[O-0437] 重症の外傷性脳損傷患者における歩行能力とADLの長期的な改善について
キーワード:外傷性脳損傷, 歩行, 長期的改善
【はじめに,目的】一般に外傷性脳損傷(Traumatic brain injury:TBI)患者は長期的に障害の改善が得られるとされている。しかし,長期的な改善について検討した報告は高次脳機能障害に関するものが多く,歩行能力に関しては比較的予後良好とされるため報告は少ない。しかし,受傷機転として交通事故が多いTBI患者では,多部位の骨折や意識障害の遷延などの要因により重度の動作障害を認め,長期的なリハビリテーションが必要となる重症例もみられるのが現状である。本研究の目的は,当院にて3年間にわたって理学療法を実施した重症TBI患者の歩行能力とADLの長期的変化について検討することである。
【方法】対象は当院にて入院および外来で長期的に理学療法を実施したTBI患者6例(男性4例,女性2例,受傷時年齢22.3±6.2歳,当院での理学療法開始時年齢23.8±6.8歳)とした。当院転院時では全例で四肢麻痺や運動失調,ROM制限による顕著な基本動作障害や高次脳機能障害を呈していた。全例で初期評価時の基本動作はほぼ全介助であり,6例中3例では歩行は不可能で,残りの3例についても長下肢装具などを用いて全介助であった。理学療法介入として入院中は立位,歩行などの基本動作練習を中心に積極的な運動療法が実施された。外来は週に1回の頻度で行い,介入内容は基本動作練習に加え,動作能力の改善に合わせた自宅での練習を,本人と家族に適宜指導が行われた。全例で作業療法,言語聴覚療法が実施された。また,ROM制限,痙縮が重度であった4例では経過中に医学的治療としてボツリヌス療法や整形外科的痙縮コントロール手術が実施されている。評価項目は,歩行能力の評価としてFunctional Ambulation Classification(FAC)を,ADLの評価としてFunctional Independence Measure(FIM)を用いた。FIMは合計と運動項目,認知項目の変化を評価した。評価は当院での理学療法開始時を初期評価時とし,1年後,2年後,3年後までの長期的経過をカルテより後方視的に検討した。統計学的検定は各群間における初期評価時,1年後,2年後,3年後のFAC,FIMの変化について反復測定による分散分析を行い,多重比較としてTukey法を用いた。検定はSPSS version 22を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】FACの変化は,初期評価時は全例で0であったのが,1年後1.2±1.2,2年後1.7±1.5,3年後2.0±1.3に増加し,初期評価時に比べ,2年後と3年後では有意(p<0.05)な改善を認めた。3年後のFACは4が1例,3が1例,2が1例,1が3例となり,全例で短下肢装具,歩行器の使用や介助下での歩行が可能となった。さらに6例中5例では家族の介助下での歩行が可能となり,自宅での練習として行うことが可能となった。FIMの変化は初期評価時37.8±11.8であったのが,1年後52.5±9.0,2年後64.2±16.7,3年後66.8±18.8に増加し,初期評価時に比べ,2年後と3年後では有意(p<0.05)な改善を認めた。FIM運動項目は初期評価時20.0±9.3,1年後30.7±8.5,2年後39.3±14.2,3年後41.7±39.3に増加し,初期評価時に比べ,2年後と3年後では有意(p<0.01)な改善を認めた。FIM認知項目では初期評価時17.7±7.6,1年後21.8±7.0,2年後24.8±8.6,3年後25.2±8.7に変化したが,有意な変化は見られなかった。FAC,FIMともに3年間で低下した症例はみられなかった。
【考察】基本動作能力がほぼ全介助の重症TBI患者においても,長期的なリハビリテーションの継続により歩行能力の改善が得られることがわかった。また,ADLに関しても長期的な改善が認められた。この要因の一つとして年齢の影響が挙げられる。若年のTBI患者では受傷後1年以降も5年に渡り,全般的な能力障害が改善すると報告されている(Marquez de la plata, 2008)。本研究で対象としたTBI患者も比較的若年であり,積極的な運動療法が可能であったことが歩行能力とADLの改善に繋がったと考えられた。さらに在宅生活において,家族の介助や歩行補助具を用いた歩行練習を継続できた症例が多かったことも,長期的に歩行能力の改善が得られた要因の一つと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,重症TBI患者に対する長期的なリハビリテーションの有効性を示す一助となると考えられる。
