第50回日本理学療法学術大会

講演情報

口述

口述61

身体運動学5

2015年6月6日(土) 12:30 〜 13:30 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:吉崎邦夫(郡山健康科学専門学校 理学療法学科)

[O-0456] 初妊婦と経産婦の身体症状と姿勢の特徴

平元奈津子1, 木藤伸宏1, 秋山實利2, 山本雅子3 (1.広島国際大学総合リハビリテーション学部, 2.広島国際大学保健医療学部, 3.医療法人大和会西条ときわクリニック)

キーワード:ウィメンズヘルス, 妊娠, 姿勢

【はじめに,目的】妊婦中に腰痛,骨盤帯痛,尿失禁を有する女性は多く,これらは妊娠に伴う姿勢変化が発症要因として考えられ,産後も継続する可能性が報告されている。我々の先行研究では妊婦の姿勢を客観的に評価する指標として腰仙椎の弯曲と立位時の傾斜が示され,身体症状を有する妊婦の姿勢の特徴の傾向が明らかになった。しかし出産経験のある経産婦は,以前の妊娠・出産に起因する姿勢変化や症状を有する可能性があり,初産婦とは異なる何らかの特徴を示すことが考えられる。そこで本研究の目的は,妊婦の姿勢と身体症状の関係について,出産経験の有無による特徴を,スパイナルマウスから得られる脊柱弯曲指標と静止画像から得られた姿勢指標を用いて明らかにすることである。
【方法】被験者は,医師により研究参加許可の得られた妊娠16週-35週の妊婦28名とした。切迫早産や内科的疾患等の妊娠継続が困難となり得る合併症,その他明らかな骨関節疾患等の疾患がある者は除外した。身体症状では,研究参加時における腰痛,骨盤痛および尿失禁の有無を聞き取り調査した。姿勢評価では,デジタルカメラで矢状面より撮影した静止画像を,画像解析ソフトImage J 1.42(NIH)を用いて体幹と骨盤のなす角度,体幹と下肢のなす角度を計測した。併せて,スパイナルマウス(R)を用いて,頚椎から仙椎までの脊柱アライメントを計測し,仙骨傾斜角,胸椎前弯角,腰椎後弯角,立位時の傾斜角を算出した。得られたデータからIBM SPSS Statistics Version22.0を用いて,主成分分析を行った。求めた主成分得点より,初産婦群と経産婦群の姿勢の特徴を比較検討した。
【結果】対象者の内訳は初産婦群18名,経産婦群10名であった。初産婦群は年齢30.3±4.3歳(平均±標準偏差),身長157.4±4.7cm,体重54.5±9.1kg,妊娠週数23.9±5.4週であり,経産婦群は年齢32.4±3.0歳,身長158.0±6.9cm,体重56.9±9.3kg,妊娠週数27.4±6.4週であった。身体症状では腰痛は初産婦群12名,経産婦9名,骨盤帯痛と尿失禁は初産婦群5名,経産婦群8名であった。主成分分析の結果,固有値1以上を示した第1主成分は腰椎後弯0.95,仙骨傾斜角-0.63,第2主成分は体幹と下肢のなす角度0.66,全身傾斜角0.64,第3主成分は体幹と骨盤のなす角度0.79で高い負荷量を示し,累積寄与率は77.3%であった。この結果より,第1・第3主成分は腰仙椎の弯曲の強弱,第2主成分は全身の傾斜を示していた。これに基づき第1主成分と第2主成分の主成分得点より両群の姿勢を分類し,特徴を検討したところ,初産婦は多様な姿勢を示していたが,経産婦群のうち5名は腰仙椎の弯曲が強く,全身がやや前傾する傾向が示された。
【考察】本研究の結果,経産婦は初産婦と比較して腰痛,尿失禁などの身体症状を有する割合が多いことが明らかになった。これらの症状の悪化因子として出産経験が報告されているが,今回の結果も同様の傾向を示した。妊婦の姿勢評価の指標として,腰仙椎の弯曲と全身の傾斜角が示された。妊婦は増大する腹部の影響で体幹前面に重心が変位しやすく,それに伴い腰椎前弯増加や全身姿勢が前傾しやすい可能性が考えられる。しかし増大する腹部を保持し抗重力姿勢を保つために,本来は体幹の質量中心を後方へ変位させなければならない。そのためには,脊椎と骨盤の形状を変化させる必要があり,腰背部あるいは骨盤帯の周囲筋を代償として作用させ,結果として骨盤痛や尿失禁という腹部の筋機能不全による症状が発生していると推測された。多様な姿勢を示した初産婦と比較すると経産婦の半数が腰仙椎弯曲を強くし,全身を前に傾けていたことから,妊娠中の増大する腹部の影響をより受けやすく,症状を有しやすいことが推測された。
【理学療法学研究としての意義】初妊婦と経産婦の身体症状と姿勢の特徴を明らかにすることで,出産経験別による身体症状の改善やその発症を予防するための理学療法介入方法が明らかとなることにつながる。そのため,本研究の結果はその根本的な指標となりうる。また,本研究を通して日本のウィメンズヘルスにおける理学療法士の職域拡大に寄与できるものと考える。