[O-0403] 有酸素運動による血糖降下作用とインスリン療法との関係
―2型糖尿病合併冠動脈バイバス術後患者での検討―
Keywords:2型糖尿病, インスリン療法, 冠動脈バイパス術
【はじめに,目的】
周術期における積極的な血糖管理は合併症の罹患や死亡率の減少,手術部位感染,創傷治癒の改善に有益であり,日常の臨床で糖尿病を合併した冠動脈バイパス術後患者に対してもインスリン療法が積極的に導入されている。その反面,低血糖に伴う交感神経系の亢進は心血管イベントを引き起こしたり,動脈硬化の発症進展に影響を与える可能性が示唆されており注意が必要である。糖尿病診療ガイドラインでは運動療法を実施する際,インスリン療法を行っているものでは運動療法前後での血糖値変動が大きくなる可能性が示されている。我々は冠動脈バイパス術後において有酸素運動前後で個々の症例で血糖値変動が異なる事を経験するものの,本邦で2型糖尿病合併冠動脈バイバス術後患者を対象にインスリン療法との関連を検討した報告は少ない。そこで,本研究の目的は2型糖尿病合併冠動脈バイパス術後患者を対象に有酸素運動前後での血糖値変動にインスリン療法や投与量が関係しているのかどうかを明らかにすることとした。
【方法】
2型糖尿病合併冠動脈バイパス術後患者41名(男性33名,女性8名,年齢:67.2±9.4歳,BMI:25.0±3.6kg/m2,HbA1c:7.3±0.9%)を対象とした。除外基準として糖尿病腎症第3期B以上もしくは重症網膜症(増殖前網膜症,増殖網膜症)を認めるもの。また,心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインに準拠した。対象者はインスリン療法を行っている群27名(Insulin群)とインスリン療法を行っていない群14名(非Insulin群)の2群に分類し比較検討した。検討項目は2群の患者背景因子(年齢,性別,HbA1c,BMI,左室駆出率)と運動前血糖値,有酸素運動前後での血糖値の差(⊿BS)とした。また,Insulin群では⊿BSと測定日の一日総インスリン単位数,昼食前インスリン単位数との関係を検討した。2つの群において,運動プロトコルは統一し,ウォーミングアップ10分間,有酸素運動20分間,クールダウン10分間で運動終了とした。運動強度はBorg Scale11~13で実施し,全例が院内昼食を摂取後1~3時間後に実施した。血糖値は三和化学研究所社製グルテストミント(グルコース分析装置)を使用し,有酸素運動前後に測定した。統計学的手法は両群間の患者背景因子と運動前血糖値,⊿BSの比較には対応のないt検定,Insulin群における⊿BSと測定日の一日総インスリン単位数,昼食前インスリン単位数との相関の検討にはピアソンの積率相関係数を用いて解析を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
両群間において年齢,性別,BMI,左室駆出率は有意差を認めなかったが,HbA1cは非Insulin群に比べInsulin群で有意に高かった(6.8±0.6 vs 7.5±1.0,p=0.015)。有酸素運動前後での血糖値変動に関しては運動前血糖値には両群間で有意差はなかったが,⊿BSは非Insulin群に比べInsulin群で大きい傾向にあった(14.9±11.2 vs 23.8±14.8,p=0.055)。一方,Insulin群において,⊿BSと測定日の一日総インスリン単位数,昼食前インスリン単位数との相関係数はr=0.199,r=0.152であり,有意な相関関係を認めなかった。
【考察】
今回の対象群ではInsulin群は非Insulin群に比べ,血糖コントロールが不良であった。そのため,Insulin群では有酸素運動前後で血糖値の差が大きくなる傾向にあり,インスリン療法が運動の血糖降下作用に影響を及ぼしている可能性が示された。一方,Insulin群において,本研究では運動前後の血糖値の差と一日総インスリン単位数,昼食前インスリン単位数との間には相関関係を認めておらず,インスリン単位数と運動の血糖降下作用との関係性は小さいと考えられる。しかし,本研究では血清インスリン濃度や内因性インスリン分泌能,インスリン抵抗性を含めた検討が行われておらず,今後はこれらの指標とインスリン療法が運動の血糖降下作用に及ぼす影響を検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
近年2型糖尿病の患者数が増加の一途をたどっており,今後虚血性心疾患などの大血管障害を合併し,冠動脈バイパス術を施行する症例も増加することが予想される。また,食後高血糖や低血糖が心臓血管イベントの危険因子となることが明らかとなっている。このような症例に対しては周術期より積極的にインスリン療法が導入されており,運動療法は食後高血糖の改善を行う上で重要な治療であるが,それに伴う低血糖に対するリスク管理も重要である。本研究はこれらの症例に対して安全に運動療法を行う上で,リスク管理を考える際の一つの要因として臨床的な意義があると考えられる。
