[O-0440] 集中的な運動療法と栄養管理により血糖値の改善と体重コントロールが良好であった透析患者の1症例
キーワード:透析患者, 糖尿病, 血糖値
【はじめに,目的】
近年,透析患者数は増加し,なかでも糖尿病性腎症からの透析導入が増加している。透析療法では代謝や体重管理が重要であり,運動療法が透析患者の代謝を改善する効果が多く報告される。しかし,血糖値や体重は個々で変動が大きく,症例ごとの詳細な検討が必要である。今回,2ヵ月間の集中的な運動療法と栄養管理を実施した透析患者の1症例について血液検査値と体重の変化を調査し,その効果を検証した。
【方法】
対象は60歳代,男性,身長173.4cm,BMI28,既往歴は糖尿病性糸球体腎硬化症,脳梗塞,高血圧であった。また,睡眠時無呼吸症候群の診断があり,医師より体重減少を指導されていた。入所の経緯は自宅での転倒による下肢の痛みと過体重からの介護困難で入所となる。入所の目標は在宅復帰へ向けたADL向上ともに,血糖値,体重のコントロールが設定された。運動療法は非透析日に週3回,30~40分/回,歩行運動と座位エルゴメータを実施,運動強度はカルボーネン法,定数0.4で目標心拍数を設定した。栄養管理は管理栄養士より,エネルギー,たんぱく質,カリウム,リン,塩分等を調整した透析食を提供した。測定項目は血液検査値,透析前体重,心胸郭比等を調査し,ABデザインで基礎水準測定期として入所前1ヵ月,入所時,操作導入期として入所後1ヵ月,後2ヵ月を調査した。尚,脂質代謝は入所時と入所後2ヵ月後の値を調査した。
【結果】
以下,入所前1ヵ月,入所時,入所後1ヵ月,後2ヵ月の順に結果を表記する。GA(%)は23.4,21.6,19.6,17.8に,血糖値(mg/dl)は258,141,143,126に減少した。リン(mg/dl)は5.4,4.5,2.8,3.0に減少した。また,血清アルブミン値(g/dl)は2.6,2.9,2.9,3.1に増加し,総タンパク(g/dl)は6.6,6.4,6.6,6.6と変化はなかった。体重は透析前値(kg)では86.0,86.3,82.5,80.8に減少した。また,脂質代謝の結果(入所時,2ヵ月後)では総コレステロール(mg/dl)は96.0,85.0,中性脂肪(mg/dl)は108.0,94.0,HDL-C(mg/dl)は29.0,31.0,LDL-C(mg/dl)は48.0,37.0であった。心胸郭比(%)は58,64,59,60であった。
【考察】
本研究の結果では短期間の集中的な運動療法と栄養管理により血糖値の改善と体重減少を達成した。GA値,血糖値の低下には食事管理による効果と有酸素運動の継続によるインスリン感受性の改善が考えられる。また,血糖値や体重は減少したが,心胸郭比は入所時より改善し,血清アルブミン値は増加,総タンパクは維持され,リンが減少する良好な結果であった。この結果は運動療法と栄養療法の相互的な効果と考える。一般的に透析患者ではProtein energy wasting(PEW)が問題であり,食事制限のみによる代謝の改善や体重減少は難しい。また,筋タンパク合成の最大の刺激因子は運動であり,運動療法と栄養摂取の併用が重要である。しかし,脂質代謝の血液検査結果ではLDL-Cは低下し,HDL-Cはわずかに増加したが,総コレステロール,中性脂肪は基準値以下で経過した。栄養管理でも透析食で脂質代謝も考慮した管理は難しく,今後の検討が必要である。透析患者に対する理学療法の目標は身体機能,ADLの向上のみでなく代謝改善も考慮する必要がある。透析療法では定期的に血液検査を実施し医師が治療方針を検討するため,理学療法士は血液検査等の結果の変化を把握し,運動内容や量の検討をする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
