第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述56

身体運動学4

2015年6月6日(土) 11:25 〜 12:25 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:廣瀬浩昭(宝塚医療大学 保健医療学部 理学療法学科)

[O-0418] 歩行自立判定時の観察による歩行分析について―信頼性と経験年数に着目して―

中原義人, 十鳥献司, 大橋繁行, 伊藤沙織, 柴田寛幸, 前田守 (社会医療法人慈恵会聖ヶ丘病院)

キーワード:歩行分析, 信頼性, 入院高齢者

【はじめに,目的】観察による歩行分析(以下,歩行分析)は臨床現場で頻繁に用いられているが,経験に頼るところが多く,一般に信頼性が乏しいことが報告されている。医療療養型病院に勤務する理学療法士(以下,PT)が歩行自立判定の際に行う歩行分析について,その信頼性と経験年数の影響を検討したので報告する。
【方法】平成26年10月に医療療養型病院に勤務するPT18名を検査者とした(経験年数の中央値2年:1~14年)。被検者は入院中の患者で病棟生活での歩行能力が見守りか自立の者(杖の使用は可)で,研究参加への同意が得られた10名とした(平均年齢81.7歳,男性2名,女性8名)。被検者は検査者のPTが実際の歩行自立度を知らない事を条件に選出した。被検者が10mの屋内平面上を平常歩行する様子を,デジタルビデオカメラ(Panasonic HX-DC1)で,前方および側方から撮影した。撮影動画をプロジェクターに投影し,検査者はそれを基に被検者の歩行自立可否を判定した。動画は各方向1分ずつ視聴し,歩行自立可否の他に歩容上の問題点10項目の有無を評価した(非対称性,つまずき・ひっかかり,円背,立脚期の膝過屈曲,歩行速度の異常,バランスの崩れ,踵接地困難,歩幅減少,リズムの乱れ,腕ふりの減少)。検査者が判定した歩行自立可否と被検者の病棟生活での歩行自立度を比較し,その正答率を経験年数別に10年以上の群(以下,10年以上群)とそれ以外の群(以下,未満群)で比較検討した(χ二乗検定)。また,各被検者の歩容上の問題点について,検査者間の信頼性(評価の一致度)をFleissのκ係数により検討した。
【結果】歩行自立度の正答率は全体で66.7%,10年以上群で72.0%,未満群で64.6%であり,10年以上群で有意に高かった。各検査者の判定を多数決法で決定した場合,正答率は70.0%であった。また,歩容上の問題点では全体のκ係数は0.013~0.668の範囲で,10年以上群で被験者10名中5名,未満群では10名中1名で中等度以上の一致度(κ>0.4)であった。
【考察】入院患者の転倒には身体面の他,環境面,認知面,投薬状況など多面的な要素が関連しており,歩行自立判定は多職種によるチームで実施される事が望ましいと考える。ただ,その中でPTが担う役割は大きいと考えられ,自立可否の判断根拠は重要である。今回は動画以外の情報がない中で歩行分析による判定を行ったが,経験年数10年以上群と未満群で正答率に有意差がみられた。このことから,複数のPTがいる環境であれば複数名で歩行分析を実施し,判定結果を検討する事が判断の確実性に寄与する可能性が示唆された。複数名での分析には,デジタルビデオカメラの動画という比較的簡便な方法も有効と思われる。一方,歩容上の問題点の評価においては,10年以上群で一致度がやや高かったものの,κ係数の最大値が0.668に留まっており,必ずしも信頼性が高いとは言えず,先行研究を支持する形となった。各検査者が注目する異常歩容の所見は異なっていても,結論である歩行自立判断は共通している例も多く,PTが何を根拠に自立と判断しているかについて更に検討を要すると考える。今後は動画視聴時間を増加した場合や方向転換や起立などを同時に視聴した場合の判断についても検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】先行研究と同様,歩行分析の信頼性については高いとは言えない結果であったが,歩行自立判定のプロセスとして,動画を用いた複数名での歩行分析が比較的簡便な方法ながら有効である可能性が示唆された。臨床現場においては,簡便かつ確実な方法が求められており,この方法を用いた実践例についても報告していきたい。