[O-0424] 学習課題中の体性感覚電気刺激が運動学習と半球間抑制に与える影響
Keywords:電気刺激療法, 機能回復, 経頭蓋磁気刺激
【はじめに,目的】
随意運動中に体表から感覚閾値強度の電気刺激(SES)を組み合わせることで,脳卒中後の麻痺肢の運動機能が,それぞれ単独と比較し,大きく改善することが報告されている(Laufer et al., 2011)。この運動機能回復には,左右脳半球における半球間抑制(IHI)が関与していることが示唆されている(Di Pino et al., 2014)。しかしながら,これまでに随意運動とSESとの組み合わせによる,運動機能の獲得に重要な運動学習とIHIへ与える効果については検討されていない。そこで本研究の目的は,両者の併用が運動学習とIHIに与える影響について,健常者において行動実験および電気生理学的手法を用いて検討することである。
【方法】
対象は健常成人16名(女性6名,26.5歳±3.4)とした。行動実験では,左側の母指と示指によるピンチ力を変動させることにより,上下曲線に合わせるトラッキング課題の学習課題を用い,1施行10分間を3回繰り返した(Task 1,Task 2,Task 3)。また,学習の般化を評価するために,学習課題の前後において,学習課題とは異なるトラッキング課題を2分間実施した。SESは,刺激強度を感覚閾値の1.3倍とし,刺激周波数10 Hz,パルス幅1 msとした。刺激部位は,左第一背側骨間筋(FDI)とし,学習課題中は持続的に通電した。また対照条件は,SESを付加しない状態での学習課題とし,すべての対象者で1週間以上の間隔をあけて実施した。トラッキング課題とSESの有無の実施順序は,順序効果を打ち消すために,カウンターバランスを考慮した。
IHIの評価には,経頭蓋磁気刺激法を用いて,左右一次運動野を刺激し,左右のFDIから運動誘発電位(MEP)を記録した。試験刺激強度は,全施行を通してMEPが0.5から1 mVの範囲になるように調整した。条件刺激は,安静時運動閾値の140%の強度とした。条件-試験刺激間隔は10 msおよび40 msとした。また,皮質脊髄路興奮性の評価として,学習課題前において安静時MEP振幅が0.5から1 mVになる強度を設定し,全施行を通して同じ強度で刺激を行った。IHIおよび皮質脊髄路興奮性の評価は,学習課題の前(PRE),学習課題中の3回の課題直後(Task 1後,Task 2後,Task 3後)の計4回行った。
データ解析は,学習効果を検討するために,トラッキングの曲線とマーカーの追跡線との誤差面積(RMS)を算出した。IHIの解析では,試験刺激から得られるMEP振幅に対する,10 msおよび40 msでの振幅比を算出した。
統計解析は,学習効果については2元配置分散分析(要因:条件,time)を用いた。学習の般化を検討するために,学習課題前後に実施したトラッキング課題のRMSの前後差について,対応のあるt検定を用いた。IHIおよび皮質脊髄路の興奮性については,3元配置分散分析(要因:条件,time,左右)を用いた。また,多重比較検定は,Bonferroni法で補正した対応のあるt検定とし,有意水準は5%とした。
【結果】
学習効果では,有意な交互作用【F(2,30)=5.14,p=0.012】を認めた。多重比較検定では,SES付加およびSES付加しない条件において,Task 1と比較して,Task 2およびTask 3で有意にRMSが減少し,課題の学習を認めた(p<0.05)。条件間の比較では,Task 3において,SESを付加しない条件と比較して,SES付加条件で有意にRMSが減少し,学習の促進を認めた(p=0.03)。学習の般化については,SESを付加しない条件と比較し,SES付加条件で有意に低値を示し,学習の般化を認めた(p=0.037)。IHIでは,40 ms(長潜時抑制)のみで有意な交互作用【F(3,45)=5.84,p=0.002】を認めた。多重比較検定の結果,SESを付加した左FDIのみで,PREと比較して,Task 1後,2後,3後のすべてで有意に長潜時抑制が減少し,対側半球からの脱抑制を認めた(p<0.01)。皮質脊髄路の興奮性については,SESを付加した左FDIのみで,PREと比較して,Task 1後,2後,3後で有意にMEPが増大した(p<0.01)。
【考察】
学習課題中にSESを組み合わせることで,運動学習が促進され,この学習は般化された。また刺激筋において皮質脊髄路の興奮性が増大し,半球間抑制ついては,刺激筋に対する対側半球からの長潜時抑制が減少し,脱抑制を認めた。これらの結果は,運動療法(随意運動)にSESを付加することで,通常の運動療法による回復や運動学習を促進できる可能性を示していると考えられる。今後,疾患例において検証を進めていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,学習課題中のSESが運動学習とIHIへの与える効果を明らかにした。これは,脳卒中後の動作学習や機能回復の機序を検討するだけでなく,治療戦略を考える上でも意義がある。
