第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述59

地域理学療法4

2015年6月6日(土) 12:30 〜 13:30 第10会場 (ガラス棟 G602)

座長:盆出義也(陽だまり訪問看護ステーション 東久留米サテライト)

[O-0446] リハビリテーションアウトカムに焦点を当てた神戸西地域における地域連携の改革

―West Kobe Community Cooperation(WKCC)の発足と経過―

井上達朗1, 筧哲也1, 三坂恵1, 河石優2, 前川健一郎2, 田川和人3, 尾崎俊宜3, 佐々木彩4, 角大輔5, 安岡謙太郎5, 堂上文臣5, 田中利明1 (1.西神戸医療センター, 2.神戸リハビリテーション病院, 3.みきやまリハビリテーション病院, 4.広野高原病院, 5.ときわ病院)

キーワード:地域連携, 地域連携パス, 大腿骨近位部骨折

【はじめに,目的】
医療機関の機能分化と共に施設完結型から地域完結型へと移行している現在の地域医療において,施設間の情報共有は不可欠である。神戸西地域においても急性期基幹病院である当院を中心として大腿骨近位部骨折と脳血管障害で地域連携パスを導入しシームレスな地域連携を推進してきた。しかし,従来の大腿骨近位部骨折における地域連携に関する報告では,急性期病院の平均在院日数やパス稼働率,医療経済的側面をアウトカムとしたものが多く,我々理学療法士にとって着目すべきADL等のリハビリテーションアウトカムに関しては十分に議論されてこなかった。また,機能分化により各診療体系が専門家されていく一方で,現場の理学療法士が患者の発症から在宅復帰までの経過を把握する事が難しくなり,包括的な視点での治療プログラム立案が困難であった。そこで我々は各病期(急性期,回復期)を担当する理学療法士が包括的な視点を持つことで患者のリハビリテーションアウトカムを地域レベルで改善させることを目的として,今後の本質的な連携構築案に協力的であった神戸リハビリテーション病院,ときわ病院,みきやまリハビリテーション病院,広野高原病院とWest Kobe Community Cooperation(WKCC)を発足した。2013年3月に各施設の担当者2-3名と第1回担当者会議を実施し,今後の方向性について議論した。その結果,評価項目を病院間で統一し,歩行を中心とした動画を定期的に撮影する事が決定した。それらを提示し同一症例における急性期病院と回復期病院の各担当理学療法士が症例報告リレーを実施し,病院の垣根を越えた客観的経過把握を試みた。現在まで複数回実施した上での現状と改善点を報告する。
【方法】
評価項目は股関節屈曲可動域,握力,下腿周径,VAS,Timed Up and Go Test,FIMとした。その他HDS-Rや体重変化等も各施設の判断で追加して評価した。急性期病院は初期評価と術後1週毎に転院するまで評価を実施した。回復期病院は入院時に初期評価を実施し,その後1ヶ月毎の評価を退院時まで継続した。歩行時の動画撮影は矢状面,前額面からとした。急性期病院は初回離床時と術後1週毎における歩行時の動画撮影を転院するまで継続した。回復期病院は初期評価時とその後1ヶ月毎に退院するまで継続した。症例報告は各担当理学療法士が動画を提示しながら歩行分析を行った。参考資料として上記評価項目を急性期病院入院時から回復期病院退院時までをグラフ化して提示する事で経時的な変化を視覚的,客観的に把握できるようにした。その後各症例の問題点や改善点を議論し,リハビリテーションアウトカム改善の為に理学療法士の視点からどの様な連携が今後必要かを議論した。
【結果】
多施設間症例報告を実施した結果,病期を通しての問題点は「筋スパズムに起因する疼痛管理」,「他関節への疼痛」,「骨折後のアライメント変化に伴う歩容」が主であった。また,回復期病院入院後の認知機能低下や抑鬱傾向も問題点として挙がった。「疼痛」は参加者の関心が非常に高く,急性期の段階からから最終的な予後を意識した治療プログラムの立案が議論された。例として急性期におけるROMエクササイズ,筋力トレーニング,歩行練習の負荷量の見直しと回復期病院との的確な情報共有が議論された。症例報告方法に関しては,同一症例の経時的変化が視覚的に把握できる為,病態を十分に理解でき,参加者からの評価も高かった。また,発症から3ヶ月後または5ヶ月後の長期的パフォーマンスやADLをアウトカムとして測定することは学術的価値も非常に高い為,多施設間データベースを構築し,データ収集を継続する事となった。
【考察】
本活動によって従来の書面での情報交換から理学療法士の本質的な情報交換,更には地域レベルで大腿骨近位部骨折患者の予後を改善する為のシステムが構築された。本活動は動画による動作分析を始めとした実践的機能と評価・測定を継続して管理するデータベース機能を併せ持つ「臨床的観点」と「学術的観点」を融合した取り組みとなっている。今後は症例数集積により疼痛が軽減する時期やパフォーマンスの改善度を単一施設だけでなく地域レベルで把握し,リハビリテーションアウトカムの改善に努めていきたいと考える。また,定期的に症例報告を実施していく事で各施設の新人教育の一環として定着し,早期から包括的視点を持ってアプローチする必要性を学ぶ事が期待される。
【理学療法学研究としての意義】
本活動は病院間の情報交換に留まらず,予後を改善させる本質的な取り組みとして今後更に貴重になると考える。