第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

口述

口述55

人工股関節2

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:石垣直輝(船橋整形外科病院)

[O-0414] 人工股関節全置換術後の股関節外転筋トルク改善不良症例における患者満足度に関与する因子の検討

桂田功一1, 木下一雄1, 吉田啓晃2, 青砥桃子3, 岡道綾4, 樋口謙次1, 中山恭秀2, 安保雅博5 (1.東京慈恵会医科大学附属柏病院リハビリテーション科, 2.東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科, 3.東京慈恵会医科大学葛飾医療センターリハビリテーション科, 4.東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科, 5.東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

Keywords:人工股関節全置換術, 筋力, 患者満足度

【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(以下THA)後に股関節外転筋力(以下外転トルク)の改善に難渋する症例を経験する。筋力の術後経過に関し多数報告されてきたが,理学療法介入の必要性が高いと思われる筋力改善が不良な症例に着目し検討した報告は渉猟し得た限りない。さらに,筋力の改善は不十分であっても患者が満足しているかは不明であり,どんな因子が満足度に関与するか未だ知り得ない。本研究では運動器疾患患者のリハビリテーション診療報酬算定期限である術後5か月においても術側外転トルクが術前未満の値に留まった症例に着目し,満足度に関与する因子について検討する。
【方法】
対象は本学附属4病院にて後方進入法初回THAを施行した191例(男性48例,女性143例,平均年齢64±10歳,診断名:変形性股関節症175例,大腿骨頭壊死症16例)とし,術後合併症例,中枢性疾患の既往がある症例は除外した。術側外転トルクが術後5か月の時点で術前以上の値に改善していた改善良好群(以下良好群)と術前値未満であった改善不良群(以下不良群)に分け,以下の項目を比較検討し,さらに各群における術後5か月の総合満足度に関与する因子を調査した。
評価時期は術前,退院時,術後2か月,5か月とし,評価項目は年齢,性別,BMI,入院期間,術側及び非術側の外転トルク体重比(Nm/kg),歩行速度(m/s),5m歩行歩数(歩),股関節可動域(屈曲・外旋・外転),疼痛,日常生活動作における動作満足度,生活全体における総合満足度を測定した。外転トルクは,Hand-held Dynamometer(アニマ社製,ミュータスF-1)を用い,背臥位股内外転中間位で5秒間の等尺性筋力を計測した値に大腿長を乗じ,体重で除し正規化した。股関節可動域は日整会の基準に準じて測定した。疼痛は,股関節部の疼痛をVisual Analogue Scale(mm)を用い,0(全く痛くない)~100(耐えられないほど痛い)にて,満足度もVASを用い0(非常に不満足)~100(非常に満足)にて自己記入式にて実施した。
統計解析は,年齢,BMI,入院期間は2標本のt検定を,性別はχ2検定を行い,群間の差の検定を行った。術側外転トルク,動作満足度及び総合満足度について各群の評価時期における一元配置分散分析を行い,外転トルクや満足度の経過を調査した。また,5か月時の評価項目すべてを投入したステップワイズ重回帰分析(変数増減法)にて,各群における術後5か月の総合満足度に関与する因子を調査した。統計ソフトはSPSS(Ver22.0)を使用し,いずれも有意水準を5%とした。
【結果】
良好群は159例,不良群は32例であり,基礎項目において両群の差を認めなかった。
術側外転トルクは,良好群は退院時に術前値まで達し,2か月,5か月において改善したのに対し,不良群は退院時に術前の値まで戻らず,その後の改善も認めなかった。動作満足度は,良好群はすべての評価時期で改善を認めたが,不良群は術前から退院時に差がなく,術前と比較して2か月,退院時と比較して5か月で改善を認めた。総合満足度は,良好群はすべての評価時期で改善を認めたが,不良群は術前から退院時に改善したがその後の時期における変化はなかった。
重回帰分析の結果,各群の総合満足度に関与する因子として,良好群は動作満足度(r=.597,p<0.05),疼痛(r=.342,p<0.01),歩行速度(r=.271,p<0.01)が,不良群は動作満足度(r=.852,p<0.01),術側股関節外転トルク(r=.448,p<0.01)が抽出された。
【考察】
外転トルクの改善経過および満足度の変化は各群で異なり,外転トルク改善不良群は満足度の改善も不良であった。重回帰分析の結果,不良群の総合満足度に関与する因子に外転トルクが選択されたことから外転トルクの改善も重要視すべきである。退院までに術前値同等あるいはそれ以上の改善を促す理学療法介入が望ましく,退院時に術前値未満の症例には,予後を見据えて退院後の通院リハビリの頻度の調整やより徹底した自主トレーニング指導が必要であると考えられた。さらに,不良群の総合満足度に動作満足度が関与したことから,生活動作のうち外転トルクの影響を受ける動作を今後明らかにしていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
術前外転トルク以上の筋力値を術後に獲得することで患者満足度の向上へとつながる可能性が考えられ,定期評価時の目標値設定に有効である。退院時に術前を下回った場合,通院リハビリ介入や退院時の自主トレーニング指導に際し効果的な介入を選択する一助となる。