第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述61

身体運動学5

Sat. Jun 6, 2015 12:30 PM - 1:30 PM 第12会場 (ガラス棟 G701)

座長:吉崎邦夫(郡山健康科学専門学校 理学療法学科)

[O-0459] 強制呼気筋の強度別筋活動パターンの解明

無作為割付,シングルブラインドによる検討

大木敦司1, 松中千明2, 野中紘士3, 伊藤健一3 (1.関西電力病院リハビリテーション科, 2.岩国市医療センター医師会病院リハビリテーション部, 3.大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)

Keywords:呼気筋, 腹筋群, 表面筋電図

【はじめに】誤嚥性肺炎の予防として呼気筋トレーニングの重要性が指摘されると同時に呼気筋力向上と喀出能力や嚥下機能との関連が報告されている。しかし,強制呼気時に腹筋群のうちどの筋が,どの程度関与するのかは明らかになっていない。本研究の目的は,強制呼気における腹直筋(RA),外腹斜筋(EO),内腹斜筋(IO)各々の筋活動量と,臨床場面を想定した強度での強制呼気による腹筋群各々の筋活動パターンを明らかにすることである。
【方法】対象者は健常若年者42名である。全対象者でスパイロメータを用い,最大呼気口腔内圧(100%PEmax),およびその際のRA,EO,IOの筋活動量を無線式筋電図計測装置TELEMYO G2で測定した。その後,対象者を30%PEmax群,20%PEmax群,10%PEmax群の3群に無作為に割り付け,各群定められた強度での強制呼気を行い,その際のRA,EO,IOの筋活動量を測定した。最後にRA,EO,IOそれぞれの最大随意収縮(MVC)を測定した。記録された表面筋電図のデータはMyoResearch XPを用い,データ処理を行った。サンプリング周波数は1000 Hzとし,記録された波形に10~1000 Hzのバンドパスフィルタをかけ,全波整流を行った。分析の対象区間は,100%PEmax,30%PEmax,20%PEmax,10%PEmaxでは,呼気5秒間のうち開始から3秒間とした。MVCでは,抵抗開始1秒後から3秒間とした。それら3秒間において,呼気時の筋活動量の割合をMVC時の筋活動量の割合で除した値を算出し,%MVCとした。各筋電図において0.7 msecごとの%MVCの平均値を算出し,比較した。各群間における筋活動量の比較検討にはKruskal-Wallis検定を用い,有意差を認めた場合には,Bonferoniの多重比較検定を用いた。いずれも危険率5%未満(p<0.05)をもって有意差ありと判定した。なお,解析にはPASW statics 18を用いた。
【結果】対象者のうち,肺活量がBaldwin式の80%未満に該当した2名を除いた40名が解析対象となった。100%PEmax時のRA,EO,IOそれぞれの筋活動量(%MVC)は6.19±5.72,33.09±20.55,49.58±32.18であった。30%PEmax時のRA,EO,IOそれぞれの筋活動量は2.47±1.56,9.90±6.10,14.25±7.91であった。20%PEmax時のRA,EO,IOそれぞれの筋活動量は1.72±1.56,5.36±4.74,6.52±5.64であった。10%PEmax時のRA,EO,IOそれぞれの筋活動量は1.56±1.56,2.90±1.56,2.78±2.18であった。100%PEmaxにおいてRAと比較してEOとIOの筋活動量が有意に高値を示し(p<0.01),その中でもIOの筋活動量が最も高値を示した(p<0.01)。また,30%PEmaxの強度でも同様にIOの筋活動量が最も高値を示し(p<0.01),20% PEmaxも同様であった(p<0.05)。10%PEmax間でそれぞれの筋の筋活動量に有意差は認められなかった。IOに着目すると,呼気強度別の筋活動パターンは20%PEmax-10%PEmax間で有意差は認めず,30%PEmax-20%PEmax間で30%PEmax時の筋活動量が高値を示した(p<0.01)。
【考察】強制呼気時にRAの筋活動量がEOと比較して有意に低値を示すと報告されている。本研究ではIOの筋活動量も測定しており,EOよりIOが強い筋活動量を示すことが明らかとなった。さらに,100%PEmax時のみでなく,30%PEmax,20%PEmaxの臨床場面を想定した強度でも同様の傾向が認められた。このことから,強制呼気時にはEOとIO,その中でもIOが活動することが示された。さらに,30%PEmaxは呼気筋トレーニングで利用されている負荷圧と同等であるが,筋活動量はIOで最大筋力の15%に満たないものであった。そのため,呼気筋トレーニングの負荷圧設定としては,さらに増大させたものを検討する必要があると示唆された。強制呼気を行うには胸腔内を狭小させる必要がある。そのためには,胸肋関節と肋横関節を結ぶ線を軸としたバケツハンドル様の動きが必要である。この動きは,鉛直方向に走行するRAでは生じにくいと考えられる一方で,上外側から正中に向かって斜方向に走行するEOとIOは最も都合の良い付き方をしていると考えられる。そのため,本研究では強制呼気時にはEOとIOの筋活動量が高値を示し,特に深層に位置するIOの活動が高値を示したと推察された。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果より,強制呼気時には腹筋群のうちIOが最も活動量が多いことが明らかとなった。加えて,30%PEmaxは呼気筋トレーニングの負荷圧としては不十分であることが明らかとなった。これらのことは,より効率の良い呼気筋トレーニングプログラムの開発における基礎データを教示するものである。