周術期における積極的な血糖管理は合併症の罹患や死亡率の減少,手術部位感染,創傷治癒の改善に有益であり,日常の臨床で糖尿病を合併した冠動脈バイパス術後患者に対してもインスリン療法が積極的に導入されている。その反面,低血糖に伴う交感神経系の亢進は心血管イベントを引き起こしたり,動脈硬化の発症進展に影響を与える可能性が示唆されており注意が必要である。糖尿病診療ガイドラインでは運動療法を実施する際,インスリン療法を行っているものでは運動療法前後での血糖値変動が大きくなる可能性が示されている。我々は冠動脈バイパス術後において有酸素運動前後で個々の症例で血糖値変動が異なる事を経験するものの,本邦で2型糖尿病合併冠動脈バイバス術後患者を対象にインスリン療法との関連を検討した報告は少ない。そこで,本研究の目的は2型糖尿病合併冠動脈バイパス術後患者を対象に有酸素運動前後での血糖値変動にインスリン療法や投与量が関係しているのかどうかを明らかにすることとした。
【方法】
2型糖尿病合併冠動脈バイパス術後患者41名(男性33名,女性8名,年齢:67.2±9.4歳,BMI:25.0±3.6kg/m2,HbA1c:7.3±0.9%)を対象とした。除外基準として糖尿病腎症第3期B以上もしくは重症網膜症(増殖前網膜症,増殖網膜症)を認めるもの。また,心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインに準拠した。対象者はインスリン療法を行っている群27名(Insulin群)とインスリン療法を行っていない群14名(非Insulin群)の2群に分類し比較検討した。検討項目は2群の患者背景因子(年齢,性別,HbA1c,BMI,左室駆出率)と運動前血糖値,有酸素運動前後での血糖値の差(⊿BS)とした。また,Insulin群では⊿BSと測定日の一日総インスリン単位数,昼食前インスリン単位数との関係を検討した。2つの群において,運動プロトコルは統一し,ウォーミングアップ10分間,有酸素運動20分間,クールダウン10分間で運動終了とした。運動強度はBorg Scale11~13で実施し,全例が院内昼食を摂取後1~3時間後に実施した。血糖値は三和化学研究所社製グルテストミント(グルコース分析装置)を使用し,有酸素運動前後に測定した。統計学的手法は両群間の患者背景因子と運動前血糖値,⊿BSの比較には対応のないt検定,Insulin群における⊿BSと測定日の一日総インスリン単位数,昼食前インスリン単位数との相関の検討にはピアソンの積率相関係数を用いて解析を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
両群間において年齢,性別,BMI,左室駆出率は有意差を認めなかったが,HbA1cは非Insulin群に比べInsulin群で有意に高かった(6.8±0.6 vs 7.5±1.0,p=0.015)。有酸素運動前後での血糖値変動に関しては運動前血糖値には両群間で有意差はなかったが,⊿BSは非Insulin群に比べInsulin群で大きい傾向にあった(14.9±11.2 vs 23.8±14.8,p=0.055)。一方,Insulin群において,⊿BSと測定日の一日総インスリン単位数,昼食前インスリン単位数との相関係数はr=0.199,r=0.152であり,有意な相関関係を認めなかった。
【考察】
今回の対象群ではInsulin群は非Insulin群に比べ,血糖コントロールが不良であった。そのため,Insulin群では有酸素運動前後で血糖値の差が大きくなる傾向にあり,インスリン療法が運動の血糖降下作用に影響を及ぼしている可能性が示された。一方,Insulin群において,本研究では運動前後の血糖値の差と一日総インスリン単位数,昼食前インスリン単位数との間には相関関係を認めておらず,インスリン単位数と運動の血糖降下作用との関係性は小さいと考えられる。しかし,本研究では血清インスリン濃度や内因性インスリン分泌能,インスリン抵抗性を含めた検討が行われておらず,今後はこれらの指標とインスリン療法が運動の血糖降下作用に及ぼす影響を検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
近年2型糖尿病の患者数が増加の一途をたどっており,今後虚血性心疾患などの大血管障害を合併し,冠動脈バイパス術を施行する症例も増加することが予想される。また,食後高血糖や低血糖が心臓血管イベントの危険因子となることが明らかとなっている。このような症例に対しては周術期より積極的にインスリン療法が導入されており,運動療法は食後高血糖の改善を行う上で重要な治療であるが,それに伴う低血糖に対するリスク管理も重要である。本研究はこれらの症例に対して安全に運動療法を行う上で,リスク管理を考える際の一つの要因として臨床的な意義があると考えられる。