[O-0422] 人工膝関節部分置換術(BiKA)後の歩行における運動学的特性
TKA(Fixed type)膝および健常膝との比較
キーワード:人工膝関節置換術, 歩行分析, 三次元動作解析
【はじめに,目的】これまで多くの変形性膝関節症例に膝関節全置換術(TKA;Total Knee Arthroplasty)が適応されてきたが,近年,特に軟骨損傷が生じやすい内側コンパートメントおよび大腿膝蓋関節に対する膝関節部分置換術(BiKA;Bi-compartmental Knee Arthroplasty)も治療選択の1つである。BiKAは外側コンパートメントおよび十字靭帯を温存するため,TKA症例に較べ正常な歩行時のキネマティクスを呈すると考えられるが,この仮説を支持する客観的データは少なく,不明な点が多い。日常的に繰り返される歩行動作は,患者満足度に多大な影響度を有しており,BiKA症例における詳細な歩行動態の解明することは重要である。本研究の目的は,BiKA症例の歩行時における運動学的特性を明らかにすることである。我々の仮説は,TKA症例に較べ,BiKA症例の歩行動態は健常群に近似するとした。
【方法】当院にてBiKAを施行した症例の内,術後に動作解析を実施し得た14例14膝を対象とした(BiKA群)。また,TKA(Fixed type)を施行した症例の内,術後に動作解析を実施し得た14例14膝(TKA群)および健常成人14例14膝(健常群)を比較対照とした。全例,術後1年以上経過していたが,術後から計測までの期間は,BiKA群が14.8±2.9ヶ月,TKA群26.7±16.7ヶ月と有意差を認めた。全例,術後に完全伸展位を獲得しており,動作解析実施時に疼痛や外観上の跛行は認められず,JKOMスコアはBiKA群10.9±5.9点,TKA群13.1±7.5点で,同等の値であった。前方不安定性に関して,Jerk testはBiKA群で全例陰性,Fixed群で全例陽性であった。計測は赤外線カメラ6台(120Hz)と床反力計2枚(120Hz)からなる三次元動作解析装置により実施された。全ての被験者はポイントクラスター法に準じて体表マーカを貼付した状態で定常歩行を3回計測され,得られたデータは動作解析ソフトを用いて計算した。膝関節完全伸展位での静止立位をゼロ点とし,膝関節の6自由度運動を算出した。一歩行周期を100%として規格化し,波形パターン,波形の極値および変位量を比較検討した。統計解析はLevene検定および一元配置分散分析,事後検定にTukey-Kramer法を用いた。有意水準を5%に設定した。
【結果】定性的にBiKA群は健常群と近似していたのに対し,TKA群は他の2群に較べ立脚期を通して屈曲位で推移しており,明らかに異なる波形パターンであった。TKA群は立脚初期における膝屈曲角度(p<0.01)および立脚後期における最小膝屈曲角度(p<0.05)が他の2群に較べ有意に高値であった。また,荷重応答期にかけての屈曲変化量は健常群に較べて,BiKA群,TKA群ともに有意に低値を示した(p<0.01)。脛骨回旋の波形パターンは3群で近似していたが,脛骨の前後並進はBiKA群,TKA群ともに一歩行周期を通じて後方に偏位しており,かつ変化が小さく,TKA群は分散が有意に大きかった。
【考察】BiKA群は,比較的健常群に近いキネマティクスを呈し,これは全ての靭帯を温存し,関節形状変化が少ないBiKAの特徴と考えられた。しかし,BiKA群,TKA群ともに荷重応答期の屈曲変化量は小さかった。OA症例において,荷重応答期の屈曲変化量が減少することが報告されており,術前の代償パターンが残存している可能性が示唆された。加えて,TKA群ではACL不全膝で知られている代償動作,“stiffening strategy”が生じていた可能性があり,顕著に表れたものと考えられた。全例,完全伸展位を獲得していたのにも関わらず,TKA群は立脚期を通して膝屈曲位で,BiKA群では立脚後期の膝伸展角度は健常群と近似した値を示した。立脚後期の十分な膝伸展は,foot-off時に前方への推進力を生み出すための固定性に重要な因子であり,TKA群に較べ,BiKA術後ではより機能的な歩行パターンの改善を示していると考えられる。また,BiKA群,TKA群ともに脛骨後方偏位で前後並進変化量が減少していたが,TKA症例において脛骨の前後並進にはインプラントデザインが最も影響を及ぼしていることが報告されており,BiKAにおいても内側コンパートメントのインプラントデザインが影響を及ぼしている可能性が示唆された。TKA群では,十字靭帯を切除していることが,脛骨の前後並進におけるばらつきを大きくしていると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】BiKAとTKAでは歩行動態が異なっており,人工膝関節置換術後に認められる異常運動の原因を推論する上で本研究はその一助となるだろう。また,BiKAおよびTKAに対して特異的な介入が必要となる可能性を示唆する。
