[O-0404] 糖尿病患者における坐位時間に関連する要因の検討
―機能的要因,心理的要因,環境的要因の比較―
キーワード:2型糖尿病患者, 坐位時間, 関連要因
【諸言】
糖尿病療養に於ける運動療法は,糖尿病発症・予防,あるいは糖尿病コントロールを目的に行われ,食事療法と併せて実行された場合の効果は高い。しかしセルフケア行動の実施率では食事療法と同様に実施率は低い。運動行動変容に関連する要因として身体機能に加え,心理的要因,環境的要因との関連が多く報告されている。また糖尿病発症には身体活動量の少なさ(坐位時間)が関連することが知られており,坐位時間の長さも糖尿病発症のリスクとされている。これまで坐位時間に関して各要因との関連について諸家らの報告はあるが,坐位時間に関する要因を身体機能,心理的要因,環境的要因で検討した報告は我々の渉猟の範囲では見当たらない。そこで,本研究では糖尿病教育目的で入院となった患者を対象に坐位時間に関するアンケート調査を行い,関連する要因を明らかにすることを目的とする。
【方法】
当院に糖尿病教育目的で入院となった2型糖尿病患者のうち,除外基準と取り込み条件を満たす40名(平均年齢61.3±12.8歳)を対象とした。調査事項は身体活動量として国際標準化身体活動質問票(IPAQ)を用い,心理的要因では自己効力感(SE)として運動SE,身体活動SE,健康関連QOLとしてSF-8を用い,心理的負担感として糖尿病問題領域質問票(PAID)を用い,健康統制感として多次元的健康統制感(MHLC)を用い,環境的要因の評価として国際標準化身体活動質問紙環境尺度(IPAQ-E)を用い,ペットの有無を自己記入式で調査した。身体機能として握力,等尺性膝伸展筋力,10m歩行速度を測定した。また患者属性として診療記録から年齢,性別,糖尿病罹病期間,HbA1c値,運動行動変容ステージ,同居家族の有無,仕事内容(坐業)を調査した。IPAQはより簡便なshort versionを使用し坐位時間を算出した。各変数は運動SE,PAIDでは合計点,身体活動SE,SF-8,IPAQ-E,MHLCでは下位項目を算出し用いた。各調査項目に準じて4~6段階リッカート式尺度で尋ね,その合計または下位項目単独で比較した。統計学的解析について坐位時間とその他の項目について単変量解析(Mann-WhitneyのU検定,Spearmanの順位相関分析)を用いて分析した。単変量解析で坐位時間に関連のあった項目を独立変数,坐位時間を従属変数としてStepwise法による重回帰分析を行い,坐位時間に影響を与える要因を抽出した。なお重回帰分析の実施にあたっては分散拡大要因(VIF)を算出し多重共線性に配慮した。統計解析にはSPSS ver.15.0 Jを使用した。いずれの検定も統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
単変量解析の結果,坐位時間と関連のあった項目は年齢,下肢SE,SF8の項目「健康状態」,「日常生活」,IPAQ-Eの項目「日用品を買うためのお店などたくさんある」,「安価に利用できるレクリエーション施設がいくつかある」,「十字路や交差点がある」,「交通量が多く自転車乗ることに危険を感じる」,MHLCの下位項目IHLCであった。重回帰分析の結果,坐位時間に影響を与える要因として第1に下肢SE,第2にIHLC,第3に「日用品を買うためのお店などたくさんある」が選択され,決定係数R2は0.67となった。各変数のVIF値は1.01~1.04であった。
【考察】
坐位時間に影響を与える要因として下肢SE,IHLC,「日用品を買うためのお店などたくさんある」が重要であることが明らかとなった。機能的要因は抽出されず心理的要因,環境的要因が抽出された。坐位時間に関して先行研究でも自宅近隣のウォーカビリティが低い地域に住む女性のテレビ視聴時間が長いなど先行研究を支持する結果となった。身体活動のガイドラインで推奨されている中等度強度以上の身体活動量の多寡にかかわらず,坐位行動の時間が長いことも糖尿病発症のリスクになるとされ,活動時間だけではなく坐位時間の短縮も目指して行く必要がある。本研究の限界としてあくまでも自己申告制の歩行時間,坐位時間であるため客観性に欠け,信頼性を検討できていないことが挙げられる。今後は加速度センサ付歩数計を用い客観的に活動量を評価して行きたい。
【理学療法学研究としての意義】
