[O-0435] 肥満脳卒中患者における体重変化量とリハビリテーションアウトカムの関係
キーワード:脳卒中, 肥満, 体重変化量
【はじめに,目的】
近年,肥満人口の増加に伴い,肥満脳卒中患者に理学療法を実施する機会は増えている。一般的に肥満に対しては,健康的側面,二次障害予防的側面から減量が推奨されるが,脳卒中患者における減量の効果は明らかでない。脳卒中患者は,筋機能の異化や栄養状態の悪化により,Body Mass Index(BMI)が高いほど死亡率や再発率が低いという報告もある(Obesity paradox)。すわなち,減量はリハビリテーションアウトカムに必ずしも好影響を及ぼすわけではなく,悪影響を及ぼす可能性も考えられる。そこで本研究の目的は,肥満脳卒中患者における入院中の体重変化量と歩行,バランス,ADLの関係について後方視的に調査し,減量の有用性に関する予備的知見を得ることとした。
【方法】
2012年4月から2014年10月までの期間にリハビリテーション目的で当院に入院した回復期および維持期脳卒中患者129例のうち,入院時と退院時の体重,歩行速度(10m歩行時の歩行速度),Functional Balance Scale(FBS),Functional Impedance Measure(FIM)の記録が調査できた53例(脳梗塞23例,脳出血25例,クモ膜下出血5例,64.0±14.8歳)を対象とした。低体重(BMI18.5未満),減量目的での入院患者,重度の高次脳機能障害を有する患者は除外した。全例が理想体重を基に食事が処方され,通常の運動療法が実施されていた。調査項目は性別,年齢,介入期間,下肢Brunnstrom stage,⊿体重(退院時体重-入院時体重),⊿歩行速度(退院時歩行速度-入院時歩行速度),⊿FBS(退院時FBS-入院時FBS),⊿FIM(退院時FIM-入院時FIM)とし,診療録より抜粋した。対象はBMI25以上の肥満群,18.5以上25未満の普通体重群に分類し,それぞれの群における⊿体重および⊿歩行速度,⊿体重および⊿FBS,⊿体重および⊿FIMについて,Pearsonの積率相関分析およびSpearmanの順位相関分析を行った。両群間の比較はMann-Whitneyの検定およびχ二乗検定を用いた。全ての検定は統計解析ソフトSPSS15.0J for windowsを使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
肥満群は18例,普通体重群は35例であった。BMIは,肥満群(27.0±1.8)の方が普通体重群(20.9±2.3)に比べ有意に高値を示した(p<0.01)。⊿体重も,肥満群(-3.8±3.9kg)は普通体重群(0.6±2.6kg)に比べ有意に高値を示した(p<0.01)。⊿歩行速度(肥満群0.3±0.3m/s,普通体重群0.3±0.4m/s),⊿FBS(肥満群7.8±9.1点,普通体重群9.6±10.8点),⊿FIM(肥満群7.6±7.5点,普通体重群12.7±13.0点)は両群間に有意差を認めなかった。年齢,性別,介入期間,下肢Brunnstrom stageも両群間に有意差を認めなかった。
肥満群においては,⊿体重と⊿歩行速度の間に有意な負の相関を認めた(r=-0.61,p<0.01)。⊿体重と⊿FBS(r=-0.59,p<0.01),⊿体重と⊿FIM(-0.67,p<0.01)の間にも有意な負の相関を認めた。一方普通体重群では,⊿体重と⊿歩行速度の間に有意な正の相関を認め(r=0.45,p<0.01),⊿体重と⊿FBS,⊿体重と⊿FIMの間には有意な相関は認めなかった。
【考察】
本研究結果から,肥満群は体重減少が大きいほどリハビリテーションアウトカムが改善することが明らかになった。すなわち,通常の食事,運動により生じる体重減少は有用であると考えられた。一方普通体重群では,体重減少は歩行速度を低下させ,体重増加は歩行速度を改善させることが示された。脳卒中患者はBMIが正常でも低栄養状態になっていることが多いとされており,本研究における普通体重群も,栄養状態が影響しているのではないかと考えられた。本研究は減量に対して介入したものではない。今後は摂取エネルギーや消費エネルギーに介入した効果を検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
これまで体重変化量とリハビリテーションアウトカムの関係については明らかになっておらず,本研究結果は脳卒中患者の理学療法を行っていく上で有用である。
