第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述53

代謝1

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:浅田史成(大阪労災病院 勤労者予防医療センター 運動指導部門), 河江敏広(広島大学病院診療支援部 リハビリテーション部門)

[O-0405] 経時的な身体活動量に及ぼす地域環境因子の特定

池永千寿子1, 黒山荘太1, 野原栄2, 野村卓生3 (1.製鉄記念八幡病院リハビリテーション部, 2.製鉄記念八幡病院糖尿病内科, 3.関西福祉科学大学保健医療学部)

キーワード:身体活動量, 環境因子, 2型糖尿病

【はじめに,目的】
運動療法を継続できない要因は様々である。近年,歩行時間・歩行量と地域の環境特徴との関連を示す報告や田舎より都心の方が身体活動量は高いなど,地域環境が身体活動量へ及ぼす影響が多数報告されている。「場所がない」も臨床でよく聞かれる声である。交通や治安・道路状況など地域環境因子への不安や,運動できる場所が少ないなどの問題を訴える患者は少なくない。地域特徴に一般的なものはなく,各地域においてその因子は異なると考える。当院のある北九州市は福岡県の中で最も面積が広いが,山地が多く,平野部が少なく住宅や工場など生活地域が集中し,市街化は市域の約3割のみである。特に当院は山の麓に位置し,坂道が多い地域に位置する。北九州市在住の当院に通院する患者の地域環境を把握することは,充実した運動療法指導を可能にする。また,身体活動の発現に関する刺激と継続を可能にする因子は,それぞれ異なると考える。そこで,地域環境因子と教育入院時から退院6ヵ月後までの身体活動量との関連を経時的に分析し,その特徴を示すことを目的とした。
【方法】対象は2012年8月から2014年1月までに糖尿病教育入院され,理学療法士が運動療法教育を担当した2型糖尿病患者151名のうち,退院6カ月後までの追跡が可能で,追跡期間中重篤な合併症の発症などで運動療法の適応外となった患者を除く121名(男性71名,58.8±11.8歳,BMI 25.4±4.5kg/m2,推定罹患期間8.9±9.1年)を解析した。介入は,入院中と退院1・3・6カ月後に運動療法における相談と机上での個別指導を実施した。評価項目は,近隣環境に関する因子の特定に,住居形態や交通量・治安・歩道・景観の17項目に対しどの程度当てはまるかを4つの選択肢より選ぶ国際標準化身体活動質問紙環境尺度(IPAQ-E)を使用した。身体活動量(運動(運動療法含む)+生活活動)は,国際標準化身体活動質問票(IPAQ short version)を用いて入院前・退院1ヵ月後・6ヵ月後に収集した。さらに入院前から退院1ヵ月後までの身体活動変化量も算出した。統計分析には入院前・退院1ヵ月後・6ヵ月後身体活動量と入院前から退院1ヵ月後までの身体活動変化量を目的変数とし,IPAQ-Eの項目と各目的変数とを単相関を用いて項目を限定し説明変数とし,IBMSPSSver.18.0を用いてstepwise重回帰分析を行った。有意水準は5%とした

【結果】入院前の身体活動量と近隣環境因子の間には相関を認めなかった。退院1ヵ月後では,「日用品を買うためのお店などが,自宅から簡単に歩いて行ける範囲にたくさんある」(標準化係数β=0.44,t=3.81,95%CI=1.24-4.00),「外を歩くと興味引かれるものがたくさんある」(標準化係数β=0.49,t=3.65,95%CI=3.77-12.97)[R2=0.20]が有意な説明変数として選択された。退院6ヵ月後では「日用品を買うためのお店などが,自宅から簡単に歩いて行ける範囲にたくさんある」(標準化係数β=0.43,t=3.58 95%CI=1.93-3.29)[R2=0.17]が要因に選択された。入院前から退院1ヵ月後までの身体活動変化量では,「外を歩くと興味引かれるものがたくさんある」(標準化係数β=0.40,t=3.34,95%CI=3.00-12.05)[R2=0.27]が身体活動量増加と有意に関連した。

【考察】
入院前の身体活動量と当地域環境に関連は無く,糖尿病教育を受けてない時点での身体活動量は他の因子に強く影響を受けていると考えられる。退院直後は景観のよい環境を,把握できているほど行動変容が発現されていた。当地域は,道路が多く,自然・観光地は住環境から離れていたが,近年,景観法の作成とともに地域環境が整備され公園が多く作られた。その情報伝達ができれば行動変容に影響する可能性も示した。長期的な身体活動の継続には,生活活動の中で歩ける場所との関連が強く,日常生活に身体活動を組み込めれば,継続しやすい可能性を示唆した。

【理学療法学研究としての意義】
日常的に通える場所の情報提供・変更指導できれば継続が期待できることを示唆した。そのためには,入院中に理学療法士が運動療法を指導する上で地域環境を把握し,個人の住環境に合った情報提供や指導方法を考慮することが重要である。また,今結果を地域の理学療法士で情報共有できれば,療養指導の幅が広げられる。運動療法の継続は,糖尿病患者に限らず全ての疾患で共通の課題であり,当地域は特に少子高齢化の進行が予想され,坂の多い環境では身体活動量の低下も予測でき,今後の運動指導における一考察になると考える。