坐位時間に影響を与える要因を多要因で検討した報告は少ない。歩行時間の延長を促すのみでなく,併せて坐位時間の短縮に対しても異なる視点で取り組む必要性がある。
糖尿病療養に於ける運動療法は,糖尿病発症・予防,あるいは糖尿病コントロールを目的に行われ,食事療法と併せて実行された場合の効果は高い。しかしセルフケア行動の実施率では食事療法と同様に実施率は低い。運動行動変容に関連する要因として身体機能に加え,心理的要因,環境的要因との関連が多く報告されている。また糖尿病発症には身体活動量の少なさ(坐位時間)が関連することが知られており,坐位時間の長さも糖尿病発症のリスクとされている。これまで坐位時間に関して各要因との関連について諸家らの報告はあるが,坐位時間に関する要因を身体機能,心理的要因,環境的要因で検討した報告は我々の渉猟の範囲では見当たらない。そこで,本研究では糖尿病教育目的で入院となった患者を対象に坐位時間に関するアンケート調査を行い,関連する要因を明らかにすることを目的とする。
【方法】
当院に糖尿病教育目的で入院となった2型糖尿病患者のうち,除外基準と取り込み条件を満たす40名(平均年齢61.3±12.8歳)を対象とした。調査事項は身体活動量として国際標準化身体活動質問票(IPAQ)を用い,心理的要因では自己効力感(SE)として運動SE,身体活動SE,健康関連QOLとしてSF-8を用い,心理的負担感として糖尿病問題領域質問票(PAID)を用い,健康統制感として多次元的健康統制感(MHLC)を用い,環境的要因の評価として国際標準化身体活動質問紙環境尺度(IPAQ-E)を用い,ペットの有無を自己記入式で調査した。身体機能として握力,等尺性膝伸展筋力,10m歩行速度を測定した。また患者属性として診療記録から年齢,性別,糖尿病罹病期間,HbA1c値,運動行動変容ステージ,同居家族の有無,仕事内容(坐業)を調査した。IPAQはより簡便なshort versionを使用し坐位時間を算出した。各変数は運動SE,PAIDでは合計点,身体活動SE,SF-8,IPAQ-E,MHLCでは下位項目を算出し用いた。各調査項目に準じて4~6段階リッカート式尺度で尋ね,その合計または下位項目単独で比較した。統計学的解析について坐位時間とその他の項目について単変量解析(Mann-WhitneyのU検定,Spearmanの順位相関分析)を用いて分析した。単変量解析で坐位時間に関連のあった項目を独立変数,坐位時間を従属変数としてStepwise法による重回帰分析を行い,坐位時間に影響を与える要因を抽出した。なお重回帰分析の実施にあたっては分散拡大要因(VIF)を算出し多重共線性に配慮した。統計解析にはSPSS ver.15.0 Jを使用した。いずれの検定も統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
単変量解析の結果,坐位時間と関連のあった項目は年齢,下肢SE,SF8の項目「健康状態」,「日常生活」,IPAQ-Eの項目「日用品を買うためのお店などたくさんある」,「安価に利用できるレクリエーション施設がいくつかある」,「十字路や交差点がある」,「交通量が多く自転車乗ることに危険を感じる」,MHLCの下位項目IHLCであった。重回帰分析の結果,坐位時間に影響を与える要因として第1に下肢SE,第2にIHLC,第3に「日用品を買うためのお店などたくさんある」が選択され,決定係数R2は0.67となった。各変数のVIF値は1.01~1.04であった。
【考察】
坐位時間に影響を与える要因として下肢SE,IHLC,「日用品を買うためのお店などたくさんある」が重要であることが明らかとなった。機能的要因は抽出されず心理的要因,環境的要因が抽出された。坐位時間に関して先行研究でも自宅近隣のウォーカビリティが低い地域に住む女性のテレビ視聴時間が長いなど先行研究を支持する結果となった。身体活動のガイドラインで推奨されている中等度強度以上の身体活動量の多寡にかかわらず,坐位行動の時間が長いことも糖尿病発症のリスクになるとされ,活動時間だけではなく坐位時間の短縮も目指して行く必要がある。本研究の限界としてあくまでも自己申告制の歩行時間,坐位時間であるため客観性に欠け,信頼性を検討できていないことが挙げられる。今後は加速度センサ付歩数計を用い客観的に活動量を評価して行きたい。
【理学療法学研究としての意義】
坐位時間に影響を与える要因を多要因で検討した報告は少ない。歩行時間の延長を促すのみでなく,併せて坐位時間の短縮に対しても異なる視点で取り組む必要性がある。