分間歩行距離を用い,歩行の動揺性の指標として3軸加速度計を使用し,自己選択速度での10m歩行中のRoot Mean Square(以下RMS)を算出し,速度の2乗値で除した値を用いた。また足関節筋力の指標としてBIODEXを用い,足関節0°より最大随意収縮にて背屈,底屈を5秒間各3回実施し,最大トルク平均を体重にて補正した値を用いた。精神機能の指標はうつの程度を反映するPHQ-9と,DMに対する感情負担度を反映するPAIDを用いた。統計学的解析はIBM SPSS Statistics 23を用い,DM群,DPN群の比較として身体機能に対しては対応のないt検定を行い,精神機能に対してはMann-WhitneyのU検定を行った。各検定ともに有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
身体活動量はDM群15.0±8.0kcal/kg,DPN群9.5±8.6kcal/kgでありDPN群にて有意に低値を示した(p<0.05)。6分間歩行距離はDM群565.7±96.1m,DPN群494.1±96.8mでありDPN群にて有意に低値を示した(p<0.05)。RMSはDM群19.7±3.7m/sec2,DPN群22.2±4.4 m/sec2でありDPN群にて有意に高値を示した(p<0.05)。足関節底屈筋力はDM群133.2±51.4Nm/kg,DPN群100.6±36.5 Nm/kgでありDPN群にて有意に低値を示した(p<0.05)。足関節背屈筋力はDM群41.7±17.1 Nm/kg,DPN群34.9±9.9 Nm/kgであり有意差を認めなかった(p=0.15)。PHQ-9はDM群4(2-7),DPN群3(2-9)であり有意差を認めなかった(p=0.96)。PAIDはDM群38(26-46),DPN群42(21-52)であり有意差を認めなかった(p=0.26)。また,年齢,身長,体重,BMIは両群に有意な差を認めなかった。
【考察】
本研究において,DPN患者はDM患者と比較して身体活動量,運動耐容能,足関節底屈筋力が低く,歩行の動揺性が大きいことが明らかとなった。また,うつやDMに対する感情的な負担は両群にて有意差を認めなかった。DPNは末梢神経髄鞘の脱落や軸索の変形,筋委縮などにより筋力やバランス機能が低下することが報告されており,その結果DPN患者では歩行の動揺性が高値を示したと考えられる。DM患者は健常者と比較し,筋グリコーゲン含有量が少ないことやミトコンドリア機能の低下により運動耐容能は低値を示すが,DPN患者は加えて歩行の動揺性が大きく消費エネルギー量が多いことで運動耐容能が低下し,身体活動量の低下を助長していると考えられる。一方で,精神機能では両群に有意な差は見られなかった。精神機能にはストレスが影響を与えており,要因としては疼痛などの身体的要因や家族・職場における人間関係などの環境的要因が挙げられる。しかし本研究の対象者は疼痛が無く,運動が可能な者であり,また環境的要因自体はDPNの特有のものでないことから,精神機能には差が生じなかったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,DPN患者はDM患者と比較して精神機能には差が無く,身体機能が低下している特徴が明らかとなった。したがってDPN患者に対しては理学療法士が積極的に身体機能評価を行い,個人に合わせた運動指導を行っていく必要があると考えられる。
糖尿病(以下DM)患者が患う合併症のうち最も多く,早期に起きるものとして糖尿病性末梢神経障害(以下DPN)がある。DPN患者はDM患者と比較して重篤な合併症の罹患率や死亡率が高いことが報告されている。その原因の1つとして身体活動量が少ないことが報告されており,また,疲労の影響が大きいことが明らかになっている。しかし,DPN患者に対する運動指導は確立されておらず,DM患者と同様の運動指導が行われているのが現状である。DPN患者に対する身体活動量を増加させるアプローチを確立するためには,疲労を来す要因である身体機能ならびに精神機能の特徴を明らかにすることが重要と考えられる。そこで本研究はDPN患者における身体・精神機能の特徴を明らかにすることを目的とし,DM患者との比較により検討を行った。
