[O-0458] 腹圧性尿失禁とインナーユニットの関連性について
Keywords:尿失禁, 超音波画像診断装置, インナーユニット
【はじめに】
尿失禁は,女性の生活の質に深刻な影響を及ぼす要因であるとは社会的にも周知されている。尿失禁の多くは腹圧性尿失禁であり治療・改善に向けた骨盤底筋体操が広く知られている。しかし,骨盤底筋は体の深部にあり収縮が自覚しづらく体操が習慣化できないという問題が報告されている。近年,骨盤底筋群に対して研究が進み,インナーユニットとして骨盤底筋群,腹横筋,多裂筋および横隔膜が体幹部の安定性に関与するとの報告がなされている。インナーユニットは腹部全体をコルセット状に包んでいる深層筋で,腹壁を凹ませ腹腔を狭小化し,体幹筋と共同しながら腹圧を調節している。Sapsfordは,骨盤底筋は単独では働かず骨盤底筋を収縮させると腹部筋が収縮し,腹部筋の収縮により骨盤底筋も活性化されると指摘している。さらに,骨盤底筋と腹横筋の同時収縮によるエクササイズ後に腹圧性尿失禁が改善したことを報告している。また犬飼らは,腹横筋は単独で活動性が増加するのではなく,多裂筋などの体幹伸筋群と共同的に収縮することで下部体幹の安定性に関与すると報告している。インナーユニットは鍵となる4つの筋群が協調的に活動しているため,骨盤底筋だけでなく腹横筋,多裂筋および横隔膜の活動についても考慮した筋の評価が必要であると考える。そこで本研究では,腹圧性尿失禁とインナーユニットの関係を明らかとし,理学療法を提供する際の一助とすることを目的とした。
【方法】
対象は介護予防教室に参加している高齢女性41名とした。質問紙調査にて尿失禁群と非尿失禁群に群分けを行った。測定項目は腹横筋厚,多裂筋横断面積,骨盤底拳上量,握力,CS30とした。腹横筋,多裂筋および骨盤底筋の測定動作課題は,①安静側臥位,②腹横筋の収縮,③骨盤底筋群の収縮,④腹横筋および骨盤底筋の同時収縮(以下,同時収縮),⑤同時収縮+抵抗運動(以下,抵抗運動)の5動作とした。測定には超音波画像診断装置を用い,横隔膜が上方に上がる呼気時に3回測定し,その平均を代表値とした。なお,骨盤底拳上量は膣圧との相関関係が明らかとなっており,骨盤底筋機能評価法としての妥当性がすでに示されている。全ての測定は,側臥位にて通常呼吸を行うよう指示し,測定は統計学的手法には測定の信頼性は級内相関係数ICC(1. 1)を用い,群間による差の比較には対応のないt検定,各測定項目の相関はPearsonの積率相関係数を用いた。いずれの検定も有意水準は5%未満とした。
【結果】
各測定のICCは0.75~0.98であった。群間の比較では腹横筋厚,骨盤底挙上量および多裂筋横断面積において④,⑤で尿失禁群は非尿失禁群に比べ有意に低値を示した。握力,CS30では群間による差はみられなかった。各測定項目間の相関では,骨盤底拳上量と腹横筋厚および多裂筋横断面積の相関係数はr=0.721(p=0.01),r=0.636(p=0.01)と正の相関を示した。また多裂筋と腹横筋においてもr=0.717と正の相関関係を示した。握力,CS30と各筋との間に相関関係はみられなかった。
【考察】
先行研究によると,ICCは0.70以上であれば信頼性は良好とされている。本研究では,各運動課題時における各筋の測定信頼性は0.75以上であり超音波画像診断装置を用いた各筋の測定方法の信頼性が高いことが示唆された。各運動課題においては,④と⑤で尿失禁群の値が有意に低値であったことから,非尿失禁群に比べ尿失禁群ではインナーユニット全体の筋活動が低下していることが考えられる。さらに,インナーユニット間に相関関係がみられたことよりインナーユニットは相互に関係し合いながら共同運動していることが示唆された。したがって,インナーユニットの機能低下は腹圧性尿失禁と関連性があることが推察される。これらのことから,尿失禁に対する理学療法を処方する際は,骨盤底筋だけでなく多裂筋および腹横筋を含めた多角的な評価・治療が必要であると考える。握力,CS30は全身の健康状態や筋力を反映すると報告されているが,尿失禁との関連性は低いことが示唆された。
【理学療法学研究として意義】
従来の尿失禁体操は骨盤底筋のみの収縮に焦点を当てるものが主であった。しかし,骨盤底筋はインナーユニットの一部として共同運動をしていることが示唆されたため,尿失禁体操の効果をより向上させる為には,骨盤底筋を含めたインナーユニットを同時収縮させることがより有効であると考えられる。
