[O-0443] 糖尿病に起因する筋障害は病期により障害様式が変化する
Keywords:糖尿病, 筋力低下, 病期
【はじめに,目的】
近年,糖尿病によって筋力低下が生じることが報告され,臨床的にも注目を集めている。糖尿病に起因する筋力低下は,下肢の末梢優位に生じるという特徴から,転倒リスク上昇,歩行速度低下などの糖尿病患者で観察される運動障害に大きく関与している可能性がある。しかし,糖尿病神経障害の主症状が感覚障害であるという理由から,糖尿病で観察される運動障害の主因は感覚障害に求められてきた。そのため,糖尿病に起因する筋力低下などの運動器の障害に関する研究は,ほとんど行われてこなかった。特に糖尿病の病期と筋障害の関係には不明な点が多い。糖尿病では病期の進行により様々な合併症が生じるため,病期の進行に伴い,筋の障害様式に変化が生じることが十分に考えられるが,この点については解析が行われていない。そこで我々は,病期を正確に把握できる糖尿病モデル動物を用い,病期と筋の障害様式の変化を生理学的手法,組織学的手法を用い検討することとした。
【方法】
実験には13週齢のWistar系ラット,雄20匹を用いた。10匹には30%streptozotocin(100mg/kg;以下STZ)を腹腔内投与し,1型糖尿病を発症させた(糖尿病群)。残りの10匹には生理食塩水のみを投与した(対照群)。その後,各群のラットの半数は12週間,残りの半数は22週間の通常飼育を行い,糖尿病12週群(25週令),糖尿病22週群(35週令),糖尿病群と同週齢の対照群の計4群,それぞれ5匹に分類した。対象筋は,主に速筋から構成される内側腓腹筋と,主に遅筋から構成されるヒラメ筋とし,筋張力曲線の測定と筋組成の解析を行った。ハロタン吸入麻酔下にて内側腓腹筋とヒラメ筋を張力トランスデューサーに接続した後,最大張力が得られる筋長に固定し,持続時間500μsecの矩形波にて脛骨神経を電気刺激し,各筋の単収縮(刺激頻度:1Hz)の張力曲線を記録した。計測終了後,各筋を摘出し湿重量を計測。その後,一次抗体にAnti-skeletal myosin(Skeletal,Slow)とMonoclonal Anti-skeletal myosin(FAST)を用い,ABC kitにて免疫染色を行った。
【結果】
糖尿病12週群では対照群に比べ,内側腓腹筋で最大筋張力の低下(p<0.05),筋重量の低下(p<0.01)が観察された。しかし,ヒラメ筋の最大筋張力,筋重量には有意差は認められなかった。また,両筋ともに速筋線維の横断面積の低下が観察された(p<0.01)が,遅筋線維の横断面積に大きな変化は観察されなかった。一方で,糖尿病22週群では,病期12週群と同様に内側腓腹筋で最大筋張力の低下が観察された(p<0.05)が,その減少割合は病期12週群と比べ軽微であり,筋重量に有意差は認められなかった。ヒラメ筋では最大筋張力の低下(p<0.05),筋重量の低下(p<0.05),に加え速筋線維の占める割合の増加(p<0.05)が観察された。また,病期12週と同様に両筋ともに速筋線維の断面積の低下が観察された(p<0.05)が,病期12週と比べ,減少の割合が軽微であった。
【考察】
本研究結果から,STZラットでは,糖尿病の病期に依存して筋の障害様式が変化することが示唆された。病期12週では速筋線維が大部分を占める内側腓腹筋が優位に障害される傾向にあった。しかし,病期22週に達すると,遅筋線維が大部分を占めるヒラメ筋に筋力低下,筋組成の変化が観察される一方,速筋に生じた筋力低下の改善傾向が確認された。病期12週で観察された速筋優位の筋力低下は先行研究でも報告されている事実であり,高血糖負荷による筋の代謝障害が関与していると考えられている。これに対し,病期22週の遅筋で観察された遅筋優位の筋力低下,筋組成の変化は高血糖暴露による速筋の障害とは明らかに特性が異なることから,筋障害の新たな側面を示す可能性が高い。遅筋優位の変化が生じたメカニズムは不明であるが,病期22週以降には運動ニューロン障害が観察されることが知られているため,これらの筋障害は運動ニューロンの障害による影響を受けている可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,筋の障害様式が糖尿病の病期により異なる可能性を報告するものである。仮に糖尿病の病期により筋の障害様式が異なるのであれば,それぞれの病期に適した運動療法の開発が必要になることが考えられる。この点で,本研究は糖尿病の運動器障害に対する運動療法開発の基礎的な知見になる可能性がある。
