[O-0409] 膝前十字靭帯再建術に伴う半月板治療の違いが重心動揺や下肢荷重比率に与える影響
~重心動揺検査機器グラビコーダーを用いて~
Keywords:半月板, ACL再建術, 関節固有感覚
【はじめに,目的】
半月板には荷重分散機能の他に,辺縁部に血管や神経,メカノレセプターが存在していることから位置覚や体性感覚,荷重感覚といった力学的ストレスを感知する関節固有感覚機能を有していることが知られている。また膝前十字靭帯(ACL)損傷に伴う半月板損傷に対しては,基本的に半月板縫合術が第一選択とされているが,変性断裂や水平断裂,円板状半月板の断裂などでやむを得ず切除に至る症例も存在する。我々はACL再建術に伴うこれらの半月板治療の違いが術後の関節固有感覚機能にどのように影響するのかを調査し興味深い結果を得たので以下に報告する。
【方法】
2008年1月より2012年12月までに当院で膝屈筋腱を用いたACL再建術を行った497例のうち,抜釘術と同時に再鏡視を行い,且つACL再建術前と抜釘術前に重心動揺検査と下肢荷重検査をし得た326例を対象とした。ACL再建術に伴い半月板の処置を行わなかった症例を単独群,ACL再建術に伴い半月板縫合術を行った症例を縫合群,ACL再建術に伴い半月板切除術を行った群を切除群とした。内訳は単独群121例(男性73例,女性48例,31.5±5.7歳),縫合群134例(男性80例,女性54例,30.5±5.0歳),切除群71例(男性38例,女性33例,37.5±2.8歳)。検討項目は,重心動揺検査で得られた総軌跡長(LNG)と下肢荷重検査で得られた下肢荷重比率とした。またこれらの検査はグラビコーダー(アニマ社製)を用いて行った。重心動揺検査は,目線と同じ高さの1点を見たまま開眼にて60秒間静止立位をプレート上で保持し,その後閉眼にて同様の検査を行い,開眼時と閉眼時のLNGをそれぞれ算出した。下肢荷重検査は,重心動揺検査で使用したプレートを2枚並べ,それぞれの中心に足底を乗せ60秒間の静止立位をとり左右の荷重比率を求めた。これらの検査をACL再建術前と抜釘術時に行い,単独群,縫合群,切除群の3群間で比較検討した。なお統計学的検討はTukey法にて危険率5%未満を有意水準とした。術後のリハビリテーションは同様のプロトコールで行ったが,術後全荷重開始時期は単独群と切除群は2週,縫合群は3~4週,50歳以上の症例は骨密度の低下を考慮し3週とした。バランストレーニングや下肢荷重練習は,全荷重歩行が疼痛無く,且つ片脚立位を安定して保持できるようになった時点より開始した。その後,スポーツ動作に即したバランストレーニングなどを段階的に行い,関節固有感覚機能の回復を図った。また,スポーツ復帰の目安は7ヶ月以降とし,当院の基準に基づき主治医が総合的に判断した。
【結果】
開眼LNGは,単独群の術前74.9±50.7cmが術後69.2±16.3cm,縫合群は術前70.3±19.3cmが術後70.0±18.1cm,切除群は術前70.5±27.9cmが術後67.5±15.6cmであった。閉眼LNGは,単独群の術前107.8±34.4cmが術後104.4±31.3cm,縫合群は術前111.9±48.5cmが術後104.5±35.5cm,切除群は術前113.5±45.8cmが術後108.2±42.4cmであり全群において術後に減少傾向だったが,各群間での統計学的有意差はみられなかった。下肢荷重比率は単独群の術前49.2±3.2%が術後50.3±2.7%,縫合群は術前48.3±4.6%が術後50.1±2.7%,切除群は術前49.0±3.8%が術後49.9±2.8%であり全群において術後で改善傾向であったが,各群間での統計学的有意差はみられなかった。
【考察】
本研究の結果より,ACL再建術前後の比較において重心動揺と下肢荷重比率は全群で改善傾向であったが各群間では有意差はなかった。このことから,ACL再建術と同時に半月板縫合や切除術を行っても,膝関節全体の固有感覚機能には大きな影響を与えないことが分かった。半月板には辺縁部にのみ血管や神経,メカノレセプターが存在しており,無血管野の半月板部分切除術を行ったとしても辺縁部は温存されているため,固有感覚機能に影響を与えなかった可能性が示唆された。また,単独群,縫合群,切除群の間に有意差は無かったものの全群で改善が見られていることから,半月板由来の神経伝達が膝関節全体に占める割合はさほど大きなものでなく,術後のリハビリテーション全般には影響を与えないものと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,ACL再建術と同時に半月板縫合や切除術を行っても,膝関節全体の固有感覚機能には大きな影響を与えないことが示
