第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述56

身体運動学4

Sat. Jun 6, 2015 11:25 AM - 12:25 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:廣瀬浩昭(宝塚医療大学 保健医療学部 理学療法学科)

[O-0420] 主成分分析を用いた歩行時の股・膝・足関節における運動力学的連鎖関係の定量化

徳永由太1, 久保雅義2, 菅原和広2, 高林知也2, 稲井卓真2, 大西秀明2 (1.医療法人愛広会新潟リハビリテーション病院, 2.新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所)

Keywords:歩行, 運動連鎖, 主成分分析

【はじめに,目的】
ヒトの歩行動作において,各関節に生じる力学的負荷の間には運動力学的連鎖関係が存在すると考えられている。運動力学的連鎖関係とは「力」の因子間の連動性を指しており,身体各部位の「動き」の連動性を示す運動学的連鎖関係とは異なるものである。しかし,これまで歩行動作における運動力学的連鎖関係を定量化し,そのメカニズムを明らかにした報告は見当たらない。近年では,主成分分析を用いることで多変量データに内在するメカニズムを明らかにできる可能性が提唱されている。主成分分析は変数間の相関関係を基盤として,メカニズムを分離することができるため,単相関解析では同定できない多変数間の関係性を定量化することが可能である。現在までに主成分分析を用いた検証により,動作時の協調運動の定量化や筋シナジーの同定などが行われている。そこで本研究では,歩行時の股・膝・足関節モーメントに対して主成分分析を用いることにより,運動力学的連鎖関係を定量化し,そのメカニズムを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性12名とした。計測には3次元動作解析装置(OMG plc.),床反力計(AMTI)を使用した。対象者は10 m歩行路にて快適速度での歩行動作を10試行実施した。6 HzのLow-pass filterにより計測データの雑音除去を行った後に,身体ランドマークに貼付されたマーカー座標および床反力を基に逆動力学的手法を用いて3次元股・膝・足股関節モーメントを算出した。動的な課題における3次元関節モーメントを算出する際には,皮膚変動による体表マーカー座標の誤差を可能な限り除外することが必要となるため,本研究ではPoint Cluster法による皮膚誤差補正を行った。各被験者の1歩行周期の股・膝・足関節モーメントより構成されたデータセットに対して主成分分析を行い,各主成分の全データに対する寄与率・累積寄与率と主成分に対する各変数の因子負荷量を求めた。同定された主成分は累積寄与率が80%を超えた時点まで採択した。上記の解析はSCILAB5.5.0にて実施した。
【結果】
各主成分の寄与率は,第1主成分で54.7±0.04%,第2主成分で26.9±0.03%であり,累積寄与率は81.6±0.02%であった。第1主成分に対する各変数の因子負荷量は,股関節内旋・外旋,膝関節屈曲・伸展,膝関節内旋・外旋,足関節底屈・背屈,足関節内かえし・外かえしで高い関連性を示し(r=0.70-0.95),股関節屈曲・伸展,股関節内転・外転,足関節内転・外転は中等度の関連性を示した(r=0.41-0.65)。第2主成分に対する各変数の因子負荷量は膝関節内反・外反,股関節内転・外転で高い関連性を示し(r=0.84-0.86),股関節内旋・外旋,足関節内転・外転は中等度の関連性を示した(r=0.51-0.53)。
【考察】
本研究の結果より,歩行時における股・膝・足関節の間には2つの運動力学的連鎖関係が存在している可能性が示唆された。第1主成分には膝関節内反・外反モーメント以外のすべての変数が寄与していた。先行研究において,1)足関節底屈角度の増大は,膝関節の過伸展を引き起こす,2)足関節内かえし角度の増大は,膝関節内旋,股関節内旋角度を増大させる,3)股関節外転,股関節内旋筋力の増大は足関節内かえしモーメントを減少させる,といった3つの運動力学的連鎖関係が存在する可能性が示唆されている。以上のことより,歩行動作では上記3つの運動力学的連鎖関係は1つの運動力学的連鎖関係として存在している可能性が示唆された。第2主成分には膝関節内反・外反,股関節外転・内転,股関節内旋・外旋が寄与していた。先行研究において,1)股関節外転,股関節内旋筋力の増大は膝関節外反モーメントを減少させる,2)足関節内かえし角度の増大は膝関節外反モーメントを減少させる,といった2つの運動力学的連鎖関係が存在する可能性が示唆されている。本研究において,歩行動作では1)の関係性が存在する可能性が示唆されたが,2)の関係性は同一の運動力学的連鎖関係としては存在していないことが考えられた。しかし,股関節外転・内転,股関節内旋・外旋は第1主成分にも寄与していることから,足関節内かえし・外かえしの変化が股関節外転・内転,股関節内旋・外旋に作用することで,間接的に膝関節内反・外反へ影響を及ぼす可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
歩行動作における運動力学的連鎖関係を理解することは,1)病理学的変化を基盤とする歩行動作の変化を捉える身体機能評価,2)対象者に最適な動作様式を考える動作指導,の2点における波及効果が期待される。