[O-0434] 脳血管障害患者の嚥下障害に影響する身体的因子の検討
キーワード:脳血管障害, 嚥下障害, 身体機能
【はじめに,目的】
嚥下障害患者に対する介入は医師を中心としたチームで行われ,チーム内での理学療法士の役割は間接的アプローチが中心となる。脳血管障害患者では嚥下障害と呼吸や姿勢を含めた頭頚部・体幹機能との関連性が報告されている。しかし,呼吸機能,体幹機能,頭頚部機能を同時に検討した報告はなく,いずれの機能が嚥下障害と密接に関与しているのかは明らかではない。そこで本研究は脳血管障害患者の嚥下障害に影響する各身体的因子の影響度合いを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2012年5月~2014年9月に関連施設の回復期病院に脳血管障害で入院した患者53例(男性29例,女性24例:平均年齢68.5±15.0歳)とした。除外基準は高次脳機能障害や認知症により測定の理解が困難な者,円背により頭頚部角度の測定が困難な者,顔面神経麻痺により呼吸機能検査が困難な者とした。入院時に嚥下障害の有無を藤島の摂食・嚥下能力グレードを用いてグレードIII-9以下(臨床的観察と指導を要する)を嚥下障害有と定義し,嚥下障害の有無で2群に分類した。調査項目として,頭頚部機能は頭部屈曲角度,頭部屈曲可動範囲,頚部屈曲角度,頚部屈曲可動範囲,頚部回旋角度(制限側),相対的喉頭位置,舌骨上筋機能グレード(GSグレード)とした。呼吸機能は努力性肺活量(FVC),1秒量(FVC1.0),努力性呼気流量(PEF),吸気筋力(PImax),呼気筋力(PEmax)とし,体幹機能はTrunk Impairment Scale(TIS)で評価した。嚥下障害の有無を従属変数とし,各項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行い,採択された結果より嚥下障害の有無を判別する閾値についても検討した。なお,多重ロジスティック回帰分析の実施に先立ち多重共線性の問題を回避するため独立変数間の相関の有無を検討した。
【結果】
対象者53例のうち嚥下障害有群は22例,嚥下障害無群は31例であった。独立変数間の相関で互いに強い相関を有する値は存在しなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果,頭部屈曲可動範囲(オッズ比:0.738,P<0.01),頚部回旋角度(オッズ比:0.820,P<0.05),PEmax(オッズ比:0.892,P<0.05)があげられ判別的中率は88.7%であった。ROC曲線を用いてカットオフ値を算出した結果,頭部屈曲可動範囲では18.8°を閾値とした場合,感度84%,特異度82%,頚部回旋角度では46.0°を閾値とした場合,感度90%,特異度50%,PEmaxでは64.6cmH2Oを閾値とした場合,感度55%,特異度100%であった。
【考察】
嚥下障害と最も影響する身体的因子は頭部屈曲可動範囲であった。頭部屈曲位は従来から言われている嚥下の代償法の一つであり,臨床で用いられ効果については様々な報告がある。頭部屈曲可動範囲の低下はこれらの嚥下代償法の阻害因子となることが考えられる。健常者を対象に頭部屈曲角度と嚥下の主観的評価を検討した報告では,頭部の可動性は嚥下の難易度に影響されると言われており,頭部可動性と嚥下との関連は示されている。今回の検討からも頭部の屈曲可動範囲は重要視する必要性が明らかとなった。次に影響する因子として頚部回旋角度が抽出された。頚部回旋は頚部周囲筋の筋緊張を反映する指標として用いられ,頚部周囲筋の筋緊張異常は喉頭位置や舌骨上筋群の局所的機能に影響すると考えられており,他の先行研究と同様に頚部回旋が嚥下障害に影響を与えることが示された。呼吸機能では呼気筋力が影響する因子として挙げられた。呼気筋力トレーニングは舌骨上筋群の強化や喉頭挙上に対する効果が高いと言われており,呼気筋力を高めることで嚥下障害が改善することが示されている。よって,呼気筋力も嚥下障害を改善する機能として注目する点である。体幹機能に関しては抽出されなかった。体幹機能の低下は非麻痺側上肢・頚部・体幹筋群の過活動を誘発し,その結果非対称的な姿勢が生じて喉頭挙上運動を阻害すると報告されている。しかし,入院中の姿勢調整を行った環境下では,非対称的な姿勢は生じにくいことが考えられ,今回の結果から体幹機能低下は代償可能な要素を含む因子であることが推察された。
【理学療法学研究としての意義】
脳血管障害患者の身体的因子では頭部屈曲可動範囲,頚部回旋角度,呼気筋力の順に嚥下障害への影響度が強く,これらの因子に対して焦点を置き嚥下障害の改善を目的とした介入を行うことの重要性が示唆された。