近年,肥満人口の増加に伴い,肥満脳卒中患者に理学療法を実施する機会は増えている。一般的に肥満に対しては,健康的側面,二次障害予防的側面から減量が推奨されるが,脳卒中患者における減量の効果は明らかでない。脳卒中患者は,筋機能の異化や栄養状態の悪化により,Body Mass Index(BMI)が高いほど死亡率や再発率が低いという報告もある(Obesity paradox)。すわなち,減量はリハビリテーションアウトカムに必ずしも好影響を及ぼすわけではなく,悪影響を及ぼす可能性も考えられる。そこで本研究の目的は,肥満脳卒中患者における入院中の体重変化量と歩行,バランス,ADLの関係について後方視的に調査し,減量の有用性に関する予備的知見を得ることとした。
【方法】
2012年4月から2014年10月までの期間にリハビリテーション目的で当院に入院した回復期および維持期脳卒中患者129例のうち,入院時と退院時の体重,歩行速度(10m歩行時の歩行速度),Functional Balance Scale(FBS),Functional Impedance Measure(FIM)の記録が調査できた53例(脳梗塞23例,脳出血25例,クモ膜下出血5例,64.0±14.8歳)を対象とした。低体重(BMI18.5未満),減量目的での入院患者,重度の高次脳機能障害を有する患者は除外した。全例が理想体重を基に食事が処方され,通常の運動療法が実施されていた。調査項目は性別,年齢,介入期間,下肢Brunnstrom stage,⊿体重(退院時体重-入院時体重),⊿歩行速度(退院時歩行速度-入院時歩行速度),⊿FBS(退院時FBS-入院時FBS),⊿FIM(退院時FIM-入院時FIM)とし,診療録より抜粋した。対象はBMI25以上の肥満群,18.5以上25未満の普通体重群に分類し,それぞれの群における⊿体重および⊿歩行速度,⊿体重および⊿FBS,⊿体重および⊿FIMについて,Pearsonの積率相関分析およびSpearmanの順位相関分析を行った。両群間の比較はMann-Whitneyの検定およびχ二乗検定を用いた。全ての検定は統計解析ソフトSPSS15.0J for windowsを使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
肥満群は18例,普通体重群は35例であった。BMIは,肥満群(27.0±1.8)の方が普通体重群(20.9±2.3)に比べ有意に高値を示した(p<0.01)。⊿体重も,肥満群(-3.8±3.9kg)は普通体重群(0.6±2.6kg)に比べ有意に高値を示した(p<0.01)。⊿歩行速度(肥満群0.3±0.3m/s,普通体重群0.3±0.4m/s),⊿FBS(肥満群7.8±9.1点,普通体重群9.6±10.8点),⊿FIM(肥満群7.6±7.5点,普通体重群12.7±13.0点)は両群間に有意差を認めなかった。年齢,性別,介入期間,下肢Brunnstrom stageも両群間に有意差を認めなかった。
肥満群においては,⊿体重と⊿歩行速度の間に有意な負の相関を認めた(r=-0.61,p<0.01)。⊿体重と⊿FBS(r=-0.59,p<0.01),⊿体重と⊿FIM(-0.67,p<0.01)の間にも有意な負の相関を認めた。一方普通体重群では,⊿体重と⊿歩行速度の間に有意な正の相関を認め(r=0.45,p<0.01),⊿体重と⊿FBS,⊿体重と⊿FIMの間には有意な相関は認めなかった。
【考察】
本研究結果から,肥満群は体重減少が大きいほどリハビリテーションアウトカムが改善することが明らかになった。すなわち,通常の食事,運動により生じる体重減少は有用であると考えられた。一方普通体重群では,体重減少は歩行速度を低下させ,体重増加は歩行速度を改善させることが示された。脳卒中患者はBMIが正常でも低栄養状態になっていることが多いとされており,本研究における普通体重群も,栄養状態が影響しているのではないかと考えられた。本研究は減量に対して介入したものではない。今後は摂取エネルギーや消費エネルギーに介入した効果を検討していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
これまで体重変化量とリハビリテーションアウトカムの関係については明らかになっておらず,本研究結果は脳卒中患者の理学療法を行っていく上で有用である。