[O-0402] 起立負荷時の自律神経反応における糖尿病患者と健常者の比較
Keywords:糖尿病, 自律神経障害, 姿勢変化
【はじめに,目的】
糖尿病神経障害は,糖尿病腎症,糖尿病網膜症と並ぶ糖尿病の三大合併症のひとつである。自律神経障害は糖尿病神経障害のうち多発神経障害に分類され,症状が進行すると,瞳孔機能異常,発汗異常,起立性低血圧,胃不全麻痺,便通異常,胆嚢無力症,膀胱障害,勃起障害,無自覚低血圧などといった形で全身に影響を及ぼすようになる。
『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013』によると,自律神経障害を有する患者では運動中に血圧低下や上昇を起こしやすく運動中に突然死や無症候性心筋梗塞などの合併症を起こすリスクが高いため,慎重に運動療法を進めていく必要性が示されている。先行研究においても2型糖尿病患者における自律神経障害は心血管死亡リスクであることが報告されており(Beijers HJ, et al. Diabetes Care. 32(9):1698-703. 2009),自律神経の評価に心拍変動検査は簡便で有用とされている。しかし身体的な動作を行ったときの自律神経活動について,糖尿病患者と健常者でどのように異なるかは十分には明らかとなっていない。また運動処方を行う理学療法においては,安静時や深呼吸時のみでなく姿勢変換時や運動負荷時の自律神経活動が重要であると考えられる。
そこで本研究は,座位から立位へ姿勢変化をさせたときの自律神経反応について,健常群と糖尿病群で比較検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院にて糖尿病教育を目的に入院中であり,測定の主旨と方法を説明した上で同意を得られた10名を糖尿病群とした。また当院職員を対象とした公募の体力測定において,研究に同意を得られた方のうち年齢30歳以上の28名を健常群とした。
評価項目はCVRR(R-R間隔変動係数),L/H(心電計における低周波0.04-0.15Hz成分と高周波0.15-0.40Hz成分の比),CCVHF(高周波成分のゆらぎ係数)とした。心電はII誘導にてサンプリング周波数1000Hzで記録した。測定姿勢は数分間の安静の後,1分間の安静椅子座位,起立直後から1分間の立位とした。各1分間の平均を測定値とし,立位と座位の差をそれぞれΔCVRR,ΔL/H,ΔCCVHFとした。測定と解析はきりつ名人(クロスウェル社)を用いて行った。また体脂肪率,SMI(Skeletal Muscle Mass Index)の測定にはInBody720(Biospace社)を用いた。また身体能力指標として閉眼片脚立位時間の左右平均値,利き手握力を併せて測定した。統計学的解析は,Shapiro-Wilk検定にて正規性の検定を行い,正規性を認めたものは対応のないt検定を,正規性を認めなかったものはMann-WhitneyのU検定を用いて両群間の比較を行った。
【結果】
健常群vs糖尿病群の平均値はそれぞれ,年齢が41.4±10.1歳vs 46.0±17.3歳(p=0.40),男性比率は36% vs 60%,BMIが21.4±2.6 kg/m2 vs 28.9±7.3kg/m2(p<0.01)であった。糖尿病群では罹病歴7.5±8.2年,空腹時血糖149.0±65.0mg/dl,HbA1c9.6±1.8%であった。糖尿病群10名におけるインスリン使用者数は7名,内服者数は降圧薬が4名,βブロッカーが1名,脂質改善薬が3名であった。収縮時血圧は123.4±12.6mmHg vs 119.4±11.7mmHg(p=0.15),拡張期血圧は79.1±7.5mmHg vs 74.3±7.4mmHg(p=0.09)であった。閉眼片脚立位時間は37.1±22.9秒vs 8.5±7.2秒(p<0.01),握力は35.6±12.7kgf vs31.8±9.8kgf(p=0.54)であった。体脂肪率は23.7±7.2% vs 35.8±7.3%(p<0.01),SMIは18.7±4.8kg/m2 vs 21.2±6.2kg/m2(p=0.29)であった。ΔCVRRは1.6±1.9% vs 1.4±1.7%(p=0.80),ΔL/Hは3.3±3.6 vs 0.5±3.9(p=0.05),ΔCCVHFは-0.1±0.5 vs 0.2±0.4(p=0.08)であった。
【考察】
L/Hを交感神経指標,CCVHFを副交感神経指標(Hayano J, et al. Am J Cardiol. 15;67(2):199-204. 1991)としたとき,座位から立位への姿勢変化において,糖尿病群は健常群と比較して交感神経の活動は増加せず,副交感神経の活動低下は小さい傾向を認めた。しかし両群間には体組成や身体機能の差も認められたことから,今回の結果が糖尿病特有の現象を反映したものとは断定できない。またその他の限界点として,統計学的パワーを考慮せずに実施した予備的研究である点,糖尿病群が教育入院中の患者であり糖尿病患者全体に一般化できる結果ではない点などが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
