[O-0416] 人工股関節全置換術におけるJHEQを用いた術後12ヵ月の経時的変化
Keywords:人工股関節全置換術, 日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ), QOL
【はじめに,目的】
近年,人工股関節全置換術(以下,THA)術後のアウトカム評価に患者立脚型で股関節に特化した疾患特異的尺度を用いることが多い。その評価尺度としてWOMACやOxford Hip Scoreなどが挙げられるが,本邦では日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(以下,JHEQ)が作成され,徐々に報告例が増加している。我々も過去にJHEQを用いてTHAの術後6ヵ月までの経時的変化を報告した。しかし,術後6ヵ月以降の変化は未調査であり,今回の目的は調査期間を12ヵ月まで延長し術前からの経時的変化を把握することとした。
【方法】
対象は当院にてTHAを施行され,自宅退院が可能であった46例のうち本研究に同意を得られた42例とした。性別は女性32例,男性10例,平均年齢は65.9歳(43-84歳)であった。原疾患は変形性股関節症35例,大腿骨頭壊死症7例であった。取り込み基準は,JHEQの回答が自己にて可能で,術後の理学療法が中止または遅延するほどの合併症を有さず,また調査期間内に対側のTHAを施行していないものとした。調査時期は,術前および術後3,6,9,12ヵ月の合計5期とした。調査方法は,術前は手術前日に回答を依頼し,術後は自宅に質問表を郵送し,回答したのちに返信を依頼した。回収後にJHEQの下位尺度である痛み,動作,メンタルのそれぞれの合計点と股関節の状態不満足度を算出した。なお,下位尺度の点数は高いほどQOLが良いことを表し,不満足度は点数が高いほど不満が強いことを表す。検討項目は,3つの下位尺度および不満足度において,術前から術後12ヵ月までの5期の経時的変化を対応のある一元配置分散分析,多重比較としてTukey法を用いて比較した。また,設問ごとの中央値を算出し経時的変化の特徴を把握した。
【結果】
42例中29例の返信が得られた。そのうち欠損値を生じた4例を除いた25例を有効回答とした。下位尺度の点数は術前,術後3,6,9,12ヵ月の順に疼痛は8.0点,21.5点,24.6点,24.5点,25.0点,動作は6.0点,13.2点,14.5点,14.6点,15.6点,メンタルは11.4点,19.5点,22.4点,21.7点,22.0点であった。これらはすべて術前から術後3ヵ月にかけて有意に高値となった(すべてp<0.01)が,3ヵ月以降は有意差を認めなかった。不満足度は83.7点,6.5点,7.7点,8.2点,5.0点となり術前に比べて術後3ヵ月で有意に低値となった(p<0.001)が,3ヵ月以降は有意差を認めなかった。設問ごとの経時的変化は,動作項目に含まれるしゃがみ込みや和式トイレ,爪切り動作の設問で改善が乏しい傾向が認められた。
【考察】
術前から術後12ヵ月までのJHEQの経時的変化を調査した結果,すべての下位尺度と不満足度において術前から術後3ヵ月にかけて有意に改善した。医療者側が評価した筋力やADLの術後経過に関する先行研究では,術後6ヵ月まで改善が継続すると報告されている。それに対しJHEQを用いた先行研究では,徳永らは術後1ヵ月で,坂越らは術後2ヵ月で大きく改善すると報告している。今回の結果も先行研究と時期は異なるものの比較的早期に改善することがわかった。よって,JHEQを用いた主観的評価は医療者側が行う客観的評価よりも術後早期の改善が大きく反映される可能性が示唆された。設問ごとの経時的変化は,しゃがみ込みや和式トイレ,爪切り動作といった下位尺度の動作項目に含まれる設問で改善が乏しかった。これらは股関節の支持性と深屈曲が必要とされ,術後も獲得が困難な動作であると思われる。また,徐々に生活様式が洋式化され,しゃがみ込みや和式トイレ動作を行う機会が減少していることや,脱臼への不安からこれらの動作を自粛している可能性もある。このような場合は,股関節機能に対する理学療法は当然ながら,個々の生活環境に応じた動作訓練や不安軽減のための適切な動作指導も同時に実施する必要性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
近年,THA術後の在院日数は短縮傾向にあり,同時にリハビリの介入期間も限定されることがある。当院は退院後のリハビリ介入の機会がほとんどなく,退院後の生活に対しては入院時の介入と退院時指導のみとなる。今回検討したように術後のアウトカムを主観的評価にて行うことは,患者の身体的,精神的問題点が明確となる。また退院後のリハビリ介入の重要性やリハビリの適切な介入期間に対する一情報となりうる可能性が示唆される。
