第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述57

脳損傷理学療法8

Sat. Jun 6, 2015 12:30 PM - 1:30 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:澤田明彦(七沢リハビリテーション病院脳血管センター 理学療法科)

[O-0433] 誤嚥リスクを有する高齢脳血管障害患者の「随意咳および反射咳」の有用性の検証

反射最大咳流量(reflex peak cough flow)評価を用いて

井上拓保1,2 (1.昭和大学大学院保健医療学研究科運動障害リハビリテーションと呼吸ケア領域, 2.社会医療法人河北医療財団河北リハビリテーション病院)

Keywords:脳卒中, 誤嚥リスク, 反射最大咳流量

【はじめに,目的】
先行研究では,脳卒中患者96例を対象に随意咳と誤嚥診断の関係についてカットオフ値を呼気最大咳流量2.9L/min(感度82%,特異度83%)とし,誤嚥診断に有効であると報告している。しかし,高齢脳血管障害患者では随意咳の評価が困難であることが多く,反射咳の評価は誘発閾値濃度を検証する研究が殆どであり,反射最大咳流量(RPCF:Reflex Peak Cough Flow)に関する報告は少ない。
本研究の目的は反復唾液嚥下テストによる誤嚥リスクを有する高齢脳血管障害患者において,誤嚥リスクの有無による特徴を明らかにすること,随意最大咳流量(VPCF:Voluntary Peak Cough Flow)と咳誘発試験によるRPCFの関係を明らかにし,VPCFとRPCFの量的評価の有用性を検証することとした。
【方法】
65歳以上の高齢脳血管障害患者42名を対象とし,後方視的にカルテより調査した。42名の対象者を反復唾液嚥下テスト2以下の21名(R2群:誤嚥リスク有り)と3以上の21名(R3群:誤嚥リスク無し)の2群に分類した。カルテから基礎情報,身体情報,認知機能情報,運動機能情報,摂食嚥下機能情報,呼吸機能情報,咳機能情報を抽出した。統計ソフトSPSSver15.0J for Windowsを用いてR2群とR3群の群間の比較,42名の対象者のVPCFとRPCFとの差の検定および相関の検討を統計学的に分析した(すべて有意水準5%未満)。またRSSTによる誤嚥リスクの有無とVPCFおよびRPCFの関係から感度と特異度を求めROC曲線からカットオフ値を算出した。
【結果】
R2群はR3群に比べVPCF(R2群1.2±0.9L/min,R3群2.7±1.0L/min)とRPCF(R2群2.3±0.8L/min,R3群3.0±0.8L/min)が有意に低く(p<0.001),RPCFはVPCFより高くなり,R3群のRPCFのみ2.9L/minを上回った。また,R2群は認知機能や麻痺側機能,非麻痺側機能,日常生活動作,呼吸筋力,摂食嚥下機能も有意に低かった(p<0.05~0.001)。VPCF(1.9±1.2L/min)はRPCF(2.6±0.9L/min)に比較し有意な低値を認め(p<0.01),有意な正の相関を認めた(r=0.80,p<0.001)。VPCFのカットオフ値は2.35L/min(感度90%,特異度67%,p<0.01,AUC=0.87,95%信頼区間0.76-0.98)で,RPCFのカットオフ値は2.6L/min(感度71%,特異度81%,p<0.01,AUC=0.74,95%信頼区間0.59-0.90)であった。
【考察】
R2群のVPCFおよびRPCFはR3群に比べ,脳卒中による重度の神経障害や日常生活活動の低下による非麻痺側の廃用性筋力低下を来している。さらに呼吸筋力の弱化と拘束性換気障害を認め,咳に先立つ十分な吸気を得ることが出来ないため2.9L/minより低下したものと考えられる。42名の対象者のVPCFおよびRPCFは誤嚥リスクを示す評価として両者とも中等度の有用性が示された。さらに,VPCFが評価困難な場合においてRPCF評価の有用性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,高齢脳血管障害患者においてVPCFおよびRPCFともにRSSTによる誤嚥リスクを示す評価として有用であることが示された。今後は,対照群を設定した介入研究において嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査による誤嚥性肺炎診断の有用性の検討および咳トレーニングの効果の検討が必要である。