[O-0457] 妊娠期の腰椎骨盤痛に対する骨盤アライメントおよび歩行動作の関連性
キーワード:ウィメンズヘルス, 妊娠, 骨盤
【はじめに,目的】
妊娠により,女性の身体には様々な解剖学的および生理学的変化が生じ,歩行に代表される動作変化や,腰痛に代表される多様な不快症状が発生する。なかでも,妊娠期に特有の腰痛,恥骨痛,仙腸関節痛といった腰部および骨盤周囲の疼痛は,通称pregnancy-related lumbopelvic pain(以下PLPP)と呼ばれ,これにより女性のADLが阻害され,QOLが低下すると報告されている。この疼痛については,妊娠中に分泌されるリラキシンホルモンの作用による関節の弛緩と,胎児成長に伴う腹部膨隆および骨盤の過度な前傾が主な原因として挙げられている。つまり,妊娠経過に伴う骨盤アライメント及び動作パターンの変化が生じ,PLPP発症に関連することが予想される。そこで本研究では,妊娠女性におけるPLPPの有無と骨盤アライメントと歩行動作の関連性について検討することを目的とした。
【方法】
対象は名古屋市内の母親向けイベントに参加していた妊婦57名(29.9±3.8歳,平均妊娠月6.7±1.7ヵ月)とし,質問紙にて妊娠中のPLPP(腰痛,恥骨痛,仙腸関節痛のいずれか)の有無を聴取した。骨盤アライメントの計測には,骨盤傾斜の簡易的計測が可能なPalpation Meterを上前腸骨棘と上後腸骨棘の下端に当て,静止立位時の左右の骨盤前後傾角度を計測し,骨盤前後傾角度の左右差を算出した。歩行計測は,対象者の第三腰椎棘突起部に三軸加速度計を装着し,快適速度歩行条件下にて実施した。歩行路は,各2mの加速路・減速路を含む14mとし,解析対象区間は加速度と減速路を除く10mとした。得られた加速度データから,歩行指標として自己相関係数(autocorrelation coefficient:AC)および二乗平均平方根(Root Mean Square:RMS)を算出した。ACは値が大きいほど動作が左右対称的であることを示し,RMSは値が大きいほど体幹の動揺性が大きいことを示す指標である。なお,RMSは歩行速度の二乗値で除することで歩行速度の影響を調整した。統計解析では,対象者をPLPPの有無で2群に群分けし,骨盤前後傾角度の左右差,ACおよびRMSを対応の無いt検定にて比較した。次に,従属変数にPLPPの有無,独立変数に骨盤前後傾角度の左右差または各歩行指標を投入し,身長,体重,妊娠月数で調整したロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
PLPPあり群は43名(75.4%),PLPPなし群は14名(24.6%)であった。PLPPあり群はPLPPなし群と比較して骨盤前後傾角度の左右差が有意に大きく,RMSおよびACが有意に小さかった([骨盤前後傾角度の左右差]4.91±3.41,2.07±2.06,p<0.01;[RMS]PLPPあり群:2.77±0.57,PLPPなし群:3.15±0.49,p=0.02;[AC]0.66±0.16,0.74±0.08,p=0.03)。さらに,ロジスティック回帰分析において関連因子で調整してもなお,各項目はPLPPに有意に関連していた。
【考察】
本研究の結果,PLPP有訴妊婦において,RMSが低値であり歩行中の体幹の動揺性が小さいことが明らかとなった。これまでにも骨盤周囲痛を有する妊婦は体幹の回旋を減少させ,動きを制御した歩行戦略をとる事が報告されており,本研究結果はこれを支持するものと考える。さらに,本研究では,PLPP有訴妊婦は骨盤前後傾角度の左右差が大きく,ACが低値であり左右対称性の失われた歩容となっていることが示された。これらの結果から,PLPP有訴妊婦においては関節の弛緩や腹部膨隆によるアライメント異常や,歩行時の左右対称性の消失およびそれに伴う疼痛にたいして,体幹の動きを制御することにより補正しようとする歩行戦略が想定される。しかし,本研究は横断研究であり,PLPP,アライメント,動作の三者の関連性を証明する事は達成できたが,その因果関係は明らかではない。今後は縦断研究により各要素の因果関係を含めた検討を行う必要がある。本研究により,PLPPの予防には静的な骨盤アライメントおよび動的な歩行動作を包括的に評価する必要性が示された。またPLPPの改善には,左右対称性に着目した上でのアプローチが効果的である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
近年,理学療法学の分野において,ウィメンズヘルス分野への参加が重要視されている。本研究結果より,妊娠期の女性が特異的に抱えるPLPPに対して,理学療法における解剖学的および運動学的視点を踏まえた評価・アプローチによって,予防および対処を実施できる可能性が示されたと考える。