糖尿病患者と健常者では姿勢変化中の自律神経反応が異なる可能性を示唆した。
糖尿病神経障害は,糖尿病腎症,糖尿病網膜症と並ぶ糖尿病の三大合併症のひとつである。自律神経障害は糖尿病神経障害のうち多発神経障害に分類され,症状が進行すると,瞳孔機能異常,発汗異常,起立性低血圧,胃不全麻痺,便通異常,胆嚢無力症,膀胱障害,勃起障害,無自覚低血圧などといった形で全身に影響を及ぼすようになる。
『科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013』によると,自律神経障害を有する患者では運動中に血圧低下や上昇を起こしやすく運動中に突然死や無症候性心筋梗塞などの合併症を起こすリスクが高いため,慎重に運動療法を進めていく必要性が示されている。先行研究においても2型糖尿病患者における自律神経障害は心血管死亡リスクであることが報告されており(Beijers HJ, et al. Diabetes Care. 32(9):1698-703. 2009),自律神経の評価に心拍変動検査は簡便で有用とされている。しかし身体的な動作を行ったときの自律神経活動について,糖尿病患者と健常者でどのように異なるかは十分には明らかとなっていない。また運動処方を行う理学療法においては,安静時や深呼吸時のみでなく姿勢変換時や運動負荷時の自律神経活動が重要であると考えられる。
そこで本研究は,座位から立位へ姿勢変化をさせたときの自律神経反応について,健常群と糖尿病群で比較検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院にて糖尿病教育を目的に入院中であり,測定の主旨と方法を説明した上で同意を得られた10名を糖尿病群とした。また当院職員を対象とした公募の体力測定において,研究に同意を得られた方のうち年齢30歳以上の28名を健常群とした。
評価項目はCVRR(R-R間隔変動係数),L/H(心電計における低周波0.04-0.15Hz成分と高周波0.15-0.40Hz成分の比),CCVHF(高周波成分のゆらぎ係数)とした。心電はII誘導にてサンプリング周波数1000Hzで記録した。測定姿勢は数分間の安静の後,1分間の安静椅子座位,起立直後から1分間の立位とした。各1分間の平均を測定値とし,立位と座位の差をそれぞれΔCVRR,ΔL/H,ΔCCVHFとした。測定と解析はきりつ名人(クロスウェル社)を用いて行った。また体脂肪率,SMI(Skeletal Muscle Mass Index)の測定にはInBody720(Biospace社)を用いた。また身体能力指標として閉眼片脚立位時間の左右平均値,利き手握力を併せて測定した。統計学的解析は,Shapiro-Wilk検定にて正規性の検定を行い,正規性を認めたものは対応のないt検定を,正規性を認めなかったものはMann-WhitneyのU検定を用いて両群間の比較を行った。
【結果】
健常群vs糖尿病群の平均値はそれぞれ,年齢が41.4±10.1歳vs 46.0±17.3歳(p=0.40),男性比率は36% vs 60%,BMIが21.4±2.6 kg/m2 vs 28.9±7.3kg/m2(p<0.01)であった。糖尿病群では罹病歴7.5±8.2年,空腹時血糖149.0±65.0mg/dl,HbA1c9.6±1.8%であった。糖尿病群10名におけるインスリン使用者数は7名,内服者数は降圧薬が4名,βブロッカーが1名,脂質改善薬が3名であった。収縮時血圧は123.4±12.6mmHg vs 119.4±11.7mmHg(p=0.15),拡張期血圧は79.1±7.5mmHg vs 74.3±7.4mmHg(p=0.09)であった。閉眼片脚立位時間は37.1±22.9秒vs 8.5±7.2秒(p<0.01),握力は35.6±12.7kgf vs31.8±9.8kgf(p=0.54)であった。体脂肪率は23.7±7.2% vs 35.8±7.3%(p<0.01),SMIは18.7±4.8kg/m2 vs 21.2±6.2kg/m2(p=0.29)であった。ΔCVRRは1.6±1.9% vs 1.4±1.7%(p=0.80),ΔL/Hは3.3±3.6 vs 0.5±3.9(p=0.05),ΔCCVHFは-0.1±0.5 vs 0.2±0.4(p=0.08)であった。
【考察】
L/Hを交感神経指標,CCVHFを副交感神経指標(Hayano J, et al. Am J Cardiol. 15;67(2):199-204. 1991)としたとき,座位から立位への姿勢変化において,糖尿病群は健常群と比較して交感神経の活動は増加せず,副交感神経の活動低下は小さい傾向を認めた。しかし両群間には体組成や身体機能の差も認められたことから,今回の結果が糖尿病特有の現象を反映したものとは断定できない。またその他の限界点として,統計学的パワーを考慮せずに実施した予備的研究である点,糖尿病群が教育入院中の患者であり糖尿病患者全体に一般化できる結果ではない点などが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
糖尿病患者と健常者では姿勢変化中の自律神経反応が異なる可能性を示唆した。