第50回日本理学療法学術大会

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口述

口述63

循環1

Sat. Jun 6, 2015 1:50 PM - 2:50 PM 第9会場 (ガラス棟 G409)

座長:櫻田弘治(群馬県立小児医療センター リハビリテーション課), 井澤和大(神戸大学大学院 保健学研究科)

[O-0478] 中等量のステロイドに治療抵抗性を示した高齢ネフローゼ症候群2症例に対する運動療法介入の安全性と有効性について

藤田唯, 岩井宏治, 有吉直弘 (滋賀医科大学医学部附属病院リハビリテーション部)

Keywords:ネフローゼ症候群, 高齢, 運動

【はじめに,目的】
ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿,低アルブミン血症を呈する腎臓疾患の総称である。近年,慢性腎臓病(CKD)患者に対する持続的な運動はADLやQOLを向上させ生命予後を改善させることが報告されているが,ネフローゼ症候群における運動療法の効果についての報告は少ない。ネフローゼ症候群診療ガイドライン2014においても,運動を制限することは推奨されないとされる程度で十分なエビデンスは示されていないのが現状である。本研究では,中等量の副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)に抵抗性を示した高齢ネフローゼ症候群2症例に対し運動療法介入における有効性と安全性について検討した。
【方法】
初発のネフローゼ症候群により入院加療となった80歳代男性2症例を対象とした。2症例に対して理学療法(PT)開始時に心肺運動負荷試験(CPX)を実施した。CPXは医師立ち会いのもと,下肢エルゴメーター,呼気ガス分析装置を使用しRamp10で実施した。入院中の理学療法は,初期評価で測定した嫌気性代謝閾値(AT)を参考に週5回,有酸素運動とレジスタンストレーニングを中心に実施した。PT開始後4週間目に再度CPXを行い,運動耐容能の再評価を行った。腎機能は,生化学検査からeGFR,Cr,UN,尿検査より尿蛋白の値をカルテより調査した。
症例1は入院後25日目よりPTを開始した。PT開始時腎機能はeGFR49.5,Cr1.08mg/dl,UN23.5mg/dl,尿蛋白9.72g/gCrであり,プレドニン20mg/day,ブレディニン150mg内服中であった。症例2は入院後15日目よりPT開始した。PT開始時腎機能はeGFR58.1,Cr0.95mg/dl,UN12.3mg/dl,尿蛋白10.48g/gCrであり,プレドニン30mg/day内服中であった。2症例ともステロイド開始後,尿蛋白は目標値まで減少せず,主治医により治療抵抗性ありと判断された。
【結果】
症例1のATは初期評価2.64METsから再評価3.23METsへ向上した。PT介入期間中の腎機能はeGFR44.5~52.1,Cr1.03~1.19mg/dl,UN21.2~24.2mg/dl,尿蛋白は8.29~11.78 g/gCrであり悪化は認めなかった。症例2のATは初期評価2.28METsから再評価2.21METsと変化しなかった。腎機能はeGFR54.4~69.2,Cr0.81~1.01 mg/dl,UN12.3~21.3mg/dl,尿蛋白は4.18~6.58 g/gCrであり悪化は認めなかった。
PT介入期間中,2症例ともに腎機能悪化は認めず運動耐容能は維持または向上を認めた。
【考察】
近年,CKD患者に対する中等度の運動は,尿蛋白や腎機能へ影響を与えないことは多くの先行報告において示されており,ネフローゼ症候群における運動療法も,一般的にはCKD患者の指標に準じて行うことが勧められている。しかし,ネフローゼ症候群の治療抵抗性患者に対する運動療法の効果や腎機能への影響についての検討はなされていない。本研究で示した2症例はともにステロイド治療に対して抵抗性を示し,尿蛋白減少には至らなかった。しかし,腎機能についてはPT期間中,eGFR,Cr,UNともに悪化をすることなく経過した。CKD患者に対する先行報告と同様に,高齢ネフローゼ症候群患者に対しても,ATレベルでの運動療法は腎機能を悪化させないことが示唆された。また,運動耐容能については症例1では向上を認めたが症例2では維持レベルであった。ステロイド治療抵抗性を示す高齢ネフローゼ症候群においても,運動療法介入により運動耐容能が維持・改善する可能性が示唆された。今回,運動耐容能が改善した症例1と維持レベルにとどまった症例2ではリハビリ時間以外の活動量に差があったことが一要因と考えられるが,今後症例数を増やし検討する必要があると考える。
ステロイドに抵抗性を示す高齢のネフローゼ症候群に対する適切な運動強度での運動は,腎機能を悪化させることなく運動耐容能を維持・向上させる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
中等量のステロイドに抵抗性を示す高齢ネフローゼ症候群においても,運動療法は腎機能の悪化に影響せず,運動耐容能を維持・向上できる可能性が示唆された。