[O-0461] 自動での座位側方重心移動運動で頸部・体幹の立ち直り反応は起こるのか
キーワード:自動運動, 重心移動, 立ち直り反応
【はじめに,目的】
臨床において,座位で重心を側方へ移動させ,頭部と体幹を垂直に保持するよう指示する運動が頻繁に用いられている。これは,座面が傾斜した場合や,腕を側方へ引かれた場合に,頭部と体幹が地面に対して垂直を保つという立ち直り反応が根拠になっていると考えられる。しかし,これらは自動運動ではなく,他動的に座面が傾斜した場合や,他者から外乱を加えられた場合に見られる反応であり,自動運動において出現する反応であるのか明らかにされていない。
そこで本研究は,健常者において,自動での座位側方重心移動運動で,頸部と体幹が垂直を保つような反応,つまり立ち直り反応が出現するか否かを検証し,この運動の臨床的意義を見直すことを目的とした。
【方法】
対象者は若年健常女性20名とし,理学療法・作業療法の知識を有する者は除外した。
座位側方重心移動運動の開始肢位は,上肢を胸の前で組み,足底を接地しない端座位とし,前方を注視させた。身体指標として,両耳垂,第7頸椎棘突起(以下,C7),両肩峰,両上後腸骨棘(以下,PSIS)にマーカーを貼付した。両耳垂を結ぶ線と床面のなす角度を頸部傾斜角度,両肩峰を結ぶ線と床面のなす角度を体幹傾斜角度,両PSISを結んだ線と床面のなす角度を骨盤傾斜角度とし,移動側への傾斜を+,反対側への傾斜を-とした。また,頸部傾斜角度と骨盤傾斜角度の差を骨盤に対する頸部の立ち直り角度,体幹傾斜角度と骨盤傾斜角度の差を骨盤に対する体幹の立ち直り角度とそれぞれ定義した。立ち直り角度の値が0°以下のとき,骨盤に対して頸部・体幹の立ち直り反応が出現していることを意味する。
対象者には,まず,課題①として,条件を課さずに可能な限り側方へ重心移動運動を行わせた。次に,課題②として,移動側とは反対側の殿部下に厚さ2.5cmの板を置き,その板から殿部を挙上させ,骨盤の傾斜を強調させた状態から,可能な限り側方へ重心移動運動を行わせた。両課題とも最大側方移動した状態で5秒間静止させ,運動中は前方の注視と可能な限り体幹回旋が起こらないよう指示した。各課題前に1回ずつ練習動作を行わせた。
両課題とも左右へ3回ずつ重心移動運動を行い,対象者の後方3mの位置からデジタルビデオカメラで撮影した。試技3回のうち,最もC7が側方へ移動した状態を最大側方移動とし,その際の画像を画像処理ソフトウェア(ImageJ)に取り込み,頸部・体幹・骨盤の各傾斜角度と頸部・体幹の各立ち直り角度を求めた。
統計処理として,課題①と課題②の各傾斜角度と頸部・体幹の立ち直り角度の比較については,対応のあるt検定を用いた。全ての統計解析にはSPSS Ver. 22.0を用い,危険率5%未満を有意とした。
【結果】
対象者の年齢は26.7±4.8歳であった。座位側方重心移動運動の頸部傾斜角度は課題①で34.4±15.6°,課題②で25.9±14.1°,体幹傾斜角度は課題①で34.4±10.3°,課題②で27.4±8.6°,骨盤傾斜角度は課題①で24.6°±8.8°,課題②で30.8±6.5°であった。頸部の立ち直り角度は課題①で9.7±17.2°,課題②で-4.8±15.7°,体幹の立ち直り角度は課題①で9.8±11.8°,課題②で-3.4±10.5°であった。また,課題①と比較し,課題②では頸部・体幹傾斜角度が有意に低値を示し(p<0.01),骨盤傾斜角度が有意に高値を示した(p<0.01)。同様に,課題①と比較し,課題②では骨盤に対する頸部・体幹の立ち直り角度が有意に低値を示した(p<0.01)。
【考察】
座位における立ち直り反応は,頸部・体幹が座面の傾斜に関わらず地面に対して垂直を保つと報告されている。しかし,課題①の頸部・体幹傾斜角度はともに34.4°,課題②の頸部傾斜角度は25.9°,体幹傾斜角度は27.4°であった。つまり,両課題とも頸部・体幹が垂直を保つような立ち直り反応は出現しなかった。
ただし,課題①と課題②の比較から,移動側への骨盤の傾斜を強調させると,頸部・体幹傾斜角度は有意に低値を示した。また,課題①と課題②の比較から,課題②の頸部・体幹の立ち直り角度は有意に低値を示し,その値は0°以下であった。つまり,自動での座位側方重心移動運動で頸部・体幹の立ち直り反応を促す場合は,骨盤の傾斜を強調するべきだと示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