【方法】対象は当院にて入院および外来で長期的に理学療法を実施したTBI患者6例(男性4例,女性2例,受傷時年齢22.3±6.2歳,当院での理学療法開始時年齢23.8±6.8歳)とした。当院転院時では全例で四肢麻痺や運動失調,ROM制限による顕著な基本動作障害や高次脳機能障害を呈していた。全例で初期評価時の基本動作はほぼ全介助であり,6例中3例では歩行は不可能で,残りの3例についても長下肢装具などを用いて全介助であった。理学療法介入として入院中は立位,歩行などの基本動作練習を中心に積極的な運動療法が実施された。外来は週に1回の頻度で行い,介入内容は基本動作練習に加え,動作能力の改善に合わせた自宅での練習を,本人と家族に適宜指導が行われた。全例で作業療法,言語聴覚療法が実施された。また,ROM制限,痙縮が重度であった4例では経過中に医学的治療としてボツリヌス療法や整形外科的痙縮コントロール手術が実施されている。評価項目は,歩行能力の評価としてFunctional Ambulation Classification(FAC)を,ADLの評価としてFunctional Independence Measure(FIM)を用いた。FIMは合計と運動項目,認知項目の変化を評価した。評価は当院での理学療法開始時を初期評価時とし,1年後,2年後,3年後までの長期的経過をカルテより後方視的に検討した。統計学的検定は各群間における初期評価時,1年後,2年後,3年後のFAC,FIMの変化について反復測定による分散分析を行い,多重比較としてTukey法を用いた。検定はSPSS version 22を使用し,有意水準は5%とした。
【結果】FACの変化は,初期評価時は全例で0であったのが,1年後1.2±1.2,2年後1.7±1.5,3年後2.0±1.3に増加し,初期評価時に比べ,2年後と3年後では有意(p<0.05)な改善を認めた。3年後のFACは4が1例,3が1例,2が1例,1が3例となり,全例で短下肢装具,歩行器の使用や介助下での歩行が可能となった。さらに6例中5例では家族の介助下での歩行が可能となり,自宅での練習として行うことが可能となった。FIMの変化は初期評価時37.8±11.8であったのが,1年後52.5±9.0,2年後64.2±16.7,3年後66.8±18.8に増加し,初期評価時に比べ,2年後と3年後では有意(p<0.05)な改善を認めた。FIM運動項目は初期評価時20.0±9.3,1年後30.7±8.5,2年後39.3±14.2,3年後41.7±39.3に増加し,初期評価時に比べ,2年後と3年後では有意(p<0.01)な改善を認めた。FIM認知項目では初期評価時17.7±7.6,1年後21.8±7.0,2年後24.8±8.6,3年後25.2±8.7に変化したが,有意な変化は見られなかった。FAC,FIMともに3年間で低下した症例はみられなかった。
【考察】基本動作能力がほぼ全介助の重症TBI患者においても,長期的なリハビリテーションの継続により歩行能力の改善が得られることがわかった。また,ADLに関しても長期的な改善が認められた。この要因の一つとして年齢の影響が挙げられる。若年のTBI患者では受傷後1年以降も5年に渡り,全般的な能力障害が改善すると報告されている(Marquez de la plata, 2008)。本研究で対象としたTBI患者も比較的若年であり,積極的な運動療法が可能であったことが歩行能力とADLの改善に繋がったと考えられた。さらに在宅生活において,家族の介助や歩行補助具を用いた歩行練習を継続できた症例が多かったことも,長期的に歩行能力の改善が得られた要因の一つと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,重症TBI患者に対する長期的なリハビリテーションの有効性を示す一助となると考えられる。