随意運動中に体表から感覚閾値強度の電気刺激(SES)を組み合わせることで,脳卒中後の麻痺肢の運動機能が,それぞれ単独と比較し,大きく改善することが報告されている(Laufer et al., 2011)。この運動機能回復には,左右脳半球における半球間抑制(IHI)が関与していることが示唆されている(Di Pino et al., 2014)。しかしながら,これまでに随意運動とSESとの組み合わせによる,運動機能の獲得に重要な運動学習とIHIへ与える効果については検討されていない。そこで本研究の目的は,両者の併用が運動学習とIHIに与える影響について,健常者において行動実験および電気生理学的手法を用いて検討することである。
【方法】
対象は健常成人16名(女性6名,26.5歳±3.4)とした。行動実験では,左側の母指と示指によるピンチ力を変動させることにより,上下曲線に合わせるトラッキング課題の学習課題を用い,1施行10分間を3回繰り返した(Task 1,Task 2,Task 3)。また,学習の般化を評価するために,学習課題の前後において,学習課題とは異なるトラッキング課題を2分間実施した。SESは,刺激強度を感覚閾値の1.3倍とし,刺激周波数10 Hz,パルス幅1 msとした。刺激部位は,左第一背側骨間筋(FDI)とし,学習課題中は持続的に通電した。また対照条件は,SESを付加しない状態での学習課題とし,すべての対象者で1週間以上の間隔をあけて実施した。トラッキング課題とSESの有無の実施順序は,順序効果を打ち消すために,カウンターバランスを考慮した。
IHIの評価には,経頭蓋磁気刺激法を用いて,左右一次運動野を刺激し,左右のFDIから運動誘発電位(MEP)を記録した。試験刺激強度は,全施行を通してMEPが0.5から1 mVの範囲になるように調整した。条件刺激は,安静時運動閾値の140%の強度とした。条件-試験刺激間隔は10 msおよび40 msとした。また,皮質脊髄路興奮性の評価として,学習課題前において安静時MEP振幅が0.5から1 mVになる強度を設定し,全施行を通して同じ強度で刺激を行った。IHIおよび皮質脊髄路興奮性の評価は,学習課題の前(PRE),学習課題中の3回の課題直後(Task 1後,Task 2後,Task 3後)の計4回行った。
データ解析は,学習効果を検討するために,トラッキングの曲線とマーカーの追跡線との誤差面積(RMS)を算出した。IHIの解析では,試験刺激から得られるMEP振幅に対する,10 msおよび40 msでの振幅比を算出した。
統計解析は,学習効果については2元配置分散分析(要因:条件,time)を用いた。学習の般化を検討するために,学習課題前後に実施したトラッキング課題のRMSの前後差について,対応のあるt検定を用いた。IHIおよび皮質脊髄路の興奮性については,3元配置分散分析(要因:条件,time,左右)を用いた。また,多重比較検定は,Bonferroni法で補正した対応のあるt検定とし,有意水準は5%とした。
【結果】
学習効果では,有意な交互作用【F(2,30)=5.14,p=0.012】を認めた。多重比較検定では,SES付加およびSES付加しない条件において,Task 1と比較して,Task 2およびTask 3で有意にRMSが減少し,課題の学習を認めた(p<0.05)。条件間の比較では,Task 3において,SESを付加しない条件と比較して,SES付加条件で有意にRMSが減少し,学習の促進を認めた(p=0.03)。学習の般化については,SESを付加しない条件と比較し,SES付加条件で有意に低値を示し,学習の般化を認めた(p=0.037)。IHIでは,40 ms(長潜時抑制)のみで有意な交互作用【F(3,45)=5.84,p=0.002】を認めた。多重比較検定の結果,SESを付加した左FDIのみで,PREと比較して,Task 1後,2後,3後のすべてで有意に長潜時抑制が減少し,対側半球からの脱抑制を認めた(p<0.01)。皮質脊髄路の興奮性については,SESを付加した左FDIのみで,PREと比較して,Task 1後,2後,3後で有意にMEPが増大した(p<0.01)。
【考察】
学習課題中にSESを組み合わせることで,運動学習が促進され,この学習は般化された。また刺激筋において皮質脊髄路の興奮性が増大し,半球間抑制ついては,刺激筋に対する対側半球からの長潜時抑制が減少し,脱抑制を認めた。これらの結果は,運動療法(随意運動)にSESを付加することで,通常の運動療法による回復や運動学習を促進できる可能性を示していると考えられる。今後,疾患例において検証を進めていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,学習課題中のSESが運動学習とIHIへの与える効果を明らかにした。これは,脳卒中後の動作学習や機能回復の機序を検討するだけでなく,治療戦略を考える上でも意義がある。