尿失禁は,女性の生活の質に深刻な影響を及ぼす要因であるとは社会的にも周知されている。尿失禁の多くは腹圧性尿失禁であり治療・改善に向けた骨盤底筋体操が広く知られている。しかし,骨盤底筋は体の深部にあり収縮が自覚しづらく体操が習慣化できないという問題が報告されている。近年,骨盤底筋群に対して研究が進み,インナーユニットとして骨盤底筋群,腹横筋,多裂筋および横隔膜が体幹部の安定性に関与するとの報告がなされている。インナーユニットは腹部全体をコルセット状に包んでいる深層筋で,腹壁を凹ませ腹腔を狭小化し,体幹筋と共同しながら腹圧を調節している。Sapsfordは,骨盤底筋は単独では働かず骨盤底筋を収縮させると腹部筋が収縮し,腹部筋の収縮により骨盤底筋も活性化されると指摘している。さらに,骨盤底筋と腹横筋の同時収縮によるエクササイズ後に腹圧性尿失禁が改善したことを報告している。また犬飼らは,腹横筋は単独で活動性が増加するのではなく,多裂筋などの体幹伸筋群と共同的に収縮することで下部体幹の安定性に関与すると報告している。インナーユニットは鍵となる4つの筋群が協調的に活動しているため,骨盤底筋だけでなく腹横筋,多裂筋および横隔膜の活動についても考慮した筋の評価が必要であると考える。そこで本研究では,腹圧性尿失禁とインナーユニットの関係を明らかとし,理学療法を提供する際の一助とすることを目的とした。
【方法】
対象は介護予防教室に参加している高齢女性41名とした。質問紙調査にて尿失禁群と非尿失禁群に群分けを行った。測定項目は腹横筋厚,多裂筋横断面積,骨盤底拳上量,握力,CS30とした。腹横筋,多裂筋および骨盤底筋の測定動作課題は,①安静側臥位,②腹横筋の収縮,③骨盤底筋群の収縮,④腹横筋および骨盤底筋の同時収縮(以下,同時収縮),⑤同時収縮+抵抗運動(以下,抵抗運動)の5動作とした。測定には超音波画像診断装置を用い,横隔膜が上方に上がる呼気時に3回測定し,その平均を代表値とした。なお,骨盤底拳上量は膣圧との相関関係が明らかとなっており,骨盤底筋機能評価法としての妥当性がすでに示されている。全ての測定は,側臥位にて通常呼吸を行うよう指示し,測定は統計学的手法には測定の信頼性は級内相関係数ICC(1. 1)を用い,群間による差の比較には対応のないt検定,各測定項目の相関はPearsonの積率相関係数を用いた。いずれの検定も有意水準は5%未満とした。
【結果】
各測定のICCは0.75~0.98であった。群間の比較では腹横筋厚,骨盤底挙上量および多裂筋横断面積において④,⑤で尿失禁群は非尿失禁群に比べ有意に低値を示した。握力,CS30では群間による差はみられなかった。各測定項目間の相関では,骨盤底拳上量と腹横筋厚および多裂筋横断面積の相関係数はr=0.721(p=0.01),r=0.636(p=0.01)と正の相関を示した。また多裂筋と腹横筋においてもr=0.717と正の相関関係を示した。握力,CS30と各筋との間に相関関係はみられなかった。
【考察】
先行研究によると,ICCは0.70以上であれば信頼性は良好とされている。本研究では,各運動課題時における各筋の測定信頼性は0.75以上であり超音波画像診断装置を用いた各筋の測定方法の信頼性が高いことが示唆された。各運動課題においては,④と⑤で尿失禁群の値が有意に低値であったことから,非尿失禁群に比べ尿失禁群ではインナーユニット全体の筋活動が低下していることが考えられる。さらに,インナーユニット間に相関関係がみられたことよりインナーユニットは相互に関係し合いながら共同運動していることが示唆された。したがって,インナーユニットの機能低下は腹圧性尿失禁と関連性があることが推察される。これらのことから,尿失禁に対する理学療法を処方する際は,骨盤底筋だけでなく多裂筋および腹横筋を含めた多角的な評価・治療が必要であると考える。握力,CS30は全身の健康状態や筋力を反映すると報告されているが,尿失禁との関連性は低いことが示唆された。
【理学療法学研究として意義】
従来の尿失禁体操は骨盤底筋のみの収縮に焦点を当てるものが主であった。しかし,骨盤底筋はインナーユニットの一部として共同運動をしていることが示唆されたため,尿失禁体操の効果をより向上させる為には,骨盤底筋を含めたインナーユニットを同時収縮させることがより有効であると考えられる。