近年,人工股関節全置換術(以下,THA)術後のアウトカム評価に患者立脚型で股関節に特化した疾患特異的尺度を用いることが多い。その評価尺度としてWOMACやOxford Hip Scoreなどが挙げられるが,本邦では日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(以下,JHEQ)が作成され,徐々に報告例が増加している。我々も過去にJHEQを用いてTHAの術後6ヵ月までの経時的変化を報告した。しかし,術後6ヵ月以降の変化は未調査であり,今回の目的は調査期間を12ヵ月まで延長し術前からの経時的変化を把握することとした。
【方法】
対象は当院にてTHAを施行され,自宅退院が可能であった46例のうち本研究に同意を得られた42例とした。性別は女性32例,男性10例,平均年齢は65.9歳(43-84歳)であった。原疾患は変形性股関節症35例,大腿骨頭壊死症7例であった。取り込み基準は,JHEQの回答が自己にて可能で,術後の理学療法が中止または遅延するほどの合併症を有さず,また調査期間内に対側のTHAを施行していないものとした。調査時期は,術前および術後3,6,9,12ヵ月の合計5期とした。調査方法は,術前は手術前日に回答を依頼し,術後は自宅に質問表を郵送し,回答したのちに返信を依頼した。回収後にJHEQの下位尺度である痛み,動作,メンタルのそれぞれの合計点と股関節の状態不満足度を算出した。なお,下位尺度の点数は高いほどQOLが良いことを表し,不満足度は点数が高いほど不満が強いことを表す。検討項目は,3つの下位尺度および不満足度において,術前から術後12ヵ月までの5期の経時的変化を対応のある一元配置分散分析,多重比較としてTukey法を用いて比較した。また,設問ごとの中央値を算出し経時的変化の特徴を把握した。
【結果】
42例中29例の返信が得られた。そのうち欠損値を生じた4例を除いた25例を有効回答とした。下位尺度の点数は術前,術後3,6,9,12ヵ月の順に疼痛は8.0点,21.5点,24.6点,24.5点,25.0点,動作は6.0点,13.2点,14.5点,14.6点,15.6点,メンタルは11.4点,19.5点,22.4点,21.7点,22.0点であった。これらはすべて術前から術後3ヵ月にかけて有意に高値となった(すべてp<0.01)が,3ヵ月以降は有意差を認めなかった。不満足度は83.7点,6.5点,7.7点,8.2点,5.0点となり術前に比べて術後3ヵ月で有意に低値となった(p<0.001)が,3ヵ月以降は有意差を認めなかった。設問ごとの経時的変化は,動作項目に含まれるしゃがみ込みや和式トイレ,爪切り動作の設問で改善が乏しい傾向が認められた。
【考察】
術前から術後12ヵ月までのJHEQの経時的変化を調査した結果,すべての下位尺度と不満足度において術前から術後3ヵ月にかけて有意に改善した。医療者側が評価した筋力やADLの術後経過に関する先行研究では,術後6ヵ月まで改善が継続すると報告されている。それに対しJHEQを用いた先行研究では,徳永らは術後1ヵ月で,坂越らは術後2ヵ月で大きく改善すると報告している。今回の結果も先行研究と時期は異なるものの比較的早期に改善することがわかった。よって,JHEQを用いた主観的評価は医療者側が行う客観的評価よりも術後早期の改善が大きく反映される可能性が示唆された。設問ごとの経時的変化は,しゃがみ込みや和式トイレ,爪切り動作といった下位尺度の動作項目に含まれる設問で改善が乏しかった。これらは股関節の支持性と深屈曲が必要とされ,術後も獲得が困難な動作であると思われる。また,徐々に生活様式が洋式化され,しゃがみ込みや和式トイレ動作を行う機会が減少していることや,脱臼への不安からこれらの動作を自粛している可能性もある。このような場合は,股関節機能に対する理学療法は当然ながら,個々の生活環境に応じた動作訓練や不安軽減のための適切な動作指導も同時に実施する必要性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
近年,THA術後の在院日数は短縮傾向にあり,同時にリハビリの介入期間も限定されることがある。当院は退院後のリハビリ介入の機会がほとんどなく,退院後の生活に対しては入院時の介入と退院時指導のみとなる。今回検討したように術後のアウトカムを主観的評価にて行うことは,患者の身体的,精神的問題点が明確となる。また退院後のリハビリ介入の重要性やリハビリの適切な介入期間に対する一情報となりうる可能性が示唆される。