近年,糖尿病によって筋力低下が生じることが報告され,臨床的にも注目を集めている。糖尿病に起因する筋力低下は,下肢の末梢優位に生じるという特徴から,転倒リスク上昇,歩行速度低下などの糖尿病患者で観察される運動障害に大きく関与している可能性がある。しかし,糖尿病神経障害の主症状が感覚障害であるという理由から,糖尿病で観察される運動障害の主因は感覚障害に求められてきた。そのため,糖尿病に起因する筋力低下などの運動器の障害に関する研究は,ほとんど行われてこなかった。特に糖尿病の病期と筋障害の関係には不明な点が多い。糖尿病では病期の進行により様々な合併症が生じるため,病期の進行に伴い,筋の障害様式に変化が生じることが十分に考えられるが,この点については解析が行われていない。そこで我々は,病期を正確に把握できる糖尿病モデル動物を用い,病期と筋の障害様式の変化を生理学的手法,組織学的手法を用い検討することとした。
【方法】
実験には13週齢のWistar系ラット,雄20匹を用いた。10匹には30%streptozotocin(100mg/kg;以下STZ)を腹腔内投与し,1型糖尿病を発症させた(糖尿病群)。残りの10匹には生理食塩水のみを投与した(対照群)。その後,各群のラットの半数は12週間,残りの半数は22週間の通常飼育を行い,糖尿病12週群(25週令),糖尿病22週群(35週令),糖尿病群と同週齢の対照群の計4群,それぞれ5匹に分類した。対象筋は,主に速筋から構成される内側腓腹筋と,主に遅筋から構成されるヒラメ筋とし,筋張力曲線の測定と筋組成の解析を行った。ハロタン吸入麻酔下にて内側腓腹筋とヒラメ筋を張力トランスデューサーに接続した後,最大張力が得られる筋長に固定し,持続時間500μsecの矩形波にて脛骨神経を電気刺激し,各筋の単収縮(刺激頻度:1Hz)の張力曲線を記録した。計測終了後,各筋を摘出し湿重量を計測。その後,一次抗体にAnti-skeletal myosin(Skeletal,Slow)とMonoclonal Anti-skeletal myosin(FAST)を用い,ABC kitにて免疫染色を行った。
【結果】
糖尿病12週群では対照群に比べ,内側腓腹筋で最大筋張力の低下(p<0.05),筋重量の低下(p<0.01)が観察された。しかし,ヒラメ筋の最大筋張力,筋重量には有意差は認められなかった。また,両筋ともに速筋線維の横断面積の低下が観察された(p<0.01)が,遅筋線維の横断面積に大きな変化は観察されなかった。一方で,糖尿病22週群では,病期12週群と同様に内側腓腹筋で最大筋張力の低下が観察された(p<0.05)が,その減少割合は病期12週群と比べ軽微であり,筋重量に有意差は認められなかった。ヒラメ筋では最大筋張力の低下(p<0.05),筋重量の低下(p<0.05),に加え速筋線維の占める割合の増加(p<0.05)が観察された。また,病期12週と同様に両筋ともに速筋線維の断面積の低下が観察された(p<0.05)が,病期12週と比べ,減少の割合が軽微であった。
【考察】
本研究結果から,STZラットでは,糖尿病の病期に依存して筋の障害様式が変化することが示唆された。病期12週では速筋線維が大部分を占める内側腓腹筋が優位に障害される傾向にあった。しかし,病期22週に達すると,遅筋線維が大部分を占めるヒラメ筋に筋力低下,筋組成の変化が観察される一方,速筋に生じた筋力低下の改善傾向が確認された。病期12週で観察された速筋優位の筋力低下は先行研究でも報告されている事実であり,高血糖負荷による筋の代謝障害が関与していると考えられている。これに対し,病期22週の遅筋で観察された遅筋優位の筋力低下,筋組成の変化は高血糖暴露による速筋の障害とは明らかに特性が異なることから,筋障害の新たな側面を示す可能性が高い。遅筋優位の変化が生じたメカニズムは不明であるが,病期22週以降には運動ニューロン障害が観察されることが知られているため,これらの筋障害は運動ニューロンの障害による影響を受けている可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,筋の障害様式が糖尿病の病期により異なる可能性を報告するものである。仮に糖尿病の病期により筋の障害様式が異なるのであれば,それぞれの病期に適した運動療法の開発が必要になることが考えられる。この点で,本研究は糖尿病の運動器障害に対する運動療法開発の基礎的な知見になる可能性がある。