第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述62

生体評価学3

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM 第8会場 (ガラス棟 G402)

座長:河野一郎(九州大学病院 リハビリテーション)

[O-0475] 変形性股関節症患者におけるリアルタイム加速度歩行分析システムの臨床的有用性

大坂裕, 藤田大介, 小原謙一, 吉村洋輔, 伊藤智崇, 末廣忠延, 渡邉進 (川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科)

Keywords:加速度, リアルタイム解析, 変形性股関節症

【はじめに,目的】
加速度計を用いた歩行分析は,身体背面に加速度計を装着し歩行中の体幹加速度を測定することにより,近似的に身体重心の挙動をとらえることができ,三次元動作解析装置などの大規模な機器を用いた歩行分析に比較して安価で簡便に計測できるという利点がある。演者らは,加速度計を用いた歩行分析の利点を高めるため,計測と同時に解析結果が算出可能なリアルタイム加速度歩行分析システム(以下,本システム)を構築した。本システムは,測定した歩行中の体幹加速度信号から,バランス能力や転倒と関連のある歩行指標をリアルタイムに算出することが可能である。演者らの先行研究(Osakaら,2014)において,本システムによる歩行計測は,良好な検者内および検者間信頼性を有していることが示された。次の段階として,本システムを用いて実際の症例の歩行を計測して臨床的有用性の検討を行う必要があると考える。変形性股関節症(Hip Osteoarthritis:以下,股OA)患者の人工股関節形成術(Total Hip Arthroplasty:以下,THA)前後の歩容の変化を検討した先行研究では,THA前に比べTHA後に歩行時体幹加速度から算出した歩行対称性を示す指標の有意な改善が示されている(松原ら,2006.Hodt-Billingtonら,2011)。これらの先行研究では,いずれも計測後に解析を行うオフライン解析による算出を行っており,リアルタイム解析を行う本システムを用いた計測において先行研究と同様の結果が得られれば,本システムの臨床的有用性が示されると考える。本研究は,構築した本システムを用いて股OA患者を対象に,THA前後の歩容の変化を評価することにより,本システムの臨床的有用性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,某大学病院にTHA施行目的で入院中の股OA患者12人(平均年齢61.3±7.7歳,全例女性)であった。本システムは,加速度計,加速度アンプ,送信機,フットスイッチからなる送信ユニットと,受信機,リアルタイム加速度解析ソフトウェアを搭載したパーソナルコンピュータで構成されており,加速度信号とフットスイッチ信号がワイヤレス通信にて受信される。受信した歩行時の体幹加速度信号を基に,フットスイッチ信号により歩行周期を同定し,歩行の動揺性を表すRoot Mean Square(RMS),歩行の規則性を表すStride Regularity(SR),歩行の左右対称性を表すStep Symmetry(SS)の3つの歩行指標を計測と同時に算出した。3つの歩行指標は,それぞれ鉛直,前後,左右方向の3つの方向成分においてそれぞれ算出した。対象者に送信ユニットを装着し,約15mの歩行路にて快適歩行を行わせ,定常歩行状態の体幹加速度を測定することで,歩行指標を算出した。歩行計測は,THA施行前日(THA前),THA施行後7日目(THA後1週間),THA施行後14日目(THA後2週間)の3回実施した。THA前,THA後1週間,THA後2週間における歩行指標を反復測定の一元配置分散分析にて比較し,多重比較検定としてTukey法を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
歩行時体幹加速度から算出される歩行指標について,RMSとSRはいずれの方向成分においてもTHA前,THA後1週間,THA後2週間の間で有意な差を認めなかった。SSの前後方向成分は3つの時期の間において有意差を認めなかったが,SSの鉛直と左右方向成分はTHA前と比較しTHA後2週間に有意な増加を認めた。
【考察】
歩行の動揺性を示すRMSと規則性を示すSRは,THA前と比較してTHA後に改善を認めなかった。相賀ら(2011)は,股OA患者の股関節外転・内転,膝関節屈曲・伸展筋力はTHA後1週間においてTHA前より低下すると述べており,歩行時体幹加速度から算出されたRMSとSRの値に影響を与えたと考える。歩行の対称性を示す指標であるSSは,鉛直と左右方向成分にてTHA前と比較しTHA後2週間に有意な増加を認めており,歩行対称性の改善が得られたと考えられる。歩行対称性の改善は,オフライン解析を用いた先行研究と同様の結果を示し,本システムを用いることで,股OA患者のTHA前後の歩行能力の変化を客観的に捉えることが可能であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究では,構築した本システムにて股OA患者のTHA前後における歩行を計測した結果,オフライン解析による先行研究と同様に歩行の対称性の改善を検出可能であった。股OA患者に対する本システムを用いた歩行計測は,客観的に歩行能力の改善を検出できる点で臨床的に有用であり,客観的な歩行分析に寄与できる点で意義があると考える。