【方法】当院にてBiKAを施行した症例の内,術後に動作解析を実施し得た14例14膝を対象とした(BiKA群)。また,TKA(Fixed type)を施行した症例の内,術後に動作解析を実施し得た14例14膝(TKA群)および健常成人14例14膝(健常群)を比較対照とした。全例,術後1年以上経過していたが,術後から計測までの期間は,BiKA群が14.8±2.9ヶ月,TKA群26.7±16.7ヶ月と有意差を認めた。全例,術後に完全伸展位を獲得しており,動作解析実施時に疼痛や外観上の跛行は認められず,JKOMスコアはBiKA群10.9±5.9点,TKA群13.1±7.5点で,同等の値であった。前方不安定性に関して,Jerk testはBiKA群で全例陰性,Fixed群で全例陽性であった。計測は赤外線カメラ6台(120Hz)と床反力計2枚(120Hz)からなる三次元動作解析装置により実施された。全ての被験者はポイントクラスター法に準じて体表マーカを貼付した状態で定常歩行を3回計測され,得られたデータは動作解析ソフトを用いて計算した。膝関節完全伸展位での静止立位をゼロ点とし,膝関節の6自由度運動を算出した。一歩行周期を100%として規格化し,波形パターン,波形の極値および変位量を比較検討した。統計解析はLevene検定および一元配置分散分析,事後検定にTukey-Kramer法を用いた。有意水準を5%に設定した。
【結果】定性的にBiKA群は健常群と近似していたのに対し,TKA群は他の2群に較べ立脚期を通して屈曲位で推移しており,明らかに異なる波形パターンであった。TKA群は立脚初期における膝屈曲角度(p<0.01)および立脚後期における最小膝屈曲角度(p<0.05)が他の2群に較べ有意に高値であった。また,荷重応答期にかけての屈曲変化量は健常群に較べて,BiKA群,TKA群ともに有意に低値を示した(p<0.01)。脛骨回旋の波形パターンは3群で近似していたが,脛骨の前後並進はBiKA群,TKA群ともに一歩行周期を通じて後方に偏位しており,かつ変化が小さく,TKA群は分散が有意に大きかった。
【考察】BiKA群は,比較的健常群に近いキネマティクスを呈し,これは全ての靭帯を温存し,関節形状変化が少ないBiKAの特徴と考えられた。しかし,BiKA群,TKA群ともに荷重応答期の屈曲変化量は小さかった。OA症例において,荷重応答期の屈曲変化量が減少することが報告されており,術前の代償パターンが残存している可能性が示唆された。加えて,TKA群ではACL不全膝で知られている代償動作,“stiffening strategy”が生じていた可能性があり,顕著に表れたものと考えられた。全例,完全伸展位を獲得していたのにも関わらず,TKA群は立脚期を通して膝屈曲位で,BiKA群では立脚後期の膝伸展角度は健常群と近似した値を示した。立脚後期の十分な膝伸展は,foot-off時に前方への推進力を生み出すための固定性に重要な因子であり,TKA群に較べ,BiKA術後ではより機能的な歩行パターンの改善を示していると考えられる。また,BiKA群,TKA群ともに脛骨後方偏位で前後並進変化量が減少していたが,TKA症例において脛骨の前後並進にはインプラントデザインが最も影響を及ぼしていることが報告されており,BiKAにおいても内側コンパートメントのインプラントデザインが影響を及ぼしている可能性が示唆された。TKA群では,十字靭帯を切除していることが,脛骨の前後並進におけるばらつきを大きくしていると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】BiKAとTKAでは歩行動態が異なっており,人工膝関節置換術後に認められる異常運動の原因を推論する上で本研究はその一助となるだろう。また,BiKAおよびTKAに対して特異的な介入が必要となる可能性を示唆する。