第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述60

神経・筋機能制御1

Sat. Jun 6, 2015 12:30 PM - 1:20 PM 第11会場 (ガラス棟 G610)

座長:久保田雅史(福井大学医学部附属病院 リハビリテーション部)

[O-0453] 慢性脳卒中患者に対するCI療法と末梢神経電気刺激の併用効果

修正CI療法は有効か?

西角暢修1, 山下和樹1, 岩井信彦2 (1.赤穂中央病院リハビリテーション部, 2.神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

Keywords:経皮的電気刺激, Constraint-induced movement therapy, 脳卒中

【はじめに,目的】
Constraint-induced movement therapy;CI療法は脳卒中ガイドライン2009と理学療法診療ガイドラインでグレードBとなっているが,実施時間等の問題があり本邦では十分に普及しておらず,効率的な介入により短時間でも治療効果を発揮する新たな修正CI療法の検討が必要である。一方,末梢神経電気刺激Peripheral nerve electrical stimulation;PNSは45分以上の感覚閾値強度の電気刺激を加えることで,運動野における長期増強を促進する中枢性効果が認められており,生野らによれば1時間のPNSと課題指向型練習の併用による即時効果と24時間以上経過後の持越し効果を認めたと報告している。そこで今回,CI療法にPNSを併用した修正CI療法の効果を検討した。
【方法】
対象は当院入院中の脳卒中患者で,Simple Test for Evaluating Hand Function;STEFが麻痺側で完遂可能な3名とした。症例1は左視床出血,第253病日,年齢79歳の女性,症例2は右ラクナ梗塞,第3330病日,年齢81歳の女性,症例3は右中大脳動脈領域脳梗塞,第151病日,年齢71歳の女性で,3例とも利き手は右で指示理解が良好であり著明な認知機能低下や感覚障害,高次脳機能障害はなかった。研究デザインはシングルケースのABABデザインとし,A期は三角巾にて非麻痺側上肢拘束と偽刺激,B期は非麻痺側上肢拘束とPNSを併用しSTEF10試行×2回の課題志向型練習を行った。2回目のA期はA2期,B期はB2期とした。各期は1日間で合計4日間とし,開始前日に練習としてSTEF5試行×3回を行った。これを通常の介入に加えて行い,それ以外の時間は非麻痺側上肢の拘束は行わなかった。電気刺激は低周波治療器Trio300(伊藤超短波社製)を用い,刺激部位は麻痺側手関節部の正中神経と尺骨神経で陰極が近位となるように電極を貼付した。設定は対称性二相性パルス波で周波数は10Hz,パルス時間は300μs,刺激強度は感覚閾値で症例1は5mA,症例3は10mAとし,課題志向型練習の約2時間持続的に刺激した。偽刺激は対象者に非常に弱い電気を流していると伝え,刺激強度を0mAとした。介入前後の評価として麻痺側のFugl-Meyer Assessment;FMA上肢,Wolf Motor Function Test;WMFTの遂行時間とFunctional Ability Scale;FASを行った。統計処理はSTEF合計秒数の平均値を算出し,2標準偏差帯域法とグラフによる視覚的分析にて各期の比較を行った。
【結果】
症例2は1日目に拒否があり中止した。STEFは症例1がA期162.9±17.6,B期148.4±6.5,A2期148.4±4.3,B2期142.5±7.3であり,視覚的分析による経時的変化はA期で大きく改善しB期,A2期で停滞した後B2期は悪化する傾向を示したが,2標準偏差帯域法ではA2期に比べB2期で有意に改善した。症例3は161.8±11.7,155.9±7.9,148.4±7.3,150.8±10.0であり,経時的変化はA,A2期で改善し,B,B2期で悪化する傾向を示し,2標準偏差帯域法では各期の有意差はなかった。介入前後の評価は症例1がFMA上肢は44から57,WMFTは遂行時間が186.3秒から154.5秒,FASは57から62と改善した。症例3のFMA上肢は45から54,WMFTは遂行時間が163.3秒から165.0秒,FASは63から69とFMAのみ改善した。
【考察】
STEFにおいて症例1は利き手である麻痺側の使用頻度が減少していたが,介入により麻痺側を意識して使用したことで学習性不使用が改善しA期に大きく改善したと考えた。A2期に比べB2期は有意に改善したが,経時的にみればPNSの効果が現れる後半に悪化し,またB期においても改善を認めなかった。これは手指運動時に手関節部の感覚閾値が上昇し電気刺激が十分に知覚されなかった可能性があり,B2期に経時的に悪化したのは長時間の同一課題が意欲に悪影響を与えたと考えられる。このことから麻痺側上肢の改善はPNSの効果ではなく,CI療法による学習性不使用の改善や課題指向型練習によるものと考えた。症例3は各期の間に有意差はなく,経時的にみるとPNS併用時に悪化した。これは電気刺激が注意機能に悪影響を与え課題に集中できなかったことが考えられた。以上のことから本研究においてCI療法にPNSを併用したことによる補完効果はなく,麻痺側の使用を意識した課題志向型練習での学習性不使用の改善が大きいと考えられる。多くの先行研究ではPNSを課題志向型練習の前に行っているが,本研究ではCI療法の効率化を検討するために運動中にPNSを行ったことで,注意機能への影響や,運動時の感覚閾値上昇により電気刺激が知覚されず皮質興奮性の増大を認めなかったと考えられ,今後の検討課題である。
【理学療法研究としての意義】
本研究においてCI療法とPNSに補完効果はなかったが,CI療法の効率化のために物理療法等の併用を検討していく必要がある。