【方法】
対象は当院に教育入院され内分泌内科より運動療法の処方が出されたDM患者22名(年齢56±10歳,身長165.0±8.8cm,体重66.7±13.6kg,BMI24.5±4.7kg/m2),DPN患者31名(年齢61±10歳,身長161.0±9.0cm,体重62.3±14.3kg,BMI23.9±4.8kg/m2)とした。DPNの診断は内分泌内科医によって行われ,整形外科的疾患や中枢性疾患,疼痛のある者については対象から除外した。測定項目は身体活動量の指標として国際標準化身体活動量質問表Long Versionを用い,消費エネルギー量を体重にて補正した値を用いた。身体機能は運動耐容能の指標として最大歩行速度による6分間歩行距離を用い,歩行の動揺性の指標として3軸加速度計を使用し,自己選択速度での10m歩行中のRoot Mean Square(以下RMS)を算出し,速度の2乗値で除した値を用いた。また足関節筋力の指標としてBIODEXを用い,足関節0°より最大随意収縮にて背屈,底屈を5秒間各3回実施し,最大トルク平均を体重にて補正した値を用いた。精神機能の指標はうつの程度を反映するPHQ-9と,DMに対する感情負担度を反映するPAIDを用いた。統計学的解析はIBM SPSS Statistics 23を用い,DM群,DPN群の比較として身体機能に対しては対応のないt検定を行い,精神機能に対してはMann-WhitneyのU検定を行った。各検定ともに有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
身体活動量はDM群15.0±8.0kcal/kg,DPN群9.5±8.6kcal/kgでありDPN群にて有意に低値を示した(p<0.05)。6分間歩行距離はDM群565.7±96.1m,DPN群494.1±96.8mでありDPN群にて有意に低値を示した(p<0.05)。RMSはDM群19.7±3.7m/sec2,DPN群22.2±4.4 m/sec2でありDPN群にて有意に高値を示した(p<0.05)。足関節底屈筋力はDM群133.2±51.4Nm/kg,DPN群100.6±36.5 Nm/kgでありDPN群にて有意に低値を示した(p<0.05)。足関節背屈筋力はDM群41.7±17.1 Nm/kg,DPN群34.9±9.9 Nm/kgであり有意差を認めなかった(p=0.15)。PHQ-9はDM群4(2-7),DPN群3(2-9)であり有意差を認めなかった(p=0.96)。PAIDはDM群38(26-46),DPN群42(21-52)であり有意差を認めなかった(p=0.26)。また,年齢,身長,体重,BMIは両群に有意な差を認めなかった。
【考察】
本研究において,DPN患者はDM患者と比較して身体活動量,運動耐容能,足関節底屈筋力が低く,歩行の動揺性が大きいことが明らかとなった。また,うつやDMに対する感情的な負担は両群にて有意差を認めなかった。DPNは末梢神経髄鞘の脱落や軸索の変形,筋委縮などにより筋力やバランス機能が低下することが報告されており,その結果DPN患者では歩行の動揺性が高値を示したと考えられる。DM患者は健常者と比較し,筋グリコーゲン含有量が少ないことやミトコンドリア機能の低下により運動耐容能は低値を示すが,DPN患者は加えて歩行の動揺性が大きく消費エネルギー量が多いことで運動耐容能が低下し,身体活動量の低下を助長していると考えられる。一方で,精神機能では両群に有意な差は見られなかった。精神機能にはストレスが影響を与えており,要因としては疼痛などの身体的要因や家族・職場における人間関係などの環境的要因が挙げられる。しかし本研究の対象者は疼痛が無く,運動が可能な者であり,また環境的要因自体はDPNの特有のものでないことから,精神機能には差が生じなかったと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,DPN患者はDM患者と比較して精神機能には差が無く,身体機能が低下している特徴が明らかとなった。したがってDPN患者に対しては理学療法士が積極的に身体機能評価を行い,個人に合わせた運動指導を行っていく必要があると考えられる。