透析患者の血糖,代謝コントロールには透析療法,運動療法,栄養管理の包括的なアプローチが重要であり,多職種と連携した理学療法士の役割は重要である。
近年,透析患者数は増加し,なかでも糖尿病性腎症からの透析導入が増加している。透析療法では代謝や体重管理が重要であり,運動療法が透析患者の代謝を改善する効果が多く報告される。しかし,血糖値や体重は個々で変動が大きく,症例ごとの詳細な検討が必要である。今回,2ヵ月間の集中的な運動療法と栄養管理を実施した透析患者の1症例について血液検査値と体重の変化を調査し,その効果を検証した。
【方法】
対象は60歳代,男性,身長173.4cm,BMI28,既往歴は糖尿病性糸球体腎硬化症,脳梗塞,高血圧であった。また,睡眠時無呼吸症候群の診断があり,医師より体重減少を指導されていた。入所の経緯は自宅での転倒による下肢の痛みと過体重からの介護困難で入所となる。入所の目標は在宅復帰へ向けたADL向上ともに,血糖値,体重のコントロールが設定された。運動療法は非透析日に週3回,30~40分/回,歩行運動と座位エルゴメータを実施,運動強度はカルボーネン法,定数0.4で目標心拍数を設定した。栄養管理は管理栄養士より,エネルギー,たんぱく質,カリウム,リン,塩分等を調整した透析食を提供した。測定項目は血液検査値,透析前体重,心胸郭比等を調査し,ABデザインで基礎水準測定期として入所前1ヵ月,入所時,操作導入期として入所後1ヵ月,後2ヵ月を調査した。尚,脂質代謝は入所時と入所後2ヵ月後の値を調査した。
【結果】
以下,入所前1ヵ月,入所時,入所後1ヵ月,後2ヵ月の順に結果を表記する。GA(%)は23.4,21.6,19.6,17.8に,血糖値(mg/dl)は258,141,143,126に減少した。リン(mg/dl)は5.4,4.5,2.8,3.0に減少した。また,血清アルブミン値(g/dl)は2.6,2.9,2.9,3.1に増加し,総タンパク(g/dl)は6.6,6.4,6.6,6.6と変化はなかった。体重は透析前値(kg)では86.0,86.3,82.5,80.8に減少した。また,脂質代謝の結果(入所時,2ヵ月後)では総コレステロール(mg/dl)は96.0,85.0,中性脂肪(mg/dl)は108.0,94.0,HDL-C(mg/dl)は29.0,31.0,LDL-C(mg/dl)は48.0,37.0であった。心胸郭比(%)は58,64,59,60であった。
【考察】
本研究の結果では短期間の集中的な運動療法と栄養管理により血糖値の改善と体重減少を達成した。GA値,血糖値の低下には食事管理による効果と有酸素運動の継続によるインスリン感受性の改善が考えられる。また,血糖値や体重は減少したが,心胸郭比は入所時より改善し,血清アルブミン値は増加,総タンパクは維持され,リンが減少する良好な結果であった。この結果は運動療法と栄養療法の相互的な効果と考える。一般的に透析患者ではProtein energy wasting(PEW)が問題であり,食事制限のみによる代謝の改善や体重減少は難しい。また,筋タンパク合成の最大の刺激因子は運動であり,運動療法と栄養摂取の併用が重要である。しかし,脂質代謝の血液検査結果ではLDL-Cは低下し,HDL-Cはわずかに増加したが,総コレステロール,中性脂肪は基準値以下で経過した。栄養管理でも透析食で脂質代謝も考慮した管理は難しく,今後の検討が必要である。透析患者に対する理学療法の目標は身体機能,ADLの向上のみでなく代謝改善も考慮する必要がある。透析療法では定期的に血液検査を実施し医師が治療方針を検討するため,理学療法士は血液検査等の結果の変化を把握し,運動内容や量の検討をする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
透析患者の血糖,代謝コントロールには透析療法,運動療法,栄養管理の包括的なアプローチが重要であり,多職種と連携した理学療法士の役割は重要である。