半月板には荷重分散機能の他に,辺縁部に血管や神経,メカノレセプターが存在していることから位置覚や体性感覚,荷重感覚といった力学的ストレスを感知する関節固有感覚機能を有していることが知られている。また膝前十字靭帯(ACL)損傷に伴う半月板損傷に対しては,基本的に半月板縫合術が第一選択とされているが,変性断裂や水平断裂,円板状半月板の断裂などでやむを得ず切除に至る症例も存在する。我々はACL再建術に伴うこれらの半月板治療の違いが術後の関節固有感覚機能にどのように影響するのかを調査し興味深い結果を得たので以下に報告する。
【方法】
2008年1月より2012年12月までに当院で膝屈筋腱を用いたACL再建術を行った497例のうち,抜釘術と同時に再鏡視を行い,且つACL再建術前と抜釘術前に重心動揺検査と下肢荷重検査をし得た326例を対象とした。ACL再建術に伴い半月板の処置を行わなかった症例を単独群,ACL再建術に伴い半月板縫合術を行った症例を縫合群,ACL再建術に伴い半月板切除術を行った群を切除群とした。内訳は単独群121例(男性73例,女性48例,31.5±5.7歳),縫合群134例(男性80例,女性54例,30.5±5.0歳),切除群71例(男性38例,女性33例,37.5±2.8歳)。検討項目は,重心動揺検査で得られた総軌跡長(LNG)と下肢荷重検査で得られた下肢荷重比率とした。またこれらの検査はグラビコーダー(アニマ社製)を用いて行った。重心動揺検査は,目線と同じ高さの1点を見たまま開眼にて60秒間静止立位をプレート上で保持し,その後閉眼にて同様の検査を行い,開眼時と閉眼時のLNGをそれぞれ算出した。下肢荷重検査は,重心動揺検査で使用したプレートを2枚並べ,それぞれの中心に足底を乗せ60秒間の静止立位をとり左右の荷重比率を求めた。これらの検査をACL再建術前と抜釘術時に行い,単独群,縫合群,切除群の3群間で比較検討した。なお統計学的検討はTukey法にて危険率5%未満を有意水準とした。術後のリハビリテーションは同様のプロトコールで行ったが,術後全荷重開始時期は単独群と切除群は2週,縫合群は3~4週,50歳以上の症例は骨密度の低下を考慮し3週とした。バランストレーニングや下肢荷重練習は,全荷重歩行が疼痛無く,且つ片脚立位を安定して保持できるようになった時点より開始した。その後,スポーツ動作に即したバランストレーニングなどを段階的に行い,関節固有感覚機能の回復を図った。また,スポーツ復帰の目安は7ヶ月以降とし,当院の基準に基づき主治医が総合的に判断した。
【結果】
開眼LNGは,単独群の術前74.9±50.7cmが術後69.2±16.3cm,縫合群は術前70.3±19.3cmが術後70.0±18.1cm,切除群は術前70.5±27.9cmが術後67.5±15.6cmであった。閉眼LNGは,単独群の術前107.8±34.4cmが術後104.4±31.3cm,縫合群は術前111.9±48.5cmが術後104.5±35.5cm,切除群は術前113.5±45.8cmが術後108.2±42.4cmであり全群において術後に減少傾向だったが,各群間での統計学的有意差はみられなかった。下肢荷重比率は単独群の術前49.2±3.2%が術後50.3±2.7%,縫合群は術前48.3±4.6%が術後50.1±2.7%,切除群は術前49.0±3.8%が術後49.9±2.8%であり全群において術後で改善傾向であったが,各群間での統計学的有意差はみられなかった。
【考察】
本研究の結果より,ACL再建術前後の比較において重心動揺と下肢荷重比率は全群で改善傾向であったが各群間では有意差はなかった。このことから,ACL再建術と同時に半月板縫合や切除術を行っても,膝関節全体の固有感覚機能には大きな影響を与えないことが分かった。半月板には辺縁部にのみ血管や神経,メカノレセプターが存在しており,無血管野の半月板部分切除術を行ったとしても辺縁部は温存されているため,固有感覚機能に影響を与えなかった可能性が示唆された。また,単独群,縫合群,切除群の間に有意差は無かったものの全群で改善が見られていることから,半月板由来の神経伝達が膝関節全体に占める割合はさほど大きなものでなく,術後のリハビリテーション全般には影響を与えないものと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,ACL再建術と同時に半月板縫合や切除術を行っても,膝関節全体の固有感覚機能には大きな影響を与えないことが示