第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述58

代謝2

2015年6月6日(土) 12:30 〜 13:30 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:塩塚順(虹が丘病院 リハビリテーション科), 忽那俊樹(北里大学東病院 リハビリテーション部)

[O-0442] 超音波画像診断装置を用いた荷重時の第1中足骨骨頭下部の観察

瀧原純, 鈴木美咲, 伊野智美 (総合病院土浦協同病院リハビリテーション部)

キーワード:超音波画像診断装置, 第1中足骨, 種子骨

【はじめに,目的】
糖尿病足病変の主となる病因の一つである運動神経障害が生じると足部内在筋に麻痺が生じ,足趾変形を招くことが報告されている。よく生じる足趾変形にhammer toe変形やclaw toe変形などが挙げられ,これらの変形では,中足趾節関節(以下,MTP関節)が伸展位で拘縮するため,中足骨骨頭部の脂肪が遠位へ移動し,同部位の脂肪層が非薄化するとされている。このため,歩行時や荷重時に接地面から受ける力が直接に骨頭部に伝わり,足底圧の高まりから胼胝を形成しやすくなると言われている。これまでの研究では足部の変形を有する神経障害を合併した糖尿病患者の第1中足骨骨頭部の脂肪層が非薄化した様子がMRIにて明らかになっている。しかし,荷重時の骨頭部の動態を観察した報告は見られず,潰瘍が形成されるまでの機序が完全に解明されているとは言い難い。そこで今回,潰瘍が形成される機序の解明に寄与するため,超音波画像診断装置(以下,エコー)を用いて第1中足骨骨頭下部の状態を観察した。

【方法】
対象は20歳台前半の健常成人女性1名とし,Body Mass Indexは21.0だった。方法は市販のアクリル板(縦400mm横400mm厚み18mm)の中央部を縦56mm横27mmの範囲で切り抜き,エコー(日立MyLabFive 18MHz)のプローブが下部から挿入できるように加工した。切り口の周囲はプローブの固定性を良くするために弾性テーピングを巻いた。切り抜いた部分にプローブを挿入し,アクリル板の表面と同じ位置で固定した。その上部に第1中足骨骨頭下部の外側種子骨が合うように被検者を立たせ,歩行時の荷重応答期,立脚中期,反対側初期接地期,反対側荷重応答期および立脚終期を想定した肢位における状態を観察した。荷重応答期を想定した肢位は第1MTP関節伸展0度で1/2部分荷重の状態(以下,荷重応答期想定肢位)とし,立脚中期を想定した肢位は第1MTP関節伸展0度で,片脚立位(以下,立脚中期想定肢位)とした。反対側初期接地期を想定した肢位は第1MTP関節伸展20度で,踵骨隆起下端が床面から30mm離れた状態(以下,反対側初期接地期想定肢位)とし,反対側荷重応答期を想定した肢位は第1MTP関節伸展30度で,踵骨隆起下端が床面から50mm離れた状態(以下,反対側荷重応答期想定肢位)とした。立脚終期を想定した肢位は第1MTP関節伸展40度で,踵骨隆起下端が床面から70mm離れた状態(以下,立脚終期想定肢位)とした。各肢位とも姿勢を安定させるために手すりを軽く支持させた。被験者を各肢位で保持させ,エコーの静止画像を撮影した。また,一連の流れでも行い,それを動画で撮影した。撮影後,静止画像においては接地面から種子骨の接触部までの最短距離をエコーに内蔵されているデジタルメジャーを用いて計測した。

【結果】
全ての肢位において第1中足骨頭部と接地面との間に外側種子骨が位置し荷重を支持していた。静止画像における接地面から種子骨の接触部までの最短距離は,荷重応答期想定肢位で6.3mm,立脚中期想定肢位で5.2mm,反対側初期接地期想定肢位で4.8mm,反対側荷重応答期想定肢位で5.3mm,立脚終期想定肢位で5.2mmだった。動画においても接地面と種子骨の間の組織が柔軟に変化することが確認できた。

【考察】
前足部には歩行時に体重の3倍もの負荷がかかり,そのうちsesamoid mechanismには50%の負担がかかるとされている。今回の結果から健常成人の場合,歩行時に種子骨が荷重面と常に接地することによって荷重負荷を分散させる機構が働くことがエコー画像においても明らかとなった。糖尿病足病変患者の潰瘍形成の原因の一つとなるMTP関節の変形を有する症例においては種子骨の位置が変化することが考えられる。そのため,第1中足骨骨頭下で種子骨を介した荷重分散機構が適切に働かず,長母趾屈筋や足部内在筋,脂肪層などの軟部組織で支持することになり,胼胝の形成から潰瘍の発生へと進行する可能性があることが示唆された。

【理学療法学研究としての意義】
エコーを用いて荷重時の第1中足骨骨頭下部の状態を観察し,sesamoid mechanismの重要性を確認できた事で,糖尿病足病変患者の潰瘍形成の機序の解明に寄与することが期待できる。