第50回日本理学療法学術大会

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口述

セレクション 口述8

運動制御・運動学習

Sat. Jun 6, 2015 12:30 PM - 1:30 PM 第5会場 (ホールB5)

座長:坂本年将(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部理学療法学専攻)

[O-0426] 歩行開始時の脳活動―運動準備電位を用いて―

脇聡子1,2, 植田耕造1, 大住倫弘1,3, 石垣智也1, 菅沼淳一1, 高村優作1, 中野英樹3,4, 沖山努2, 岡田洋平3, 冷水誠3, 森岡周1,3 (1.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室, 2.神戸リハビリテーション病院リハビリテーション部, 3.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター, 4.大和大学保健医療学部総合リハビリテーション学科)

Keywords:歩行開始, 脳波, 補足運動野

【はじめに】
歩行開始は,両下肢の協調した運動が要求される随意運動である。歩行開始時の神経制御において補足運動野(以下,SMA)は重要な役割を持つことが多くの先行研究から報告されている。また,両側のSMA障害により両下肢の協調性が障害されることも報告されており(Della Sala, 2002),半球間の活動の相互関係が協調性を保つ為に重要であると考える。この歩行開始時のSMAの活動を捉えるものとして運動準備電位(以下,RPs)があるが,これは運動関連領域である一次運動野(以下,M1)の皮質活動も反映しており,随意運動に先行して生じる。外部刺激に誘発される随伴性陰性電位はRPsと同様に運動準備を示すが,運動発現における脳内処理過程が異なり,実際にRPsを自由歩行にて測定している研究は少ない。また,自発的な歩行開始におけるSMA,M1の半球間での活動差異および,RPsの発生源については検証されてない。そこで,本研究の目的をRPsの潜時と振幅を用いて半球間の活動差異を検証することと,RPsを用いた脳機能の三次元画像表示法(Low Resolution Brain Electromagnetic Tomography:LORETA)解析を用いて自発歩行開始時のRPs発生源を明らかにすることとした。
【方法】
対象は健常成人男性6名(25.6±1.2歳)で,全員利き手足(Chapman & Allen, 1987)は右であった。運動課題は3歩以上の歩行とし,スタート地点へ戻るまでを1試行とした。右下肢および左下肢から振出す条件(以下,右条件,左条件)を各60試行,計120試行実施した。試行間は5~10秒程間隔を空けるよう指示し,歩行開始は自発的に行うものとした。測定機器は高機能デジタル脳波計Active twoシステム(Biosemi社製)の128電極を使用した。付属の表面筋電図を両側前脛骨筋(以下,TA)に付着し,振出し下肢TAの筋活動onest地点を歩行開始時のトリガー地点とした。サンプリング周波数は1024Hz,Band-pass filterは脳波で0.1-50Hz,筋電で10-510Hzとした。トリガー地点より-5sから1sを試行間で加算平均し,-5sから-4sの平均電位を基準電位としてRPsの抽出を行った。潜時は陰性へのonset地点からピーク地点までの時間であり,運動開始の為の準備に要する時間を表すとされている(Donchin & Coles,1988)。振幅は活動量を表し,トリガー地点から-0.25sの間を解析区間とした。対象chはBiosemi社指定の配置に準じたB1,B20,C1,C2,D1,D2,D14,D15とした。潜時,振幅についての統計解析は関心領域(Region of interest:ROI)を対象とし,ROIはM1領域(B1,B20,D14,D15),SMA領域(C1,C2,D1,D2)とした。ROIの左右間で対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。また,LORETA解析を用いて歩行開始時におけるRPsの発生源同定を行った。
【結果】
正中前頭部にトリガー地点より約-1s以降に立ち上がる緩徐な陰性電位(RPs)を認めた。RPs潜時は,左右SMA,M1間において有意差は認めなかった。PRs振幅は,両条件ともにM1半球間において振出し下肢の対側M1の振幅が同側M1に比べ有意に増大した(p<0.05)。SMA半球間においては振出し下肢の対側の振幅が同側に比べ増大する傾向が認められた(右条件p=0.08<0.10,左条件p<0.05)。RPs発生源についてLORETA解析にて各条件でトリガー地点から-1~-0.5s間においてSMA(6野)の活動上昇が確認できた。しかし,半球間で活動上昇の有意な差は認められなかった。
【考察】
RPs潜時は左右M1,SMA間において有意差はなく,運動発現の準備に要する時間は半球間で差がないことが考えられる。一方,M1間でRPs振幅に有意差を認めたことから,支持脚に対応するM1の活動量に比べ,遊脚に対応するM1の活動量が大きいことで歩行開始時の左右下肢の協調的な出力調整を行っていることが示唆された。SMA間についてもM1と同様の傾向が見られたことから,半球間で活動量に差をつけることで下肢の協調的な制御を行っている可能性が考えられる。LORETA解析では,-1~-0.5s間において両側6野の活動上昇が確認できた。これらの結果より,歩行という協調的な動作の準備に関して,動作開始を示す筋電onsetの-1sからSMAが予測的姿勢制御や運動プログラム生成のために両側で賦活し,筋活動直前の-0.25sから両側下肢の活動量に応じた出力の調整を左右間で制御していると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,自発歩行開始時の準備に関連する領域(M1,SMA)において,運動出力の大きさに対応して活動量を調整することで,遊脚と支持脚の運動制御に関与することが示唆された。また,理学療法の対象となる歩行開始動作の神経制御機構を理解する上で重要な基礎的知見となると考える。