自動での座位側方重心移動運動で起こる頸部・体幹の立ち直り反応を検証し,運動療法として取り入れる際の一指標となった。
臨床において,座位で重心を側方へ移動させ,頭部と体幹を垂直に保持するよう指示する運動が頻繁に用いられている。これは,座面が傾斜した場合や,腕を側方へ引かれた場合に,頭部と体幹が地面に対して垂直を保つという立ち直り反応が根拠になっていると考えられる。しかし,これらは自動運動ではなく,他動的に座面が傾斜した場合や,他者から外乱を加えられた場合に見られる反応であり,自動運動において出現する反応であるのか明らかにされていない。
そこで本研究は,健常者において,自動での座位側方重心移動運動で,頸部と体幹が垂直を保つような反応,つまり立ち直り反応が出現するか否かを検証し,この運動の臨床的意義を見直すことを目的とした。
【方法】
対象者は若年健常女性20名とし,理学療法・作業療法の知識を有する者は除外した。
座位側方重心移動運動の開始肢位は,上肢を胸の前で組み,足底を接地しない端座位とし,前方を注視させた。身体指標として,両耳垂,第7頸椎棘突起(以下,C7),両肩峰,両上後腸骨棘(以下,PSIS)にマーカーを貼付した。両耳垂を結ぶ線と床面のなす角度を頸部傾斜角度,両肩峰を結ぶ線と床面のなす角度を体幹傾斜角度,両PSISを結んだ線と床面のなす角度を骨盤傾斜角度とし,移動側への傾斜を+,反対側への傾斜を-とした。また,頸部傾斜角度と骨盤傾斜角度の差を骨盤に対する頸部の立ち直り角度,体幹傾斜角度と骨盤傾斜角度の差を骨盤に対する体幹の立ち直り角度とそれぞれ定義した。立ち直り角度の値が0°以下のとき,骨盤に対して頸部・体幹の立ち直り反応が出現していることを意味する。
対象者には,まず,課題①として,条件を課さずに可能な限り側方へ重心移動運動を行わせた。次に,課題②として,移動側とは反対側の殿部下に厚さ2.5cmの板を置き,その板から殿部を挙上させ,骨盤の傾斜を強調させた状態から,可能な限り側方へ重心移動運動を行わせた。両課題とも最大側方移動した状態で5秒間静止させ,運動中は前方の注視と可能な限り体幹回旋が起こらないよう指示した。各課題前に1回ずつ練習動作を行わせた。
両課題とも左右へ3回ずつ重心移動運動を行い,対象者の後方3mの位置からデジタルビデオカメラで撮影した。試技3回のうち,最もC7が側方へ移動した状態を最大側方移動とし,その際の画像を画像処理ソフトウェア(ImageJ)に取り込み,頸部・体幹・骨盤の各傾斜角度と頸部・体幹の各立ち直り角度を求めた。
統計処理として,課題①と課題②の各傾斜角度と頸部・体幹の立ち直り角度の比較については,対応のあるt検定を用いた。全ての統計解析にはSPSS Ver. 22.0を用い,危険率5%未満を有意とした。
【結果】
対象者の年齢は26.7±4.8歳であった。座位側方重心移動運動の頸部傾斜角度は課題①で34.4±15.6°,課題②で25.9±14.1°,体幹傾斜角度は課題①で34.4±10.3°,課題②で27.4±8.6°,骨盤傾斜角度は課題①で24.6°±8.8°,課題②で30.8±6.5°であった。頸部の立ち直り角度は課題①で9.7±17.2°,課題②で-4.8±15.7°,体幹の立ち直り角度は課題①で9.8±11.8°,課題②で-3.4±10.5°であった。また,課題①と比較し,課題②では頸部・体幹傾斜角度が有意に低値を示し(p<0.01),骨盤傾斜角度が有意に高値を示した(p<0.01)。同様に,課題①と比較し,課題②では骨盤に対する頸部・体幹の立ち直り角度が有意に低値を示した(p<0.01)。
【考察】
座位における立ち直り反応は,頸部・体幹が座面の傾斜に関わらず地面に対して垂直を保つと報告されている。しかし,課題①の頸部・体幹傾斜角度はともに34.4°,課題②の頸部傾斜角度は25.9°,体幹傾斜角度は27.4°であった。つまり,両課題とも頸部・体幹が垂直を保つような立ち直り反応は出現しなかった。
ただし,課題①と課題②の比較から,移動側への骨盤の傾斜を強調させると,頸部・体幹傾斜角度は有意に低値を示した。また,課題①と課題②の比較から,課題②の頸部・体幹の立ち直り角度は有意に低値を示し,その値は0°以下であった。つまり,自動での座位側方重心移動運動で頸部・体幹の立ち直り反応を促す場合は,骨盤の傾斜を強調するべきだと示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
自動での座位側方重心移動運動で起こる頸部・体幹の立ち直り反応を検証し,運動療法として取り入れる際の一指標となった。