妊娠により,女性の身体には様々な解剖学的および生理学的変化が生じ,歩行に代表される動作変化や,腰痛に代表される多様な不快症状が発生する。なかでも,妊娠期に特有の腰痛,恥骨痛,仙腸関節痛といった腰部および骨盤周囲の疼痛は,通称pregnancy-related lumbopelvic pain(以下PLPP)と呼ばれ,これにより女性のADLが阻害され,QOLが低下すると報告されている。この疼痛については,妊娠中に分泌されるリラキシンホルモンの作用による関節の弛緩と,胎児成長に伴う腹部膨隆および骨盤の過度な前傾が主な原因として挙げられている。つまり,妊娠経過に伴う骨盤アライメント及び動作パターンの変化が生じ,PLPP発症に関連することが予想される。そこで本研究では,妊娠女性におけるPLPPの有無と骨盤アライメントと歩行動作の関連性について検討することを目的とした。
【方法】
対象は名古屋市内の母親向けイベントに参加していた妊婦57名(29.9±3.8歳,平均妊娠月6.7±1.7ヵ月)とし,質問紙にて妊娠中のPLPP(腰痛,恥骨痛,仙腸関節痛のいずれか)の有無を聴取した。骨盤アライメントの計測には,骨盤傾斜の簡易的計測が可能なPalpation Meterを上前腸骨棘と上後腸骨棘の下端に当て,静止立位時の左右の骨盤前後傾角度を計測し,骨盤前後傾角度の左右差を算出した。歩行計測は,対象者の第三腰椎棘突起部に三軸加速度計を装着し,快適速度歩行条件下にて実施した。歩行路は,各2mの加速路・減速路を含む14mとし,解析対象区間は加速度と減速路を除く10mとした。得られた加速度データから,歩行指標として自己相関係数(autocorrelation coefficient:AC)および二乗平均平方根(Root Mean Square:RMS)を算出した。ACは値が大きいほど動作が左右対称的であることを示し,RMSは値が大きいほど体幹の動揺性が大きいことを示す指標である。なお,RMSは歩行速度の二乗値で除することで歩行速度の影響を調整した。統計解析では,対象者をPLPPの有無で2群に群分けし,骨盤前後傾角度の左右差,ACおよびRMSを対応の無いt検定にて比較した。次に,従属変数にPLPPの有無,独立変数に骨盤前後傾角度の左右差または各歩行指標を投入し,身長,体重,妊娠月数で調整したロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
PLPPあり群は43名(75.4%),PLPPなし群は14名(24.6%)であった。PLPPあり群はPLPPなし群と比較して骨盤前後傾角度の左右差が有意に大きく,RMSおよびACが有意に小さかった([骨盤前後傾角度の左右差]4.91±3.41,2.07±2.06,p<0.01;[RMS]PLPPあり群:2.77±0.57,PLPPなし群:3.15±0.49,p=0.02;[AC]0.66±0.16,0.74±0.08,p=0.03)。さらに,ロジスティック回帰分析において関連因子で調整してもなお,各項目はPLPPに有意に関連していた。
【考察】
本研究の結果,PLPP有訴妊婦において,RMSが低値であり歩行中の体幹の動揺性が小さいことが明らかとなった。これまでにも骨盤周囲痛を有する妊婦は体幹の回旋を減少させ,動きを制御した歩行戦略をとる事が報告されており,本研究結果はこれを支持するものと考える。さらに,本研究では,PLPP有訴妊婦は骨盤前後傾角度の左右差が大きく,ACが低値であり左右対称性の失われた歩容となっていることが示された。これらの結果から,PLPP有訴妊婦においては関節の弛緩や腹部膨隆によるアライメント異常や,歩行時の左右対称性の消失およびそれに伴う疼痛にたいして,体幹の動きを制御することにより補正しようとする歩行戦略が想定される。しかし,本研究は横断研究であり,PLPP,アライメント,動作の三者の関連性を証明する事は達成できたが,その因果関係は明らかではない。今後は縦断研究により各要素の因果関係を含めた検討を行う必要がある。本研究により,PLPPの予防には静的な骨盤アライメントおよび動的な歩行動作を包括的に評価する必要性が示された。またPLPPの改善には,左右対称性に着目した上でのアプローチが効果的である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
近年,理学療法学の分野において,ウィメンズヘルス分野への参加が重要視されている。本研究結果より,妊娠期の女性が特異的に抱えるPLPPに対して,理学療法における解剖学的および運動学的視点を踏まえた評価・アプローチによって,予防および対処を実施できる可能性が示されたと考える。