嚥下障害患者に対する介入は医師を中心としたチームで行われ,チーム内での理学療法士の役割は間接的アプローチが中心となる。脳血管障害患者では嚥下障害と呼吸や姿勢を含めた頭頚部・体幹機能との関連性が報告されている。しかし,呼吸機能,体幹機能,頭頚部機能を同時に検討した報告はなく,いずれの機能が嚥下障害と密接に関与しているのかは明らかではない。そこで本研究は脳血管障害患者の嚥下障害に影響する各身体的因子の影響度合いを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2012年5月~2014年9月に関連施設の回復期病院に脳血管障害で入院した患者53例(男性29例,女性24例:平均年齢68.5±15.0歳)とした。除外基準は高次脳機能障害や認知症により測定の理解が困難な者,円背により頭頚部角度の測定が困難な者,顔面神経麻痺により呼吸機能検査が困難な者とした。入院時に嚥下障害の有無を藤島の摂食・嚥下能力グレードを用いてグレードIII-9以下(臨床的観察と指導を要する)を嚥下障害有と定義し,嚥下障害の有無で2群に分類した。調査項目として,頭頚部機能は頭部屈曲角度,頭部屈曲可動範囲,頚部屈曲角度,頚部屈曲可動範囲,頚部回旋角度(制限側),相対的喉頭位置,舌骨上筋機能グレード(GSグレード)とした。呼吸機能は努力性肺活量(FVC),1秒量(FVC1.0),努力性呼気流量(PEF),吸気筋力(PImax),呼気筋力(PEmax)とし,体幹機能はTrunk Impairment Scale(TIS)で評価した。嚥下障害の有無を従属変数とし,各項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行い,採択された結果より嚥下障害の有無を判別する閾値についても検討した。なお,多重ロジスティック回帰分析の実施に先立ち多重共線性の問題を回避するため独立変数間の相関の有無を検討した。
【結果】
対象者53例のうち嚥下障害有群は22例,嚥下障害無群は31例であった。独立変数間の相関で互いに強い相関を有する値は存在しなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果,頭部屈曲可動範囲(オッズ比:0.738,P<0.01),頚部回旋角度(オッズ比:0.820,P<0.05),PEmax(オッズ比:0.892,P<0.05)があげられ判別的中率は88.7%であった。ROC曲線を用いてカットオフ値を算出した結果,頭部屈曲可動範囲では18.8°を閾値とした場合,感度84%,特異度82%,頚部回旋角度では46.0°を閾値とした場合,感度90%,特異度50%,PEmaxでは64.6cmH2Oを閾値とした場合,感度55%,特異度100%であった。
【考察】
嚥下障害と最も影響する身体的因子は頭部屈曲可動範囲であった。頭部屈曲位は従来から言われている嚥下の代償法の一つであり,臨床で用いられ効果については様々な報告がある。頭部屈曲可動範囲の低下はこれらの嚥下代償法の阻害因子となることが考えられる。健常者を対象に頭部屈曲角度と嚥下の主観的評価を検討した報告では,頭部の可動性は嚥下の難易度に影響されると言われており,頭部可動性と嚥下との関連は示されている。今回の検討からも頭部の屈曲可動範囲は重要視する必要性が明らかとなった。次に影響する因子として頚部回旋角度が抽出された。頚部回旋は頚部周囲筋の筋緊張を反映する指標として用いられ,頚部周囲筋の筋緊張異常は喉頭位置や舌骨上筋群の局所的機能に影響すると考えられており,他の先行研究と同様に頚部回旋が嚥下障害に影響を与えることが示された。呼吸機能では呼気筋力が影響する因子として挙げられた。呼気筋力トレーニングは舌骨上筋群の強化や喉頭挙上に対する効果が高いと言われており,呼気筋力を高めることで嚥下障害が改善することが示されている。よって,呼気筋力も嚥下障害を改善する機能として注目する点である。体幹機能に関しては抽出されなかった。体幹機能の低下は非麻痺側上肢・頚部・体幹筋群の過活動を誘発し,その結果非対称的な姿勢が生じて喉頭挙上運動を阻害すると報告されている。しかし,入院中の姿勢調整を行った環境下では,非対称的な姿勢は生じにくいことが考えられ,今回の結果から体幹機能低下は代償可能な要素を含む因子であることが推察された。
【理学療法学研究としての意義】
脳血管障害患者の身体的因子では頭部屈曲可動範囲,頚部回旋角度,呼気筋力の順に嚥下障害への影響度が強く,これらの因子に対して焦点を置き嚥下障害の改善を目的とした介入を行うことの重要性が示唆された。