第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述63

循環1

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:櫻田弘治(群馬県立小児医療センター リハビリテーション課), 井澤和大(神戸大学大学院 保健学研究科)

[O-0476] 当院における重症下肢虚血患者の下肢切断部位と歩行能力の影響

松本純一1, 久保和也1, 松本拓也1, 榊聡子1, 山崎知美2, 坂元博3, 寺部雄太4, 大平吉夫5, 安藤弘3 (1.IMS(イムス)グループ春日部中央総合病院リハビリテーション科, 2.IMS(イムス)グループ春日部中央総合病院看護部, 3.IMS(イムス)グループ春日部中央総合病院循環器科, 4.埼玉医科大学病院形成外科・美容外科, 5.日本フットケアサービス株式会社)

Keywords:末梢循環障害, 切断, 歩行

【はじめに,目的】
糖尿病患者や末梢動脈疾患(peripheral arterial disease;以下PAD)が重症化すると,下肢末梢の難治性潰瘍や壊疽が生じる。下肢創傷に対する治療として切断術施行となることは少なくない。重症下肢虚血(critical limb ischemia;以下CLI)患者の切断後の歩行能力を検討した報告は稀少であり,辻らは,趾切断患者の歩行維持率は98%,中足骨切断患者76%,ショパール離断患者42%,下腿切断患者24%,大腿切断群0%と報告した。
当院では循環器医,形成外科医,皮膚・排泄ケア認定看護師,義肢装具士,理学療法士によるチームを構成し,切断部位を最小限とするとともに,切断後の歩行能力再獲得を目指し,積極的なリハビリテーション介入を実践している。
今回,CLIにて下肢切断術,腐骨摘出術施行となった患者の歩行能力の維持率および再獲得率を調査することを目的とした。
【方法】
対象は,平成22年4月から平成26年10月にCLIと診断され,循環器科に入院,血管内治療,下肢創傷治療,下肢切断術を施行した患者109例とした。
調査項目は,年齢,性別,body mass index,併存疾患(心疾患の有無,糖尿病の有無,維持透析の有無),切断部位,入院時皮膚灌流圧,入院時血液検査,免荷期間(入院日-荷重開始許可日),入院前歩行能力,切断後歩行能力,リハビリテーション介入の有無を診療録より後方視的に調査した。
歩行能力は,先行研究に準じ,独歩,補助具使用下での歩行,車椅子レベル,寝たきりレベルの4段階で評価し,独歩,補助具使用下での歩行が可能であれば,歩行可能とした。
収集した情報を切断レベルごとに分類し,入院前と切断後の歩行能力,免荷期間を調査した。入院前歩行可能は,当院の入院直前に歩行可能であった症例とした。歩行維持率は,先行研究に準じ,切断レベルごとに,入院前歩行可能であった症例のうち,歩行可能であった症例の割合を算出した。また,歩行再獲得は切断後から当院退院までの期間に歩行可能となった症例とし,歩行再獲得率(切断後歩行可能/入院前歩行可能)を算出した。
【結果】
歩行維持率は,切断なし群は37例で96.2%,免荷期間15.2±22.2日であった。趾切断群は32例で95.7%,免荷期間28.9±34.4日であった。中足骨切断群は17例で81.8%,免荷期間33.1±32.8日であった。リスフラン離断群は2例とも歩行困難であったため除外した。ショパール離断群は9例で80%,免荷期間は100.4±79.7日であった。下腿切断群は10例で40%,免荷期間86.0±56.8日であった。大腿切断群は2例,50%,免荷期間は100日であった。
歩行再獲得率は,切断なし群104%,趾切断群100%,中足骨切断群100%であった。ショパール離断群80%,下腿切断群80%,大腿切断群は50%であった。
全症例が,リハビリテーションを実施していた。
【考察】
CLI患者の創傷治療において,免荷は必須である。免荷により歩行能力は低下し,免荷期間の延長は廃用症候群を惹起する。当院においても辻らの報告と同様に近位の切断になるにつれ,歩行維持率は低下した。TASCII(Inter-Sosiety Consensus for the Management of Peripheral Arterial Disease)では,CLIと診断された患者は生命および下肢残存の予後が不良であると報告している。CLI患者は,心血管系イベントを発症しやすい一方で,切断患者は義足装着によるエネルギー消費量は,近位切断になるにつれ,増大することが義足歩行の獲得率を低下させる要因となると考える。
今回は歩行再獲得率を算出したため,入院時に歩行困難であった症例が,切断後に装具や義足を作製し,リハビリテーションを実施し,歩行が可能となった症例の存在が明らかとなった。切断術後の患者は荷重および歩行時には患者個々に合った義足や装具の使用が必要不可欠であり,免荷期間中も廃用症候群を予防する必要がある。また理学療法士のみならず,医師,看護師,義肢装具士とのチーム医療としてのリハビリテーション介入が,CLI患者の歩行維持率および再獲得率の向上に有効となることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
CLI患者の救肢が増える中で,より機能的な日常生活活動やQOLの向上を図るため,理学療法士の需要は増加すると考える。本研究は,CLIによる下肢切断患者の機能的予後を検討するための基礎的データとなると考える。